27.血塗れの聖女
皇都でルカが修行を行っている中、フェルティラ王国の王城ではエレオノーラ姫がルカからの手紙を受け取っていた。
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エレオノーラ様
皇都では充実した毎日を送っています。先日も勇者魔法も上級まで発動に成功しました。物語には万の軍勢を退けたとありますが、参加した定期討伐では、千の魔物を消し去ることができ、自分でも驚きです。
話は変わりますが、皇都ではお湯を注ぐと花が開くお茶が流行っているようです。レミッサに連れられて一度飲んで見ましたが、見た目は凄くきれいで味は紅茶とは違う味がしました。機会があればご賞味ください。
この後はルーシス大聖堂での修行を一旦終え、王様に頂いた紹介状を元に剣聖に会いに行こうと思っています。
ルカ
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「ふふっ」
自室でルカからの手紙を広げながら上機嫌なエレオノーラ。
最初の手紙は良く分からない内容であったが、次の手紙以降はちゃんと中身があり、リクエストの通り友人に送るようなものになっていた。それに――――
「こういったちょっとした気遣いが嬉しいんですよね」
いつもルカの手紙には一輪のドライフラワーが添えられていた。今回のものは皇都の周辺に咲くごく普通の花であるが、素朴な色合いでエレオノーラは好きだった。
「次はいつ届くでしょうか?」
日々面倒な公務に勤しむエレオノーラの楽しみにルカの手紙はなっていたのであった。
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――――定期討伐に参加してから三ヶ月後。
ルカが皇都に滞在し始めておよそ半年が経過していた。
その間ルカは、精力的に勇者魔法の習得に励み、中級までの使い勝手が良い魔法については戦闘中にでも発動できるまでに成長していた。
併せて皇都周辺にある森にも繰り出し、魔物の討伐を兼ねて上級の勇者魔法の発動も特訓した。しかし、如何せん詠唱が長く、発動までに時間が掛かり使い勝手が悪いので、未だに詠唱を補助する自作のノートを使いながらに留まっている。
だがいつまでも魔法の練習だけをしている訳にはいかない。世界には魔物や魔獣の脅威に晒されている人々が沢山いる。それらの脅威を取り除くことも勇者の大切な仕事である。
「お世話になりました」
「成長なさりましたね。これだけ勇者魔法が使えるようになれば、そうそう後れは取らないでしょう」
ホリス教皇にお礼を言うルカ。
今日、次の目的である剣聖に会うために出発するのであった。途中には魔物や魔獣が多く出没する地域もあるため危険も伴うが、今の実力であれば問題は無いだろう。
「いつでも立ち寄ってください。教会は勇者様を応援しております」
「はい」
「レミッサもしっかり務めなさい。ルカ君に迷惑を掛けるんじゃないよ」
「分かってますよー」
少しブーたれた表情のレミッサにホリスは微笑みながら二人に手を振り別れた。
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剣聖の住まう場所は、コーペランテ諸国連合内に存在する。そこには腕自慢の戦士たちが多数集まって村を形成している。武術を習得する修練場も多数あり、腕を高め合っているのだ。
山奥に創られたその場所は、諸国連合の領土に属してはいるが独立した存在感を放っている。
――――聖ソルティス神国の皇都を出発して早二ヶ月。
ルカたちは剣聖に会うため、まずはアルミス帝国領に入りコーペランテ諸国連合との国境を目指して順調に北上を続け、とある中規模の街にやってきた。北に入るにつれて野生動物ではなく魔物や魔獣と出会うことも多くなっている。
その間、レミッサが馬車で寝過ごしどこかへ旅立ちそうになったりと色々あったがここでは割愛する。
遅めの昼食を取るため昼下がりのハンターギルドに入ると、そこそこ人が居た。
「「「ざわっ……」」」
人々はルカ一行を見ると、一瞬驚いた表情になり、なんとも言えない表情になって目線を外した。
「一体なんだ?……」
いつも見た目だけはパーフェクトな聖女である神官レミッサに男達の邪な目線が集まることは多々あるが、今日は何やら様子がおかしい。
