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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第三章
32/71

30.第二城壁防衛戦

 ――――エルフの里、第二城壁。


 ルカはアイシャと共に第二城壁に駆け上がると戦場を見回す。

 戦場は想定していたよりも混沌としていた。

 少し離れた場所に破られた第一城壁が煙を上げているのが見える。

 ここは魔族の支配地域につながる山間部の谷間に位置する。エルフの里と支配地域がつながっているのはこの谷間の道のみだ。後は厳しい山々があり天然の城壁となっている。

 城壁は谷の入り口と出口にそれぞれ築かれており、破られたのは魔族の支配地域側だ。破られた城壁からは次々と魔物や魔獣が流入しており、谷間が埋まるかのような大軍である。第一城壁はこの数の暴力で突破されたのだろう。


「……くっ!」


 悔しそうにアイシャが戦場を見つめる。

 第一と第二城壁の間には兵の駐屯地などもあったのだろうか? 今は破壊を尽くされている残骸が見える。

 よく見るとエルフの兵士と思われる亡骸も散見され、一部は魔獣によって食い荒らされていた。

 第二城壁の上を見ると今もエルフの兵たちが魔法や弓で必死に応戦している。しかし、外皮が硬い地竜などには矢は刺されど、あまり効いている様子がない。

 エルフ族は魔法や弓の扱いに長けている反面、体格が華奢で重武装をした兵力など物理的な攻撃力が乏しい。今も遠距離からの魔法や弓での攻撃で敵を削ってはいるが、押し返すだけの迫力はない。


「ルカ、あんたは何でもいいから敵をぶっ飛ばして!」


 アイシャが弓に矢をつがえながらルカに言う。

 このままでは第二城壁も止めどない攻撃に晒され続ければ、遅かれ早かれ何時かは突破されてしまうだろう。じり貧だ。


【纏え、貫け、炎の矢】


 ギャッ! グラァーン!


 アイシャがつがえた鉄の矢は詠唱と共に炎を纏い、放たれると城壁に体当たりしようとしていた地竜の眉間に寸分違わず突き刺さった。

 魔法により攻撃力を高めた矢は、城壁の上から放たれた位置エネルギーも糧にして強靱な地竜の頭蓋も突き破ったようだ。


 ドシーン――――


 一拍後れて地竜が倒れた振動が伝わってきた。


「早くっ!!」

「分かった!」


 ルカは城壁の縁に身を隠し、小鬼(ゴブリン)などから放たれる粗雑な矢を避けると、バッグから勇者魔法の書かれたノートを取り出し詠唱に入った。


「誰がやった?」

「アイシャ様だ!」

「「「おぉー!!」」」


 地竜が倒されたことに気づいた兵士たちが、アイシャに気づき歓声を上げる。


「油断しないで! まだ一匹倒しただけ! 大きいヤツに集中砲火! 城壁を壊される!」


 第一城壁が抜かれ浮き足立っていた兵士たちにアイシャが活を入れる。小鬼(ゴブリン)犬人(コボルト)など小型のものであればいくらでも城壁ではじき返せるが、先ほどの地竜や鬼人(オーガ)などが攻撃を続ければ第二城壁も破られてしまうだろう。飛行するものについては第一城壁での戦いで、優先して倒したためか残っていない。

 しかし、敵側もただただやられているばかりでは無い。

 頑丈な竜種やビッグボアなど巨体を前面に押しだし、後方から鬼人(オーガ)が岩の塊を投石したり、蜥蜴人(リザードマン)が炎の魔法を放つなど遠近両方で攻勢を強める。


「なんで魔物と魔獣がこんなに組織立って動いてるのよ?!」

「敵側に人型の魔物、魔人がいたという情報もあります! 情報が錯綜していてまだ確定できていませんが……」

「魔人ですって!?」


 騒ぎを聞きつけて指揮官格のエルフがアイシャの横に来て情報を伝える。

 魔人については、過去あまり遭遇した記録が存在していない。

 一般的には人型の魔物と考えられている。皮膚の色はやや黒みがかっており、頭には角が生えているという特徴がある。また、人型と言っても腕が二本以上あったり、コウモリのような羽が生えているなど、人型の範疇に収まらないものも過去に確認されている。他に特徴としては、彼ら彼女らは魔物や魔獣と共に現れる。それ故、操る能力を持っているのではないかというのが専門家の見解だ。そして魔人の”人”としての極めつけとして、意思疎通を図ることができたという話もあるが真偽の程は明らかになっていない。


【守れ、風の防壁】


「ぎゃーっ、くうぅっ、痛い痛い……」

「衛生兵、救護所へ運べ!」


 敵の攻勢が強い。今も鬼人(オーガ)が投げた馬車サイズの大岩が着弾し、風魔法の防御が間に合わなかった兵たちが負傷した。


「ちょっとルカ、まだなの?」


 横で城壁の縁から出ないようにしゃがみ込んで、ノートを見ながらブツブツ言っているルカにアイシャが少し苛ただし気に言う。


(こっちも必死にやってるんだって!)


