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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第二章
28/71

26.帰ってきた皇都

 ルカが上級の勇者魔法を発動した後、消滅しなかったが致命傷を負っている魔獣を片付けた討伐隊は、柵や障害物を増やすなどキャンプ地の補修と防御を強化した。それと平行して各方面に斥候を放ち、再びの襲撃に備えた。

 斥候が一時間程度の範囲を捜索した結果、魔物・魔獣の姿は無く一先ずは安全が確保されたと判断された。

 その晩は見張りを多く立てるなど対策をして、緊張感のある夜は明けていった。


 ――――次の日の朝。


「う、うーんっ」


 ルカが宿泊用のテントから出てくる。

 最大の功労者であり、昨日、上級の勇者魔法を放ったせいで倦怠感に見舞われていたルカは、夜の見張りを免除され一晩ゆっくり休むことができた。そのため、倦怠感も取れて調子はいい。


「おはようございますー、ルカさん」

「レミッサおはよう。眠そうだね」


 いつにもまして眠そうなレミッサ。


「神官も交代で夜勤してましたからねー」

「レミッサ、夜起きてられるの?」


 いつも眠そうなレミッサが夜勤などできるのだろうか? とルカが疑問に思い聞いてみると。


「いいえ」


 きっぱりと否定するレミッサ。


「?? それじゃ夜勤にならなくない?」

「眠くもなりますよー、夜ですもん。だから救護室のテントに誰か近づいてきたら飛び起きるんです。起きてる振りは慣れたもんですよ-。だけどそれじゃあ眠りが浅くて眠くて眠くて……」


 普通に寝ても眠い彼女は、仮眠と居眠りでは到底睡眠時間が足りないのだろう。いつもにも増して目が閉じかけて細くなっている。


「……そう。まだ集合時間にはあるからそこら辺の椅子で寝てれば?」

「そうしまーす」


 レミッサはふらふらした足取りで、適当に置いてあった椅子に辿り着くと直ぐに寝てしまった。その無防備な姿にルカは念のため側にいてあげるのであった。


     ●○●○●


「皆、昨日はお疲れ様。今日は瘴気溜りの周辺まで確認を進めることにする。勇者様の魔法の効果がどこまで続いているか分からないため、慎重に進出してほしい。伝令担当は連絡を密に。では解散」


 指揮官が今日の方針を説明する。

 昨日はイレギュラーなことが発生したが、今回の定期討伐で肝心な瘴気溜り周辺の確認は必須である。昨日のように膨大な魔物が観測されるようなら、もっと大規模な軍を派遣する必要が出てくるためだ。


「ルカさんのあれってどこまでが範囲なんですかー」


 まだ眠そうなレミッサがルカに聞く。


「うーん、正直よく分からないんだよね……あの時は必死だったから」

「でも、周囲に魔物の気配はないって言ってましたし、千匹くらいは倒したんじゃないです?」

「伝承にある万の軍勢を退けたっていうのも、あながち誇張では無いのかもしれないね」


 過去の伝承では、二百年前に現れた最強の勇者の呼び声高い水の勇者は、人類が生存域の半分を失った状態から、一人で万の軍勢を退け反攻を成し遂げた、というものがある。

 勇者初心者のルカが付け焼き刃で発動した勇者魔法で千の魔物を倒したとなれば、万の軍勢というのも創られた物語(プロパガンダ)ではない可能性がある。


「とりあえず、今日はある程度固まって進むから昨日よりは安全だね」


 昨日は偵察も兼ねていたため四方に分かれて各班が森へ入ったが、今日は念のため間隔を開けて全班が、瘴気溜りの方向に進むことになった。最優先事項として瘴気溜りに異常がないかの確認をする。

 森の最深部にある瘴気溜りまでは、スムーズに進んでも片道五時間は掛かる。魔物の状況によっては辿り着けない可能性もあるが、今日の状況を見て明日以降の方針を決めることになるだろう。


    ●○●○●


 ――――夕暮れ時のキャンプ地。


「今日はあんまりいなかったですねー、昨日みんな集まってきちゃったのでしょうか?」

「うーん、どうなんだろう? 昨日固まっていた分は倒しちゃったからいつもくらいに戻ったのかな?」


 結論から言って、一行は最深部の魔力溜りまで辿り着いた。

 その周辺には特に異常は見受けられず、出てくる魔物や魔獣の数も通常の討伐の時と同程度だった。

 そのため、明日以降は定期討伐のスケジュールに戻して、各地で討伐を行うこととなった。


    ●○●○●


 聖ソルティス神国、皇都を出発してから二ヶ月――――


 ルカとレミッサは、帝国の森で実施した定期討伐の全日程を終え、皇都のルーシス大聖堂まで戻ってきた。

 結局の所、スタンピードの原因は不明とされ、定期討伐の実施頻度をしばらくの間高めることを対策として一旦結論づけられた。


「久しぶりの我が家ですー」


 レミッサが嬉しそうに言う。彼女は女性神官向けの寮に住んでいる。

 寮の前でレミッサと別れ、ルカも教皇庁の宿泊所にある自分の部屋へ戻った。

 ホリス教皇への報告は明日行う予定になっている。


「ふー、長かった……」


 荷物を解きベッドに腰掛けたルカ。今日はゆっくりしたい気分だ。

 そのままベッドに倒れ込みながら、今回の旅を思い出す。

 レミッサとは仲良くやっていけそうだ。若干ルカが世話を焼いているような気がするが……朝弱いのに加え、目を離すといつの間にかいなくなり、屋台で串焼きを買ってるなどマイペースなところがあるのだ。

 収穫もあった。ずっと本と睨めっこしていた勇者魔法を実践の中で使うことができた。言い伝えでは無い実際の効果を知ることができたのは大きい。

 しかし課題も見えた。上級になると詠唱が難しく実践の中で使うのはまだまだ難しい。ただ、効果を知ることができたので、これからは練習場でも練習ができるだろう。今後に期待だ。

 ルカはそんなことを考えながら、微睡(まどろ)む頭に意識を手放した。


    ●○●○●


「――――ルカさーん、ルカさーん」

「はっっ!! ハアハア、はぁー」


 レミッサの声に飛び起きたルカ。汗でびっしょりだ。


「大丈夫ですかールカさん? 鍵空いてましたよー」


 気がつくとベッドの横にレミッサが立っていた。


「うなされてましたよー? ちょっと待ってくださいねー。むむむっ! えい!」


 レミッサが手に持っていた聖杖で床をトンと一回叩くと、精神を落ち着ける神聖術が発動し、気分の悪さがスーッと引いていった。


「お腹すいちゃいましたー、何か食べに行きましょー」


 食事に誘いに来たところ、部屋からルカのうなされた声が聞こえてきたので入ってきたのだった。

 気が張っていたのが自室に戻ってきて解けたのだろう。

 現場では何も感じなかったが、故郷で野生動物を狩っていたと言え、あの血の匂いが充満する大量の魔獣の亡骸には精神が堪えていたのか、悪夢に見舞われていたらしい。

 いつもマイペースなレミッサを見てホッとしつつ、汗びっしょりとなったシャツを着替えるため、一旦外に出てもらい支度をした。

 夕食は何を食べようか? よく食べていたチキンソテーにしようか? などと考えながらルカは部屋を出る。

これにて第二章は終了です。

次回から第三章に入ります。三章も引き続き起承転結の”承”で勇者パーティーも増えていきます。

次回更新は3/1予定です。

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