31.戦後処理
――――???。
「魔王様、勇者が現れたようです」
「そうか……百年ぶりになるか……」
「如何なさいましょうか?」
「一旦エルフの里からは退くとしよう。なに、我らのやることは変わらんよ」
「ははっ」
一人の魔人を魔王と呼んだ魔人は礼をして去って行った。
「今回は我が勝つがな」
一人になった魔王は、そう誰に聞かせるでもなくつぶやいた――――
●○●○●
――――エルフの里、救護所。
ルカが目を覚ますと辺りは暗くなっていた。
救護所の天幕内は魔石のランプがいくつかあり淡く照らしている。外からは人々のざわめきが聞こえるが、切羽詰まったようなざわめきではない。一先ず寝る前から状況は悪化していないようだ。
パサッ――――
「んぐっ。ルカさーん。起きましたか。」
天幕の入り口を開けてレミッサが中に入ってきた。口に串焼きを咥え、手には何か食器をトレイに乗せて持っている。夕食だろうか?
「うん、今起きたところ。体調も大丈夫。あれからどうなった?」
「今のところ大丈夫ですよー。エルフさんたちは、第一城壁の復旧に当たっています。そんなことより夕食ですよ。森の幸がたっぷりでおいしいですよー」
「丁度、お腹が空いてたんだよね。頂こうかな?」
「はいー」
レミッサはベッドの近くにあった丸テーブルを脚で引き寄せ、持ってきた食器を並べる。
敵が撤退して余裕ができたからであろうか、鳥肉の串焼きにキノコや山菜の入った雑炊、良く分からない野菜の漬物と豪勢だ。
「頂きまーす」
ルカは早速ベッドの縁に腰掛け夕食を頂く。
そういえば、町に着いてそのままエルフの里まで急いで来たため、こうしてゆっくりと食事をするのは久しぶりだ。
レミッサもルカの隣のベッドに腰掛け、鳥肉の串焼きをおいしそうに頬張っている。
「沢山助けましたからねー、いっぱいおまけしてくれましたー」
ホクホク顔のレミッサ。串焼きを完食すると満足そうに、そのままベッドに横になった。
「あー幸せー……ぐぅ……」
幸せな表情のままあっという間に寝に入ったレミッサ。ルカはそのまま寝かせておいてあげた。この広い救護所に居たけが人を全て治してしまったのであろう、疲れるのも当然だ。
パサッ――――
「ルカ? 起きてる?」
天幕を捲ってアイシャが中に入ってくる。
ルカが食事を取っている様子を見ると、安心したような表情になって近寄ってきた。
「もう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫」
「でも一発撃っただけで寝込むなんて、勇者魔法は大変なのね」
「使ったのが上級の魔法だからだと思うよ。中級までは戦闘の中でも使えるから。でも初めて使った時よりは随分ましなんだけどね。三回目で発動できたからかな?」
「ふーん、そうなのね」
ルカの想像の通り、発動までの失敗が少ない方が後遺症は少なくなる。初めて発動した時は四回失敗して五回目で成功した。そのため、四回分の発動しなかった反動が五回目に一気に押し寄せ、当時はしばらく立ち上がることすらできなかったのである。
「改めてルカ、ありがとう。まだ少し魔獣は残っているけどどうにかなりそうよ。今日はゆっくり休んでちょうだい。明日、族長たちと今後のことについて相談するから同席お願いね。レミッサも……」
アイシャはルカにお礼を言うと、チラリと既に夢の中のレミッサを見てから天幕を後にした。
●○●○●
――――翌日。
昨晩はあれから、レミッサを起こし女性用の宿泊天幕に押し込んで、ルカも男性用の天幕で一泊した。
翌朝、炊き出しの朝食を食べていると、アイシャがレミッサを引きずってやってきた。
「まったくもう! しゃっきりなさい!」
「まだ暗いですよー」
「森の中だからよ!」
何だかんだ文句を言いながら、アイシャはレミッサを毎朝起こしてくれる。面倒見がいい。
「ほらっ、朝食食べたら族長たちと会議なんだから、ちゃっちゃと食べる!」
アイシャは朝食のお椀をレミッサに持たせ。自分もお椀の中の雑炊をふうふうしながら食べる。
「あー体が温まりますー、眠くなるー……」
「ちょっと!」
レミッサとアイシャの姦しい掛け合いを眺めながら、ルカもスプーンを進めるのであった。
●○●○●
「勇者様、改めてこの度のご助力、エルフ族を代表して感謝申し上げます。
エルフ族の族長が深々とルカに頭を下げる。
族長の周囲に座る面々も族長に合わせ頭を下げた。
「頭をお上げください。間に合って良かったです、本当に」
あわあわと両手を振りながら頭を上げるように言うルカ。
「エルフ一同、このご恩は生涯語り継いでいくことでしょう」
「あ、ありがとうございます……」
ルカとしては魔法を一発撃って、後は寝込んでいただけなので大げさな対応と思ってしまっても仕方が無いが、それだけエルフの里は追い詰められていたのであろう。
