41.vs魔物
――――翌日、街の周囲に集まった魔物と魔獣の討伐が始まった。
「盾兵前へ!!」
ガツッッ!!
3mを越えるだろうか一角岩イノシシが盾兵が壁のように並べた盾へ突っ込む。岩がぶつかったような音がして、フルプレートアーマを着込む男たちを吹き飛ばす。
「槍兵! 突け!!」
盾兵の隙間から勢いよくその巨体に槍が刺されていく。
「魔法兵準備! 前衛引け! 魔法放て!!」
部隊長の合図に合わせ、盾兵と槍兵が一気に引き、一角岩イノシシの周りに空間が生まれると、そこに目掛けて紅蓮の炎が次々と突き刺さった。
ギャオォー!!
ドッシーン――――
全身を槍で突かれ血を流し、炎で焼かれた一角岩イノシシの巨体がゆっくりと倒れる。
「よし、止めを刺せ!!」
「「「オォー!」」」
再び前衛を務める兵が倒れた一角岩イノシシに取り付き止めを刺していく。
「凄い……」
それを少し離れた場所から見ているのはルカだ。
ルカは初めて軍による魔獣の討伐を見る。兵種を駆使し、入れ替え、巨体に臆せず向かっていく姿は迫力があり、圧倒されている。
「凄いでしょう。これが精強たる我ら帝国軍です!」
胸を張っている彼は、ルカたち勇者部隊に付けられた兵たちの若い隊長である。ルカに褒められて嬉しいようだ。
隊長と言ってもルカたち四人はその指揮下にはない。自由にやって良いとのことだったので、ルカたちと連携するための窓口的な役割を担う。
「こうして、自分たちの体の何倍もの相手ともやり合うのです! 更に大型なものと対するときはバリスタなど、大型兵器を持ち込んだりもします」
彼はルカに対しても舐めた態度は見せずフレンドリーに接してくれた。ルカとしても話しやすくて良かった。
「マイズさん、僕たちはどう動きましょう?」
「そうですね……我々は勇者様の力というものが分からないのですが……率直に言ってどのくらい戦えるのでしょう?」
「うーん……さっきの一角岩イノシシくらいであれば僕たち四人で倒せます」
「よっ、四人でですか。流石です」
「魔獣には勇者魔法の効きが悪いんで一人では無理ですが……」
「そ、そうですか……」
マイズが目を丸くしている。
「あとは、小鬼や大鬼といった魔物であれば十体くらいは一撃で真っ二つにできます。それとこれは奥の手みたいなものですが、上級の勇者魔法を使えば魔物千体は全滅できます。但し、その後一日くらい使い物になりませんが……」
「魔物を千……凄まじいですね」
「発動が難しいのと、使うと疲労感でダウンしてしまうので使いどころが難しいですけど」
「いえ、それでも十分凄いです」
ここまで来るとマイズも凄さがピンとこない様子であった。
「勇者様と我々のターゲットはあくまで魔人ですので、力は温存してもらうようにと上から言われています。なので、端の方で軽く小型の魔物の討伐くらいに止めましょう」
「分かりました」
ルカはマイズの申し出に頷き了承した。
●○●○●
――――作戦開始から一日後、フリグスの街で。
「帝国軍がこの街を奪還しに来たようだな……どうするんだ?」
「ふむ……勇者もいるようだな」
屋敷の窓の前に立ち、遠くを見ているような素振りの魔人の男、ウンブラがつぶやくように言う。
「新しい勇者の実力を見るのに一当てしてみるもの一興か……」
ウンブラはそう言うと部屋を出て行った。
部屋を出て行ったウンブラを見送ると、領主であるファトムも窓の前に立ち、街の外から薄らと遠くに聞こえる喧噪を聞く。
「ワシも覚悟を決めるとするか……」
帝国軍が来たということはつまり、ファトムがウンブラと結んだ密約が部分的にでも露呈したのだろう。つまりは帝国への裏切りだ。裏切り者は捕らえられるに違いない。人類への反逆と取られれば死罪も免れないだろう。
ファトムは執務室の椅子に深く座り込むと、一度溜息をつく。そして机から紙を取り出しこれまでの経緯をまとめ始めた。
●○●○●
――――フリグスの街まで半日の距離。
「くそっ! 何て数だ!」
