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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第三章
35/71

33.剣神の里への道

 ――――ルカが聖ソルティス神国で勇者魔法の習得に励んでいた頃。


「ふぅー……」

「ランド様、如何されましたか?」


 剣神の手には、たった今読み終えた手紙がある。

 机の上にはその手紙が入っていたであろう、封蝋が剥がされた封筒が置いてあり、その封蝋印の紋章はフェルティラ王国の王家のものであった。

 そう、彼はフェルティラ王国のアルフォンス王が師と仰ぐ剣術の達人、ランド、通称剣神である。


「フェルティラ王国の王から勇者に剣の稽古を付けてほしいと書いてあった」

「それは素晴らしい! 勇者様にランド様の剣術が加われば百人力ではないですか!」

「そんなおべっかはいらん」

「ご謙遜を――」

「ワシの剣術は魔人には届かなんだ……それはお主も知っておろう、その身をもって(・・・・・・・)……」

「それは……」


 ランドと話している剣士は、剣神の里でNo2のアルマという剣士で師範代の位に就いている。

 アルマは戦地に赴き魔人に遭遇。激闘の末、撤退させることに成功するも利き腕を切断する大怪我を負った。

 敵は四本腕の魔人であった。剣神の剣術は人と対することを前提としており、当然腕は二本である。学んだ型や定石は通じなかった。アルマはただがむしゃらに戦い運良く生き残ったに過ぎない。


「しかし、鍛えてやらねばならんな……さてどうしたものか……」


 皮肉である。

 人類最強の剣士として名を馳せたにも関わらず、自分が最前線に立つ前に小康状態となってしまった。そして、その間に歳を取り二度と立つ機会を失ってしまった。その剣は人類を守る剣にはなれなかった。

 ならばと、道場を開き沢山の弟子を育てたが、弟子の多くは戦地で亡くなり帰ってこなかった……

 生きるため、救うための剣が、死にに行く剣となったことにランドは苦悩した。

 しかし、剣神の名は世界に広がりすぎていた。各国の腕自慢や国の兵士など教えを請う者たちは後を絶たず、次第にランドの道場の周りはいつしか剣神の里などと呼ばれるようになった。

 そこからは繰り返しだ。剣神の里出身の者たちは各国で活躍し、最前線に向かい戦死する。

 皆は名誉の戦死と言うが、ランドは別に戦って死ぬことに対し名誉も何も感じてはいない。勝つこと、そして生き残ることが全てであると考えている。ランド自身はそのための術を教えていると自負しているが、訃報の手紙は後を絶たない。

 力を持つ者は戦場に駆り立てる。魔族との戦いが続く、この不安定な世界でそれは仕方がないことなのかもしれない。


「話は変わりますが、入門してきた彼、中々筋がいいですね」

「ん……?」


 思考の沼に入りかけたランドをアルマの言葉が引き上げた。


「勇者の親友だったとか言っていた彼ですよ。故郷で一緒に旅立てなかったから鍛えたいって入門してきた」

「ああ、あやつは攻撃力はそれほどではないが、守りは堅く筋がいいな。前衛として勇者と組むのであれば、一緒に鍛錬を考えるべきか……」


 ランドはこれまでに入手した魔族の情報を整理し、対魔族に通じる鍛錬ができないか考え続けるのであった。


    ●○●○●


 ――――エルフの里を出発してから半月


「もうすぐコーペランテ諸国連合との国境ですよー」


 地図を片手にレミッサが言う。


「諸国連合の何て国?」

「さあ? 諸国連合は小さい国がごちゃごちゃあるので、この地図には書いてませーん」


 ルカが国名を聞くもレミッサの持つ地図には書いていなかったらしい。


「人族の国はころころ名前が変わるの何とかならないのかしら? 五百年くらいは保ちなさいよねー」


 アイシャがぼやく。エルフの時間感覚では人族の国はくっついたり、名前が変わったり(せわ)しないようだ。

 国の中の組織に関しては言わずもがな。


「まあ、とりあえず行ってみようか」


    ●○●○●


 ――――三時間後。


「はい、確認しました。ようこそパルバテラ公国へ」


 入国審査の審査官がルカに通行証を返しながら言った。

 ルカ一行は、アルミス帝国からコーペランテ諸国連合を構成する一国、パルバテラ公国に入国した。公国は諸国連合の中でも小さい方で、帝国の一つの領地程度の大きさしかない。