「戦況についてじゃが、現在は第一城壁を奪還し、更に安全な地域を広げるために残った魔獣の討伐に当たっておる。当面の危機は去っただろう。これだけの危機は百年ぶりじゃ……」
「魔物は撤退を?」
「うむ、魔物は残っておりませぬ。ただ魔獣の数は依然多く、魔獣同士でも戦闘が散見される程度じゃ」
「魔人は?」
「発見できませんでした。魔物と共に退いたものかと……」
「それでは僕は引き続き魔獣の討伐に協力しますね」
「それはありがたい。勇者様が参加してくださるのであれば百人力じゃ」
ルカの申し出に二つ返事で感謝を伝える族長。
ルカとしてはこの機会に勇者魔法を実践で使う練習をしておきたいのでWinーWinだ。
「それではー、私は今日も救護所に詰めてますねー」
「レミッサ殿も助かる。貴殿の聖女のような御業、ワシの耳にも届いておる」
昨日空っぽになっていた救護所は、やはりレミッサが治療した結果だったようだ。
「私はルカのサポートに付くわ」
「頼んだぞ、アイシャ」
前衛のルカに対し、中~後衛をこなせるアイシャがサポートに入ることになった。
ちなみにレミッサは前衛か後衛だ。回復役に加え、攻撃は高威力の魔法をぶっ放すか、直接聖杖でぶん殴るかの二択である。とても両極端だ。
●○●○●
「ったく、なんでこいつらは撤退しないのよ!」
ぶつくさ言いながらも矢を放つ手を止めないアイシャ。
体重100キロ以上かと思われるビッグボアに体長5メートルを越えるブラックベア、火を噴くサラマンダーまで選り取りみどりである。
「獣に近いから言うこと聞かせられないんじゃ無いの?」
【――――放て聖なる斬撃】
ハッッ!!
シュッ――――
ギャオッッ!
ルカの放った斬撃は、広範囲に飛び複数の魔獣にヒットしたが、ダメージは与えられたものの一発では倒れなかった。
勇者魔法は瘴気に効果をもたらす。なので、半分獣の魔獣に対しては効果が半減するようだ。
「それも勇者魔法?」
「そうだよ。魔物だったら今ので真っ二つなんだけどな……普通に斬撃を浴びせて血を流させた方が確実かな?」
ハッ――――
しゃべりながらもルカの斬撃は魔獣を捉え、動きが止まった隙にアイシャの矢が頭に刺さり絶命していく。
時々休憩を挟みながら討伐は夕方間際まで続いた。
●○●○●
――――三日後。
エルフの里の入り口の方が何だか騒がしい。
ルカが近づくと、一人のハンターが声を掛けてきた。
「勇者様!」
「あなたは確かギルドに居た……」
「あの後、知り合いに片っ端から声を掛けて大急ぎで駆けつけたんだ。とりあえず三十人。領軍にもギルドマスターが早馬を送っていたから、数日中には到着するんじゃねぇか?」
「助かります! 当分の脅威は退けたんですが、魔獣の数がまだ多くて……。交代で討伐してるんですが、エルフの人たちは疲れが見えて怪我人も増えてたんです」
「とりあえず、ギルドから手紙を預かってきたから、族長のところに案内してくれ」
その後、エルフの里とハンターギルド間で応援要請について正式に確書が結ばれ、ハンターたちは魔獣討伐に参戦した。
更に四日後、領軍の即応部隊がエルフの里に到着した。ハンターギルドからの早馬を受け、事態を重く見た領主が異例の早さで派兵してくれたようだ。
ここまでくれば戦力は十分である。戦い続きのエルフたちもようやくまとまった休息を取れるようになったのであった。
程無くして、魔獣の残党も討伐が進んだため、ルカとレミッサは本来の旅路に戻ることにした。
●○●○●
――――エルフの里に滞在して一週間が過ぎたころ。
いよいよルカとレミッサはエルフの里を出発することになった。
里の入り口では何故かアイシャも旅支度をして一緒にいた。
「一緒に来てくれるの?」
「ええ、魔王を倒すんでしょ? 今回みたいなことを続けてされちゃ里も保たないわ。元凶を倒さないと! それに炎の勇者のパーティにもエルフが参加していたそうだし。いいでしょ?」
「僕は大助かりだよ。レミッサと二人じゃバランスが良くないからね」
レミッサと二人では、レミッサを守りながら立ち回らないといけないためルカの行動が制限される。弓と魔法が使えるアイシャがいれば、攻守共にサポート役となってルカはもっと自由に戦えるだろう。
「じゃあ、出発しようか。ほら、レミッサ! 門に寄っかかって寝てないで出発するよ!」
「はいー、朝早いですよー。あらアイシャさんもご一緒に?」
「それ今話してたよ。パーティーに参加してくれるってさ」
「それは心強いですー」
いつも通りの緩い雰囲気で、ルカ一行はエルフの里を後にしたのであった。
次回更新は3/20予定です。
【ざっくり設定集】エルフ族
姿は良くあるエルフ像。すらっとしてて耳が長い。全種族の中で最も寿命が長く、数百年単位で生きる。ちなみに長老であった勇者はルカが三人目。魔法と弓が得意。森の中に住んでいるが別に排他的という訳では無い。