「集まりすぎだろ! 魔人が集めたのか!? 選り取り見取り、魔物の展覧会かよ!」
「そこっ! 無駄口叩いている暇があるなら手を動かせ」
魔物と戦っている兵士たちが愚痴を言うのを部隊の隊長格が注意する。その隊長格の者もあまりの数に冷や汗をかいている。
大物も時々出てくるが、ほとんどは小型の魔物か魔獣だ。一体一体は対したことがないが如何せん数が多い。
前衛を入れ替え休憩を挟みながら討伐を続けているが、全く終わりが見えない程だ。
不幸中の幸いなことに敵の2/3程が魔物のため、倒すと黒い靄となって消えていってくれた。そうでなければ、今頃地面が見えないくらいの死骸で溢れていたことだろう。しかし、魔獣は死骸が残る。おびただしい数の魔獣が倒されたまま地面に横たわり、その血の匂いが辺りに充満している。
一方、勇者部隊もこの異常事態を受けて討伐に参戦していた。しかし、いつ魔人が現れるかも分からないため、ルカは回数制限のある勇者魔法を温存せざる負えない戦いだ。
魔法を使うレミッサやアイシャも魔力の消費は可能な限り避けて戦っているので、いつものように手際よくは片づかない。しかし、そこは帝国軍から来た兵士らと協力し何とか乗り切っていた。
――――もうすぐ日暮れという時間帯。
「一旦キャンプ地まで撤退する。合図出せ」
シューッ、バンバン――――
司令官の指示に従い、空に魔法が放たれる。撤退を指示する合図だ。
帝国兵たちは怪我人に肩を貸しながら撤退していく。幸いなことに死者はまだ出ていないが、数の暴力で重傷者はそれなりに出ている。
ルカたち勇者部隊も後方に気をつけながら撤退していく。
キャンプ地に辿り着いた時、周囲はすっかり夜の帳が降りていた。
「私は救護所手伝ってきますねー」
「うん、お疲れ様」
「はいー」
ルカの労いの言葉にも、いつもより若干元気が無いレミッサは救護所が置かれているテントに向かって歩いて行く。
直ぐに休ませてあげたいところであるが、レミッサの実力があれば大抵の重傷者は助けることができる。自分でもそのことを分かってるからであろうか、どんなに疲れていても、神官としてこういうときレミッサはいつも治療に向かう。
「あの子も神官としては真面目なのよね」
アイシャが感心している。
そういうところを認めているからこそ、朝中々起きなくても毎朝欠かさず起こしてあげているのだろう。
「あんな美人のレミッサちゃんに治療されるのいいなー。オレだったら死んでても生き返っちまうよ」
バルドが軽口を叩く。
「まったくだらしがない……あんたもルカを見習いなさいよ。寄りかかられても表情一つ変えずに淡々と起こすのを」
アイシャがまったく男ってヤツは……とあきれた表情で言う。
例えに出されたルカはといえば何とも言えない表情をしている。
レミッサに寄り掛かられたり、寝起きで妙に色っぽい姿を見ても何とも無いのは完全に慣れだ。始めの頃はルカもドギマギしたりしていた。が、寄り掛かられたまま放って置くと、最終的にグンニャリとズレ落ちて膝枕状態になっても起きない、むしろグッスリだ。何度もやられる内に何も感じなくなった、だから淡々と起こす。
今のところバルドに寄り掛かって寝ているところは見たことがない。
ルカのサイズが丁度良いのだろうか? バルドは硬そうだから嫌なのかな? とルカがどうでも良いことを考えていると……
「やっ、やめろ……ギャーーーー」
遠くから男性の野太い悲鳴が聞こえてきた。
レミッサが治療をしているのであろう。彼女は通常の医術と神聖術を組み合わせ、生きていれば大体治す。但し、その治療過程において、患者の痛みなどまったく考慮しない。
ルカはああ、またやってるなー、と心の中で治療を受けている誰かに合掌しながら割り当てられた天幕に戻っていった。
後遺症が残ることもほとんどなく治るのだから我慢してほしい。
次回更新は4/23予定です。
【ざっくり設定集】
レミッサの治療は、骨折後変な風に骨がくっ付いていたらもう一度折ってから治すタイプ。