ホールにあるテーブルを囲う厳つい男達が小声で話す声が聞こえる。
「おい、また竜が出たのか?」
「俺はもう討伐なんか絶対に参加しない」
「臓物を引き摺り出す血塗れの聖女……うっ頭が」
「落ち着け! しっかりしろ!」
青い顔をした仲間の背中を摩っている様子も見える。明らかに様子がおかしい。
そしてその原因は、横で暢気にお昼ご飯へ思いを馳せている神官様にあるらしい。
ルカはギルド内に併設されている飲食スペース、そのできるだけ隅の方の席に着席しレミッサに質問した。
「レミッサ、この村でいったい何をやらかしたの? 血塗れの聖女とか聞こえたけど……」
「えっ? この村ですか? えーと、数年前に竜が出て、その討伐部隊に従軍して竜を倒しましたけど?」
「いやいやいや、絶対それだけじゃないでしょ、あの厳ついおじさん過呼吸みたいになってるし……」
「えーーっ、子供も助けたんですよ私、功労賞! 知ってます? ルカさん? 竜って大食漢ですけど消化が遅いんですよ、だからさっさと首切って殺して腹を割ると生存者が居たりするんです」
彼女自身は身に覚えが無いという言い草だが、絶対にそれが原因じゃないかなと? と、相変わらずほんわかしながら竜に対する殺意がすごいレミッサの話を聞きながらルカは思った。
●○●○●
「では近隣で竜が出たということではないのですね? よかったぁ」
上司にせっ付かれたのか、ルカとレミッサが暢気に昼食に舌鼓を打ち、食後のお茶を飲みながら話していると、ギルドの若い職員が来訪の理由を尋ねてきた。
レミッサが勇者パーティとして旅をしている途中に寄っただけと答えると、ギルド職員の女性は心底ほっとした様子になった。
せっかくなのでギルド職員に以前何があったかを聞いたところ、こういうことだったらしい。
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――――遡ること三年前。
当時神官見習いであったレミッサは、修行を兼ねて竜の討伐部隊の回復要員として従軍していた。
竜と聞いて戸惑う同級生を尻目に、真っ先に手を挙げたレミッサのギラギラした目を当時の担当教官は忘れられないと語る。
とてもやる気があり素晴らしいと当時の教官は思ったが、後々あんなことになるとは思わなかったと語っている。
神官は通常、後方に居てけが人の治療に専念することが多い。しかし彼女は攻撃を担う魔法使いの中にしれっと混ざっていた。当然指揮官に見つかったが、攻撃魔法も使えると自信満々に説明し、治療に影響を出さないという条件で了承をしてもらった。竜を相手にする上で、戦力は大いに超したことはないからだ。
それが悲劇の始まりだった――――
人が住む領域のすぐ近くに居座っている竜はかなりの大型で、既に何人もの人が襲われてる。つい昨夜も近隣の村が襲われた。
竜は満腹なせいか、森の開けた場所で横になって寝ていることが斥候により確認された。そのため、地元の高位ハンターと領軍の共同討伐作戦が実行された。
作戦としては、まず魔法使いと弓使いが竜の認識外から先制攻撃を叩き込む。その後、重装歩兵を全面にし剣や槍で攻撃を仕掛けるという流れである。
攻撃開始の合図がかかった。
「攻撃開始!!」
ギャアギャア――――
魔法と矢が乱れ飛ぶ、竜が飛び起き叫ぶ。
討伐隊側にとって運が良いことに、当たり所が悪かったのか翼にダメージを受けたようで、竜はすぐに飛び立つ様子はない。
「突撃ーー!!」
突撃の合図と共に、レミッサも肉体強化の魔法を自身にかけて重装歩兵を追い越す勢いで駆ける。
「おい、嬢ちゃん!」
追い越された兵が驚き、制止する声も聞こえたが無視、まだ砂埃が舞い視界が悪い中、竜に突撃する。
レミッサにとって竜は滅ぼすべき家族の仇である。
全ての音を置き去りに竜へ肉薄するレミッサ。砂埃が煙幕となり視界も悪く態勢を立て直しきれていない竜。
前屈みになりその長い首を左右に振っている竜の首目掛け、自身の持つ聖杖を力の限り突き刺した。
ブスッ――――
ギャァーーーン!
見習い神官である彼女の聖杖は支給品のごく一般的な杖である。しかし彼女は杖の石突側をひたすら研ぎ続け、その先端は刺突武器の如く尖らせていた。そう、今このときのために。
ブチブチッ――――
ギャァアーーー!
