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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第四章
42/71

40.帝国軍と合流

 ――――援助要請を受けてから一ヶ月後。


 ルカたち一行は、コーペランテ諸国連合にある剣神の里から国境を越えアルミス帝国に入った。

 北上するに連れて魔物や魔獣との遭遇が増え、移動に時間が掛かったが手紙に書かれていた期日までに集合地点に着くことができた。

 魔人に支配された街、フリグスから二日の場所にある湖畔(こはん)に帝国軍の部隊は結集している。

 一先ず到着したことを知らせようと、ルカは近くにいた兵士に指揮官につないでもらい挨拶をした。


「貴君が勇者か? 若いな」

「ええ、勇者に選ばれましたルカです」


 指揮官はルカを上から下までジロリと見ると、鼻を鳴らし少し侮ったような雰囲気で言った。

 ルカは筋骨隆々でもなく身長も平均男性より低い。見た目では強そうにあまり見えない。

 勇者というのは伝承で千の魔の物を切り裂いたなど、勇ましいものばかりが残っているため、(いぶか)しがられるのも無理はないだろう。

 むしろバルドの方がガッチリとした体格にプレートメイルを身に纏い、しっかりした盾を持ち、大剣を背負っている姿から勇者っぽい。

 彼が斜め後ろから(にら)みを利かせてくれてるおかげで、頼りない援軍という印象は防げている。


「何あれ、感じ悪い! 援助を求めたくせに!」

「まあまあ」


 ぷんすか怒っているアイシャをルカが宥める。


「僕は気にしてないから、いつもの事だし……勇者っぽく無いことは自覚あるし……」


 へへっと、後半は若干黄昏(たそがれ)気味に話すルカ。

 自分でも見た目が田舎の兄ちゃんから脱してないことを気にはしているのだ。


「何がいけないのかしら? 格好? フルプレートアーマーでも着る?」


 アイシャが帝国軍の重装歩兵を指さし言う。


「重くて動けなくなっちゃうよ」


 ルカの格好は旅立ち当初からあまり変わっていない。急所を守るため部分部分に金属が使われた革鎧、やや細めの長剣、小手に靴など。ヘルムは激しく動くとずれるので付けていない。もちろん魔物の討伐などでお金は入っているため、個々の装備は良い物に置き換わってはいるのだが。

 まだグチグチとアイシャは不満を言っている。


「あと、レミッサへのネチっこい視線! あー気持ち悪いっ」

「えー、そうですか?」

「気をつけなさいよ、本当に!」


 (よこしま)な視線を受けることが多いレミッサ自身はあまり気にしていないようだ。


「大丈夫ですよー。もしもの時はぶっ叩いてやりますから」


 フォン――――


 そう言うとレミッサは、右手に持っていた聖杖を下から上に一回転させた。そう、明らかに男の急所を狙った一撃だ。

 一切の躊躇(ちゅうちょ)無く振るわれた一撃に、若干顔を青くするルカとバルド。

 子どもの時のトラウマで、恐怖という感情が鈍ってしまっているレミッサがやるといったら一切の戸惑いもなく全力で行くだろう。未来の被害者に心の中で手を合わせる男二人であった。


「レミッサだけじゃ無くてアイシャも気をつけるんだよ」

「あら、ありがと」


 帝国軍に女性兵も存在するが数は圧倒的に男性兵の方が多い。

 気の強いアイシャがむざむざとやられることは無いと思うが、念のため気遣うルカ。

 ルカの気遣いに若干気分が良くなったアイシャであった。


    ●○●○●


 帝国軍にあまり借りを作りたくないというアイシャの言で、ルカ一行はキャンプ地脇に自分たちでテントを張って拠点とした。


 するとそこに一人の兵士がやってきた。

 兵士はピシッと胸に手を当てる敬礼をするとこう言った。


「勇者様とお仲間方、これから今後の奪還作戦に関する軍議がございます。ご出席をお願い致します」

「分かりました。伺います」


 ルカが返答し、一行は呼びに来た兵士に続きキャンプ地の一角に設けられた大きめの天幕に案内された。

 中に入ると先に集まっていた隊長格と思われる年嵩(としかさ)な兵たちが一斉に視線をルカたちに向ける。その視線は(よこしま)なものではなく、値踏みをしているかのような視線であった。

 一瞬ドキッとしたルカであったが、できるだけ表情に出さないようにしつつ案内された席に着いた。


「では、軍議を始める。議題はこれからの奪還作戦についてだ」


 指揮官が周辺地図を前に話し始めた。

 そこには様々な印が書かれていた。先行して放った斥候の報告結果だろう。


「――――という訳で、我々はまずフリグスの街の周囲に集まっている魔物の掃討から始める。その後、城門から街に入り占領、領主館まで侵攻し魔人に与した領主の身柄の拘束と、そこにいると思われる魔人の討伐を行う。何か質問は?」


 指揮官は説明を終えると集まった兵たちを見回した。


「はい、門はどうやって破るつもりでしょうか? 破城杖は持ってきていませんが」


 頬に古傷のある隊長格の兵が手を挙げ質問をした。


「問題ない。フリグスには市民に混じった工作員が居る。なので門を破る必要はない」


 他には? という風に再度目線を巡らす。


「魔物を討伐している内に魔人に逃げられるのでは?」

「それでも構わん。我々への指令は街の奪還だ。そしてあわよくば魔人の討伐だ」


 一旦、そこで言葉を切るとルカの方を向いてこう言った。


「魔人の討伐には勇者様を中心とした部隊を編成し当てる。よろしくお願いします勇者様」

「分かりました。微力を尽くします」


 ルカが頷くと、周囲の反応は二通りに分かれた。本当に大丈夫かという疑いの視線か、期待の籠もった視線である。どちらかというと期待の方が多かっただろうか? アルミス帝国においても聖ソルティス教は国教となっており、その選ばれし勇者というのは影響力が大きいのだろう。


「他に質問は? 無ければ解散!」


 指揮官の号令に従い退出していく兵士たち。

 ルカたちも退出しようと立ち上がると、一人レミッサだけが背筋をピンと伸ばし、薄目を開けているような表情でピクリとも動かなかった。


「これって……寝てる……?」


 ルカが顔をのぞき込むもピクリとも動かない。


「レミッサ行くよ! 起きて!」

「――お、起きてますよー」


 ルカが声を掛け肩を軽く揺する。するとレミッサは目をパッと開け、何事も無かったかのように立ち上がった。


「「「…………」」」


 明らかに寝ていただろ、という声は飲み込んだ三人。

 レミッサも軍議という真面目な場なので、パッと見で寝ているように見えない余所行きの居眠りをしていたようだ。

 ちなみにレミッサは仲間が居ない時は居眠りをしない。根は真面目なのだ。

次回更新は4/19予定です。

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