 剣神の里へはこのような国々を後二つ三つ国を超える必要がある。


「さて、宿を取ったらハンターギルドに行こうか」

「ルカさーん、お腹が空きました」

「うん、ギルドに食堂あるだろうからそこで昼食にしよう」

「やったー!」

「ギルドに何か用?」


 アイシャがルカに尋ねる。


「えーと、今日は受けないけど良さそうな依頼がないか見ようかと。ちょっと旅の資金が少なくなってきたから……」

「あら、そうなの? 私もパーティーに参加したことだし、幾らかはお金出すけど?」


 一人パーティーメンバーが増えたことで、かかる費用も増加する。アイシャは自分の財布の中を確かめながら、お金を出すことを提案する。


「ありがとう。それは別途相談させてもらうとして。依頼は受けようと思ってる。できれば討伐依頼」

「討伐依頼を?」

「うん、まだこのパーティーでちゃんとした戦闘を経験してないでしょ? 精々旅の途中で出てきた魔獣を倒したくらいだから。チームワークとかも分からないし」

「それはいい考えね。私もルカが戦っているところしか見てないし」


 ルカの提案にアイシャも同意する。


「ルカさーん、アイシャさーん。食堂混んじゃいますよー、早く行きましょ-」


 こういう時だけレミッサの行動は早い。

 ルカとアイシャが話し込んでいる内に、ハンターギルドを見つけ入り口前からこちらに手を振っている。


「行こうか」

「ええ」


 苦笑いを浮かべながらルカとアイシャは足早にレミッサの下に向かった。


    ●○●○●


 ――――翌日、森の中。


「いつもはどうやって討伐してたの?」


 茂みに隠れながらアイシャはルカに小声で尋ねる。


「えーと、まずレミッサが高威力の火魔法でドカーンってやって、生き残って逃げようとしたのを慌てて二人で倒してく感じ……」


 レミッサは神聖術だけでなく魔法にも長けているが、威力の高い魔法をぶっ放すことしかできない。

 今日は町の近くに出没した小鬼(ゴブリン)退治の依頼を受けた。既に住処は発見しており、その近くの茂みに三人は隠れているところだ。

「随分大雑把な戦法ね?」

「これでも色々試したんだよ? 僕がこっそり近づいて倒すのも試したけど、数匹倒した時点で見つかって……向かってきてくれればいいんだけど、散らばって逃げちゃうと、結局はレミッサがまとめてドカーンって……」

「うん……何て言うかバランスが悪いパーティーね……」


 アイシャがルカの話を聞いてあきれている。

 人数がいれば囲うなりの戦術も取れるが、今までのルカはレミッサと二人きりである。前衛と細かい魔法が使えない後衛。結局、最初にダメージを与えて逃げ足を遅くして、二人がかりで急いで倒すのが最適解というところに辿り着いたのであった。


「でも私がいれば大丈夫。ルカ、あなたは裏手から攻めて。私が援護するから。 それでレミッサは、私が敵を一カ所に追い込むから、そしたら魔法を放って」

「分かった」

「分かりましたー」


 三人は所定の位置に移動すると、アイシャの合図でまずはルカが飛び出した。


【放て聖なる斬撃】


「ハッッ!!」

 シュッ――――

 ギャ!?ギャ!!――――


 初手から勇者魔法を使い、五匹を上下に真っ二つに切り裂いた。


 ギャ!?ギャ!?――――

 シュッ――シュッ――シュッ――


 仲間が真っ二つになったのを見て戦意を喪失したのか、逃げに走った小鬼(ゴブリン)たち。その逃げ先にアイシャの弓が突き刺さる。


 ギャ!!ギャ!!――――


 数匹の小鬼(ゴブリン)の腕に矢が刺さっている。降り注ぐ矢に逃げ惑う。少しでも隠れるところをと思ったのであろう、逃げた先は粗末な木切れを重ねた彼らの住処であった。


「レミッサ! 今!」

「はいはーい。 ドカーン!」


 ドカーン――――


 気の抜けた声を合図に、住処に火柱が上がった。


「ちょっ?! 威力を考えなさい! 威力を! 森に燃え移るでしょうが!」

「えー、大丈夫ですよ。燃えても水魔法で消せますからー」


 見てくれは慈愛の聖女だが、中身は極めて大雑把。

 そんなレミッサの性格を、ルカは高嶺の花でなく親しみやすいと飲み込んだが、まだ付き合いの短いアイシャはまだ突っ込まずにいられない様子だ。


「さー、片づきましたよー。魔石拾って帰りましょー」


 いつもの追い回す作業がなくなり、機嫌が良いレミッサに促されルカとアイシャは、消えゆく小鬼(ゴブリン)の居た場所から魔石を拾っていく。

 初めての討伐は(つつが)なく終わったのであった。

次回更新は3/26予定です。

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