32.閑話 砦村で
――――王都でルカと別れてから二ヶ月が過ぎた頃。
「あー、やっと帰ってきた。アンナのヤツ怒ってるかな?」
ビスの荷馬車から降り、伸びをするハイリス。
「おっ、ハイリス! やっと帰ってきたか、アンナが怒ってたぞ」
「うげぇー」
偶々通りかかった町人に揶揄われるハイリス。
「ちゃんと仕事してきたんだってー」
「しっかり怒られとけ、心配かけてんだから。言い訳は酒場でなー」
そういうと町人は去って行った。
「さて、まずはルカの家に行って報告しないと。手紙を預かってるし」
ハイリスはここまで荷馬車に乗せてきてもらった御者のビスに礼を言うと、ルカの家の方に向かって歩き始めた。。
●○●○●
「おーい、ルシウス、エレナ居るかー?」
そう声を掛けながら敷地に入っていくと、庭の隅でしゃがみ込んで何かをしていたルカの妹のステラが駆け寄ってきた。
「先生、久しぶり!」
「おっ、ステラ。お父さんかお母さん居るか?」
ハイリスが腰を落とし、目線を合わせてステラに聞く。
「おかーさーん、先生が来たよー」
ステラは大きな声でそう叫びながら庭の方に駆けていった。
ハイリスがステラの後を追って庭の方に回ると、エレナが家庭菜園に如雨露で水をやっているところだった。
「なにステラ? 先生?」
そのままエレナに突撃して腰の辺りに抱きつくステラの頭を撫でる。
「おう、エレナ息災かい?」
「ハイリス、お帰りなさい。アンナが遅いってぼやいてたわよ、ふふっ」
「……アンナのヤツ色んなところで言いふらしやがって……」
「心配もしてたのよ。広い教会で一人きりだったのですから」
「それで何かご用かしら?」
「ああ、ルカから手紙を預かったのと、あいつの勇姿を伝えてやろうかなってな」
「まあ! ありがとうございます。ささ、上がって? ルシウスも中に居るからお茶にしましょう」
エレナに促され家に上がるハイリス。
ルシウスも交え、お茶を飲みながらルカの勇姿を伝えたのだった。
――――ハイリスが話し終えると。
「すっっごーい。教会って光るんだー! ぴかー!」
「教会っていうかだな……うーん、なんで光ったんだ?」
ステラが無邪気に喜ぶ。
訂正しようにも原理が分からず、今更になって首をかしげるハイリス。
「さぞ、幻想的だったんだろうな……」
「そうね、見てみたかったわー」
ルシウスがその光景を想像しつぶやく。エレナもうっとりと同意する。
「あんなにはっきりと女神様の声が聞こえるなんて、オレも想像していなかった。居合わせた高位神官たちも涙を流していたぞ」
「ルカは本当に勇者になったのですね。伝えてくれてありがとうございますハイリス」
やや涙ぐみながらお礼をいうエレナ。
その後、旅の他愛の無い話をしてハイリスはルカの家を辞した。
●○●○●
――――フォルティスの町の教会
「ハイリス、あんたどこほっつき歩ってたんだい?」
「いや、真っ直ぐ帰ってきたぞ」
「分かってんだよ。ホリスがルカが到着したって手紙送ってきたんだ。ルカが神国に行ってホリスが出した手紙より遅く帰ってきたんだから、寄り道してきたんだろ?」
アンナの追求にハイリスは視線を少し反らし、バツが悪そうな表情で言った。
「…………友達に……会ってきたよ」
「…………そうかい、お疲れさん。ホリスの手紙に、もっと連絡寄越せって住所書いてあったから、また今度手紙書いてやんな」
ハイリスの神官学校時代の友達のほとんどは三十年前に起きた魔族領からの侵攻の際に亡くなっている。劣勢に置かれた人類が反抗するために、当時の教皇が聖戦として兵を募り、それに参加したのだ。
会いに行ったということは、墓参りにでも行ったのであろう。
ちなみにハイリスとアンナは、当時の教皇庁が腐敗しており、その言葉を全く信じておらず参加しなかった。ハイリスに関しては、腐敗してようがしてまいが参加しなかったであろうが。
当時ハイリスは友人たちの訃報を受けて、本当に神のための戦いだったのか疑問を持ち、無謀にもアンナと二人で交神を実施し成功させた。
――――当時。
「あの狸たちが神の名を騙って聖戦を持ち出す訳がねえ。きっと神託があったか、その言葉を拡大解釈したんだ!」
血のにじむほどに拳を握りながら、俯きつつハイリスが叫んだ。
「ハイリス無茶だって、あんた一人で交神するなんて」
「止めるなアンナ。みんな神のためとか言って死んじまったんだぞ。信心深かったヤツほど居なくなった。これが何のための戦いなのか知らずにいられるか!」
「止めないよ。でも私も手伝う。一人より二人でやった方が確率は上がるだろ?」
「アンナ……」
「あたしも今回の件は納得いかない……魔族っていったいなんなのさ! 世界の脅威って言うけど、神の代理戦争なんだったら許せない!」
アンナもアンナで友を亡くしている。今回の戦いは納得がいかないのだろう。
ハイリスとアンナはお互い手を取り集中すると、今回のためにハイリスが改造した交神の神聖術を発動した。
ごっそりと何かが抜けていく感覚がある。脂汗が吹き出し、倒れそうになるのを必死で堪える。
すると何かとてつもなく大きな存在とつながったような感覚があった。
「女神よ! この戦いは神々の代理戦争か? 魔族とはいったい何なんだ!?」
ハイリスが気力を絞って叫ぶ。
――――我が手を下すことは不可能。
――――魔族とは人類の脅威――侵略者――排除すべき存在。
強大な存在から憎しみの感情が伝わってきた。
――――戦いし者たちへ感謝と哀悼を。
悲しみの感情が伝わってきた。
バキッッ――――
依り代にしていた神像が壊れ交神は終わった。
「「はあ、はあ……」」
二人は同時に床に倒れ込んだ。荒い息を繰り返す。
僅かな時間であったが神を問い質すことに成功した。
伝わってきた憎しみ、悲しみの感情が嘘でないと信じたい。
今回の戦いが世界を守るためで、女神も見守っていることが分かり、一旦二人は溜飲を下げたのであった。
次回更新は3/22予定です。




