37.実戦
剣神の里は山々に囲まれた深い森を切り開いた場所に存在する。つまりは、一歩里を出れば人跡未踏の深い森だ。
そこには凶暴な魔獣や魔物も多数存在しており、剣神の里の武人たちが鍛錬と称して討伐している。そのことで、人類の生活域への侵攻を防ぐ一種の防波堤のような役割を果たしていた。
そんな訳でルカ率いる勇者パーティーは、一ヶ月の基礎訓練を終え実戦での鍛錬に入っていた。
「あーもう! バルド! あんた邪魔! 射貫くわよ!」
「うっせー! おまえ射手なんだから全体を見てだな――――」
わーわーと言い争いをしているのはアイシャとバルド。始めの余所余所しさは無くなったが、がさつなバルドと几帳面なアイシャ、どうにも馬が合わない。
こうしてことある毎に言い争いをしていた。
「あー、もう! 言い争いは帰ってからにしてよ! 魔物が集まってきちゃうよ」
何度目だろうか? ルカが割って入って二人を宥める。
身長差のあるバルドとアイシャの中間がルカだ。斜め上と下からわーわー言われ収集が付かない。
「止めましょーかー?」
暢気にレミッサが言う。
「止められるなら!」
「はーい」
えいっ!――――
スススッとアイシャの後ろから近づいたレミッサは、初めてアイシャと出会った日の再現の如く、ガバッと正面から抱きしめ、その豊満な双丘に顔を埋めさせて物理的に彼女の口を塞いだ。
う゛ーう゛ーう゛ぅ…………
始めはバタバタと暴れていたアイシャであったが、レミッサの腕力に負け次第に動きが緩慢になり、最後はくてっとなった。
「羨ま……ゲフンゲフン」
バルドが毒気を抜かれ、その後ちょっと羨ましそうにその様子を見ていたが、取り繕って視線を外した。
ガバッ!
渾身の力を込めてレミッサの胸から顔を上げるアイシャ。
「止めなさいよこれ! 私への嫌みかー! ウガー!」
レミッサと比べると種族差もあるが小柄でスレンダーなアイシャ。怒りの矛先をレミッサに向けバタバタと暴れる。
レミッサはあっさり彼女を解放すると、眉を顰め言った。
「ルカさんを困らせたらダメですよー」
「……悪かったわよ。でもバルド、動き方はもう少し考えて」
アイシャはバツが悪そうにバルドの方に向くと、もそもそと謝罪の言葉を口にした。
「オレも悪かったよ。で、どうしたらいいんだ?」
バルドもレミッサから視線を向けられると謝罪した。
「あなたはどちらかというと盾役なんだから、攻撃を受け止めたら動かないか、受け流すかしてちょうだい。くっ付いたまま敵を倒そうとグルグル動かれると弓で射れないのよ。ルカの場合はヒット・アンド・アウェーが基本だから、私も射るタイミングが取れるの」
「分かった、次からは気をつける」
「何度もそう言ってるでしょーが!」
「しょうが無いだろ! 戦闘の中じゃ頭から飛んじまうんだから!」
「だ・か・ら! そのための連携の訓練でしょうが!」
「アイシャさーん、バルドさーん……」
レミッサのやや低い声が二人を窘める。
「「……はい。すみません」」
いつもポワポワしているレミッサが怒ると怖いのだ。
パンパンと手を叩き、気を取り直してルカが言う。
「それじゃあアイシャとバルドは、その辺りのコンビネーションに気をつけて引き続き討伐を続けようか。僕は勇者魔法を戦闘に組み込むのが課題なんだけど……」
「一発でスパッと倒しちまうからなー。無理に戦闘に組み込まなくて切り札ってことでいいんじゃねえのか? 人は斬れないって分かってても光の斬撃が当たるのは怖ええよ」
バルドが腕を摩りながら言う。
一度ルカが範囲を間違えて放った光の斬撃がバルドに当たってしまったのだ。事前に人や物に当たっても影響が無いと調べてはいたが、横で魔物が真っ二つに切り裂かれているものが自分に当たるのは良い気分ではない。
「悪かったって。んーそれじゃ、戦闘中いつでも発動できるようにしておくってところが無難かなー」
「そうですよ。戦闘中にこだわらなくても、先制攻撃としてズバーっと放てるんですからいいじゃないですかー。範囲攻撃魔法と同じですよ」
レミッサもルカの言葉に同意する。
勇者魔法は使いどころが難しい。初級中級程度であれば戦闘中に使うことはできるが、回数制限があるので、それぞれの魔法の回数を念頭に置きつつ使うのは戦闘中に意識が逸れて危ない。上級になると戦況を一変させる強さはあるが、使用すると戦闘継続に支障が出るほど疲弊してしまう。
このように勇者魔法の戦闘時における使い方を見つけることは、ルカに課せられた課題であった。
ガサガサ――――
皆で話し合いながら小休止をしていると、茂みがガサガサと音を立てて揺れた。
直ぐに戦闘態勢をとり、茂みから全員距離を置く。
ギャオォーン!!
飛び出してきたのは、体長3mになるであろうか一角岩イノシシという魔獣であった。鋭利な角と岩のように硬質化した表皮が特徴のイノシシが魔物化した魔獣だ。
「げっ、あいつ攻撃重いんだよなー」
「愚痴ってないでほら行く!」
バルドが盾を構えながら愚痴り、アイシャがその背中を叩く。
「レミッサとアイシャは距離を取って援護! バルド頼んだぞ!」
「おう!」
ルカとバルドは阿吽の呼吸で一角岩イノシシに立ち向かっていった。
勇者パーティーの鍛錬は続く――――
次回更新は4/9予定です。
これで第三章は終わりです。次回から起承転結の”転”に入り物語が動いていきます。




