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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第四章
44/71

42.突入

 ――――それから三日後。


 街から半日の距離に三日掛かったということから、現れた敵の多さが分かるだろう。討伐に二日、補給と休息に一日を費やし、ようやく一団はフリグスの街を囲う城壁手前まで歩みを進めた。少し先に見える城壁の門は硬く閉ざされているようだ。


「魔法兵! 信号弾放て!」


 指揮官の指示により一発の光の玉が上空に打ち上げられ瞬いた。その光は昼間でも十分見える明るさだ。

 この信号を合図に内部の工作員が門を開ける手はずになっている。


「…………」


 門に変化は無い。それどころか城壁の上に人の気配がない。通常は必ず監視の人員が配置されているのにも関わらず。


「……もう一度だ」


 たっぷり時間を空けてもう一度、指揮官が信号弾を放つ指示を出す。

 魔法兵が信号弾を放つため杖を上空に向けたその時、城壁の上に変化があった。


「んっ? 見張りの兵か? いや、違う! 魔物だ! 前衛盾構え! 戦闘用意!」


 城壁の上に現れたのは小鬼(ゴブリン)大鬼(オーク)であった。手には弓や石、岩などを持っている。

 兵たちが魔物に占拠された城壁に唖然としていると、後方から斥候が息も絶え絶え報告に走ってきた。


「報告! 後方から魔獣の大軍! このままでは挟み撃ちされます!」

「何だと……くっ、前衛の半分を後方に配置、後衛も半分を城壁、半分を後方に分けろ! 急げ!」


 前方は強固な城壁に守られた街、後方は魔物化したイノシシやオオカミ、クマなど魔獣が押し寄せてくる。このままでは城壁と魔獣の大軍で挟撃されてしまう。


「このままでは撤退もできん! 弓兵、魔法兵は城壁上の魔物と門を狙え。 門を破り街に突入する!」


 開けた場所で無秩序な魔獣の大軍を相手にするのは分が悪い。指揮官は一縷(いちる)の望みを掛けて街に突入して城壁を奪還、城壁を使って殲滅する決意を固めた。


 キィンキィン――――

 ドゴッ――――


 戦端が開かれた。後方からといっても魔獣は全方位から襲ってくる。それを前衛が円陣を組むようにして食い止めながら、後衛である弓兵と魔法兵が攻撃を加える。


 ヒュッ、ヒュッ――――

 カン、カン――――


 小鬼(ゴブリン)大鬼(オーク)が放つ矢や石が鎧に当たる音がする。一つ一つは大した威力は無いが、如何せん城壁の上という高所から放たれているため、当たり所が悪ければ致命傷になりかねない。

 こちらからの魔法や矢も城壁の縁が邪魔になり思うように敵を減らすことができない。

 城門に関しては特に頑丈にできているため、何発も魔法が命中しているが、やや距離があるせいか傷は付けれど破壊には至っていない。


「マイズさん! 上級の勇者魔法を放ちます。魔獣の大軍はまずい!」

「いけません、勇者様! それを使えば動けなくなるのですよね? まだ我々帝国軍は戦えます。温存してください」

「なら……レミッサ! 後先考えなくていいから全力で魔法を門にぶつけて!」


 勇者の力は戦略にも影響を及ぼすため、独断で使うことはできない。そのためルカは自分の判断でお願いできる仲間の力に頼った。


「いーですよ。その代わり負ぶってってくださいねー。置いてっちゃ嫌ですよー」


 近づいてきた魔獣に強烈な一撃をお見舞いしていたレミッサが振り向きながら言う。


「分かった! 全部終わったらずっと寝てていいから!」

「かしこまりましたー」


 そういうとレミッサは城門に聖杖を向けると集中し始めた。


「おっと、やらせねぇよ」


 飛んできた矢に割り込むようにバルドが盾で守る。


「落ちなさい!」


 カウンターでアイシャが放った矢が小鬼(ゴブリン)の頭に命中し、城壁から落下していく。


「うーん、むむむっっ!!」


 相変わらず詠唱なのか無詠唱なのかよく分からないレミッサのかけ声と共に、とんでもなく大きな火の玉が現れると城門に突き刺さった。


 ドゴオォーン――――


 爆音共に城門とその周りの石積みが吹き飛んだ。ちょっと右に逸れたようだ。


「相変わらず、とんでもない威力してるわねー」


 アイシャがちょっと引き気味に言う。彼女も魔法職ではあるが、どちらかと言うと連射速度や精度を必要とする魔法を得意とする。その点レミッサの魔法は精度を威力でごまかす。一帯を吹き飛ばすような高威力な一発を得意としているのであった。