 詠唱に集中しているため言い返すこともできず。必死に詠唱を続けるルカ。既に二回失敗している。勇者魔法は回数制限があると言い伝わっているため、失敗含めあと何回発動できるか分からない。ちなみに前回発動した定期討伐のときは五回目で発動したので、あと三回は最低発動できるはずだ。


(よし、きたきた……今回はいける)


 練習の甲斐あって今回は三回目でようやく詠唱の最終段まで辿り着いた。ルカは、慎重に城壁の縁から立ち上がって戦場を見渡す。

 城壁に一番近い位置にいるのは竜種を始めとした大型の魔物と魔獣。中盤から奧に掛けて数は多いが小型な小鬼(ごぶりん)などが所狭しと詰めかけている。


(とりあえず、大型のヤツをどうにかしないと)


 中型から小型のものはエルフの攻撃で倒すことができる。ルカは大型のものがいる最前線に術の範囲を向け、魔法を発動させた。


【浄化す。魔を滅ぼす聖なる領域】


 ピカーーーーー、シュン――――


 ギャオーン!

 ガァーー!


 魔法が発動すると、魔物は塵となって空気に溶け、魔獣は体内から瘴気を黒い煙のように吹き出しながら、悲鳴を上げ地に倒れる。

 第一城壁から第二城壁の間にいた2/3が忽然と消滅し、残った魔獣も地に伏している。

 それを見届けるとルカは、やはり、ごっそりと何か魔力では無いが力が抜ける感覚があり、再び城壁の縁に隠れるように座り込んだ。


 ザワザワ――――


 何が起きたか分からないエルフの兵たちが戸惑っている。


「今だ! 押し返せ!」


 一部始終を見ていたアイシャの横にいた指揮官は我に返ると、大声で全軍に命令を下した。

 金属鎧に身を包んだ近距離戦闘を行うための兵たちが出陣し、弱っている魔獣に止めを刺していく。

 後方にいて難を逃れた魔物たちは第一防壁の外へ逃げて行った。


「……えーと、誰なんです彼?」

「ああ、紹介してなかったわね。彼はルカ、今代の勇者よ」

「あはは……始めましてルカです。こんな体勢ですみません……」


 ちょっと恥ずかしそうに指揮官に挨拶をするルカ。先ほど発動した勇者魔法の後遺症で強い倦怠感に見舞われ、城壁を背にして座り込んだままだ。


「ゆ、勇者様ですか!? おい! 誰か肩を貸してやれ! 勇者様ここは大丈夫ですから一旦休憩してください」

「ありがとうございます」

「あと何発かさっきの撃てないの?」


 座り込んだままのルカにアイシャが尋ねる。


「回数的には使えると思うけど、一発撃つとヘロヘロになっちゃうんだ……」

「凄い威力だったものね……いざというときには、また使ってもらうしかないと思うからゆっくり休んでね」


 そう言うとアイシャは、指揮官と一緒に話すのであろう、城壁下の天幕に向かって指揮官と歩いて行った。


    ●○●○●


 ルカが兵士の肩を借りて救護所に入る。

 それを見るとレミッサが血相を変えてやってきた。


「ルカさん! 大丈夫ですか!? どこか負傷を?!」

「レミッサ大丈夫だから落ち着いて? 勇者魔法を使っただけだから」

「なるほどー、あれを使ったんですね?」


 彼女はずっとこの救護所で治療に専念していたらしい。

 先ほどまで使われていたと思われるベッドが多数空になっていた。

 今は空になったベッドを掃除していたようだ。


「ルカさん、こっちへどうぞ。けが人は片付けちゃいましたからゆっくり休んでください」

「ありがとう、レミッサ」


 重い体をベッドに横たえると直ぐに睡魔がやってきた。

次回更新は3/15予定です。

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