レミッサの杖は見た目に違わず深々と竜の首に突き刺さった。突然の傷みに暴れる竜。必死にしがみつくレミッサ。
杖にしがみつきながら魔力を練る。そしてレミッサは突き刺さった杖の先端を起点に、保有する魔力の限りを込めた爆発の魔法を起動させた。
バーン……バシャバシャ……
後から追いついてきたハンターや領兵はその光景に唖然とする。
首が吹き飛び血飛沫を上げる竜を背に、聖女のような微笑みで立つ神官がいた。
ゆっくりと背後に倒れていく首を失った竜の屍。
グラッ、ドーン――――
人々を恐怖に陥れていた竜はあっけなく地に沈んだ。
「神官の嬢ちゃんが倒したぞーー!!」
追いついてきた兵たちの誰かが叫んだ。
「「「うぉぉぉーー!!」」」
「生きて帰れるっ!」
兵たちが雄叫びを上げ喜びの輪が広がる。
しかし、周りの喧噪に意にも介さず、倒れていく竜を見届けるとレミッサは、神官服をゴソゴソする。すると、見えないように背負っていたのか、刃渡り1mを超すような大きな鉈を取り出した。
そしてレミッサは竜の腹に乗ると、その鉈を突き刺した。
ザク……ザク……びちゃびちゃ――――
興奮冷めやらない兵たちも、倒れた竜に乗り何かをやっていることに気づく。
ザク……ザク……びちゃびちゃ――――
さっきまで興奮状態だった兵たちは静まりかえりその凶行に目を剥く。一部慣れていない若い兵士が顔を青くし草むらにかけていく。
後ろからはレミッサが竜を喰らっているように見えた。
流石に声を掛けるべきかと、隊長が責任感からか近づき声を掛けようとする。
「おい……何やってんだ……? もう死んでんだろ?」
近づき恐る恐る声を掛けたそのとき。
ビュー、びちゃびちゃ――――
太い血管でも傷を付けたのだろう、竜の死骸から大量の血が噴き出し、近づいていた隊長に頭から降り注いだ。
――――バタン。
「……ッ! 隊長ー!! 衛生兵呼んでこい!」
頭から血塗れになった隊長は、そのままきれいに後ろに倒れ気絶した。
「「「…………」」」
誰もが止めることもできず呆然と見守るなか、神官服を血塗れにしながら内臓を引きずり出していく。
今度は正気を取り戻した地元のベテランハンターが近づいていく。
兵士と比べ、野生動物を捕らえ、自ら血抜きをし捌く機会も多いハンターの方が|血塗れ≪スプラッタ≫な光景には耐性があったようだ。
「おい、姉ちゃん……生で食うと腹壊すぞ……後で鹿肉でも食わせてやっから……」
それでも血塗れの女は怖いのか、恐る恐る声を掛けると――――
「いた……」
それは小さなつぶやきだったが、やけに耳に響いた。
するとレミッサは、上半身を竜の体内に突っ込む勢いで体を入れた。
ズボッ――――
「おい!」
「ぷはぁー」
レミッサが体を引き抜くと女の子を抱えていた。
「生存者!! 神官部隊を呼んでください!!」
その場で回復の神聖術をかけ、命に問題がないことを確認すると、近くにいたハンターに微笑みながら女の子を渡し、再び竜に潜っていった。
「――――ッ!!」
ハンターはクラッときたが女の子を落とすまいと踏ん張った。
普段であれば男達を虜にするであろう微笑みも、今は血塗れである。恐怖で意識が飛びそうになる方の”クラッ”である。
後に目撃者の話として、血塗れの神官服を着た神官が笑顔で女の子を上に掲げている姿は、女の子を悪魔召喚の生け贄にでもしようとしているかの有様だったと語る。
救出された女の子もまた、意識が戻ると血塗れの女性が鉈を片手に自分の手を掴んでおり悪魔かと思った。すごく怖かったと語る。
そんな阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出した本人は、竜は倒せたし生存者も助けることができたと大満足であったため、周囲との認識にかなりのギャップが生じていた。
もちろん一人で飛び出したことについてはこっぴどく叱られ、以後、飛び出しはしなくなったが、さらに数度の血塗れの聖女事件を起こした。最終的には、竜討伐については出禁か後方の治療所待機の措置が取られたのであった。
攻撃力はピカイチだが弊害が大きすぎる、一部の兵たちがそのあまりにスプラッタな光景を見てトラウマになり、しばらく使い物になってしまうからである。
副次的な効果として、これまで女性の神官は治療時に男性ハンターや男性兵士に軽く見られたりセクハラをされたりすることもあったが、女性の神官に治療されるとあの惨劇を思い出すのか、おとなしく治療を受けるようになった。加えて、刃物を手に軽く微笑むと顔を青くするなど、以前よりトラブルが減ったと、いつもトラブルから守っている男性神官は語った。
中には昔やられた仕返しに、必要以上にトラウマを刺激する女性神官もいたようで、セクハラして悪かったと謝罪文と共に、助けてくれと現場を取り仕切る隊長に泣きついた者もいたとか。
次回更新は3/5予定です。