「ふぃー、疲れました。今日の魔法は打ち止めですー」

「お、お疲れ様。僕たちが守るから座って休んでていいよ」


 特大の魔法を放つことを依頼したルカでさえも、初めて見たレミッサの全力にちょっと驚いている。城門にダメージを与えられれば良いと思っていたが、吹き飛ばしてしまったからだ。


「さ、流石は勇者様のパーティにいらっしゃるだけある……」


 マイズもその破壊力に驚きを隠せない。


「勇者様のところの神官殿がやってくれたぞー! 突撃!」


 ドドドドッ――――


 指揮官の号令で一斉にフリグスの街に突入する。

 ルカたちも後れまいと、ルカがレミッサを負ぶさって駆け出す。ルカよりも身長が高いレミッサを背負った際、ちょっとふらついたが、そこは肉体強化の魔法で踏ん張り何ともない風を装った。そこは男としてのプライドだ。


    ●○●○●


 街に入るとそこには住民は見えず、武装した小鬼(ゴブリン)大鬼(オーク)蜥蜴人(リザードマン)が待ち構えていた。


「くっ、魔物に街は占拠されていたか! 帝国兵よ奮い立て! 汚らわしい魔物共から街を奪還せよ!」

「「「オオッ!!」」」


 帝国軍は城門を死守する部隊、城壁上を奪還する部隊、そして前方の魔物たちと対峙する部隊に分け動き出した。

 ルカは一先ず城門近くにあった頑丈そうな建物の中にレミッサを運び休ませ、バルドを護衛に置き自身は前線に加わった。


「敵が魔物であればっ!」


【放て聖なる斬撃】


「ハッッ!!」

 シュッ、シュッ、シュッ――――

 ギャギャ――――


ルカは身体強化を使い大きくジャンプすると、一、二、三と三度、勇者魔法を載せた斬撃を飛ばした。その斬撃は、帝国軍の前線と激突していたところの頭上から降り注ぎ、およそ三十体の敵を屠った。


「勇者様が来たぞー、このまま押し込め!」


 前線指揮をしていた部隊長が声を上げる。


    ●○●○●


 その後一団は、ルカの勇者魔法とアイシャの弓と魔法の援護を受け、順調に街の中心部まで奪還域を広げた。

 辺りは混沌とした様相を見せている。

 街の奪還を目指す帝国軍と魔物の軍勢との戦いは熾烈(しれつ)を極め、その余波から街にも被害が出ていた。

 双方の攻撃魔法の余波で建物は崩れ、所々から煙が上がっている。

 建物の中で身を潜めていた住民たちは堪らず外に逃げ出し、怒声と悲鳴が木霊する。既にあちらこちらに戦闘に巻き込まれたとみられる住民が倒れている姿も見える。


 ――――その時。


 黒の奔流(ほんりゅう)が大通りを駆け抜け、盾を構えていた帝国兵の前衛に突き刺さった。


 ぐあぁあ――――


 苦悶の声がそこかしこで聞こえる。

 無事の兵たちは急いで建物の影に負傷者を引き摺りながら隠れ様子を見た。

 ルカも建物の影に飛び込み、恐る恐る建物の影から先ほどの攻撃が来た方向を見る。すると、大通りの突き当たり、この街の領主が住む領主館のバルコニーに男が右手をこちらに向け立っていた。


 魔人だ――――


 ルカは直感的にそう思った。

 姿形は人族と変わらない。ロマンスグレーの頭髪、左目にモノクルを着け、服装は燕尾服のような服を着ている。まるで執事のような様相であった。

 だが魔力とは違う圧倒的な存在感が、離れた場所にいるにも関わらずルカにはひしひしと感じられた。そしてこれは人と相反(あいはん)する存在だと。


「アイシャ、急いでバルドとレミッサを呼んできて」

「……分かった」


 アイシャも魔人の存在に気づいたようだ。ルカの言葉に少し硬くなった表情で頷き、踵を返した。


 ついに勇者と魔人が激突する――――

次回更新は4/26予定です。

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