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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第二章
27/71

25.スタンピード

 弓を持つ男性ハンターと剣を持つ女性ハンターと世間話をしていたところ、馬車の方から声が掛かった。


「おーい、出発するぞ」

「おっと、雑談はここまでにしよう」


 ルカたちは馬車に乗り込み、一路、今回定期討伐を行う森へと向かった。


    ●○●○●


「よし、こんなもんか」


 討伐隊一行は森のまだ浅い開けた場所に陣地を築いた。

 ここには休息用のテントや物資、救護所などが置かれる。また、周囲に簡単ではあるが柵なども設置され、魔物の襲撃への備えもされている

 それらの陣地構築は軍の兵たちが行っているので、その他の人々で物資の搬入を行っている。

 この場所は定期討伐でいつも使われている場所のようで、皆テキパキと動き準備はあっという間に整った。


「さて、一先ず陣地構築お疲れ様。一時間の休憩の後、今日は森の状況を確認する。明日の朝から本格的な討伐に入るのでそのつもりで備えるように。では、解散」


 指揮官が今後の予定を告げる。

 今日は半日以上移動と陣の設営に時間を使ったため、簡単な偵察だけになるようだ。

 討伐の日程は今日を入れて五日間、班ごとに瘴気溜りの周囲を巡り、増えた魔物や魔獣を討伐していく。


 ――――一時間後。


「それでは、五班出発する」


 五班の班長、神官のカヌスが号令を出す。

 その五班では定期討伐に勇者の訓練を兼ねるため、教会側が班長に差し込んだのだろう。

 しかし、がたいの良さで言えばカヌスは兵士にも引けを取らない。

 第五班はプレートメイルに身を包んだ帝国兵五名、出発前に話していた地元のハンター二名、そして班長のカヌスとルカとレミッサで十人体制だ。事前に兵士の方にも話がいっていたようで、「勇者様!」とルカは握手を求められた。


 ――――小一時間進んだ森の中。


 討伐が必要になるような森ではあるが、まだ瘴気溜りのある深部からは遠い。木々はある程度まばらで、西に傾きつつある日差しも差し込んでいる。

 すると木々の向こうから粗末な棍棒を構えた小鬼(ゴブリン)が五匹襲ってきた。


「ここは僕に任せてください!」


【放つ、聖なる斬撃】

「ハッッ!!」

 シュッ――――

 ギャギャ――――


 ルカが腰だめに構え水平に振り切った剣先から光の斬撃が飛ぶ。

 斬撃は狙い違わず五匹の小鬼(ゴブリン)に命中し、上半身と下半身を泣き別れさせた。


「「「おおっ」」」

「おー、きれいに斬れますねー」


 周囲から驚きの声が上がる。

 初めて見たレミッサも感心したように頷いている。


「勇者魔法は魔族に特効って言われているだけあるな」


 結果に少し呆けながら、ルカは残心を解いて、放った斬撃の痕を確認する。

 直撃した小鬼(ゴブリン)五匹は既に黒い粒子になり魔石が残るのみとなっていた。

 小鬼(ゴブリン)を越えて飛んでいった斬撃は木々にも直撃をしていたが傷は一切ついていない。皇都の練習場で的に向けて放った時と同じで、その時は放ったは良いが効果が分からなかった。木製の的に傷が一切つかなかったからだ。

 しかし、今回の結果を見るに、勇者の攻撃は瘴気を持つものに対してのみ抜群の効果があることが分かった。

 更に奧に進むと、散発的ではあるが小鬼(ゴブリン)大鬼(オーク)が現れるようになった。

 その度にルカは、皇都で習得した勇者魔法を試していった。光の斬撃、光の矢を降らす範囲攻撃、光のシールドなどなど。試したのはルカが暗記している初級から中級に入る程度の魔法であったが、どれも魔物に対しては良く効いた。


    ●○●○●


「うーん、何か今回魔物が良く出るな」


 先頭を行く兵士が話す。


「そうだな、まだそこまで森の深部って訳じゃ無いのに、こう引っ切り無しに出てこられると疲れるな」


 先ほどからルカの訓練と並行して、ルカが対応している以外の方向から迫る魔物に兵士やハンターが対応していた。


「今日は偵察程度だから、あんま矢を持ってきてないんだよな。そろそろ戻らんか?」

「そうですね、引き返しましょう。他の方面に行った班の結果も気になります」


 弓を使う男性ハンターの言葉にカヌスは頷く。


    ●○●○●


 魔物の襲撃が途切れたタイミングで後退し、森の浅いところにある集合地点まで戻ってきたルカを含む第五班。

 周囲を見回すとまだ戻ってきていない班もいるようだ。

 レミッサがのんきに今日の夕食の話をしていると、五班とは別の方向から軽装なハンターが一人駆け込んできた。


「スタンピードだ!! やばい、大量に押し寄せてきやがる」

「どんな状況だ?」


 周囲のざわめきをかき分け冷静に指揮官が問う。


「あまりにも魔物に出くわすから、斥候だけ奧に偵察に行ってもらったんだ。そしたらとんでもない数の魔物がひしめき合っていやがったってんだ。それで撤退しようとしたんだが見つかっちまって、こっちに向かってる! 一班だけじゃ対処できん、けが人も出てる。オレがまずは伝令で来たって訳だ」

「十人援軍に送る。けが人を収容して戻ってこい。他の者は攻撃に備えろ!」」


 指揮官は兵を差配し救助に向かわせた。


「はっ!」


 程なくして、けが人を担いで撤退に成功したが、その後ろから大量の魔物と魔獣が押し寄せてきた。

 定期討伐故、経験を積ませるために若い兵士も多く、狼狽えている者もいる。そんな空気を一変させるように指揮官が叫んだ。


「静まれーー!!」


 指揮官の大声がその場にいる兵士とハンターの動きを一瞬止める。


「盾兵! 前に出て壁を作れ! 歩兵は槍で突いて近寄らせるな! 魔法が打てるヤツは盾兵の後ろから前面に斉射! 急げ!!」


 皆の動きが止まった一瞬を見計らい矢継ぎ早に指示を飛ばしていく指揮官。


「全て倒す必要は無い! 受け流しつつこのままキャンプ地まで後退する! ここは戦いづらい、立て直すぞ!」


 呆気にとられていたルカに近づきカヌスが言う。


「勇者様、この場を打開できるのは勇者様だけです! 何かできませんか?」

「僕が今放てるのは、剣撃を後五発くらいが精々です……それじゃあ焼け石に水です……」


 ルカはパニックになりそうな頭をフル回転させ考える。


「そうだっ! ノート! レミッサ!!」

「はーい? ルカさん何ですか? ちょっと今忙しいんですけどー」


 少し離れたところにいるレミッサに声を掛けると、肩越しに振り返りつつ緊迫感のない返事が返ってきた。

 本人の醸し出す空気に緊迫感は無いが、その間も高位の攻撃魔法を連発していて魔物の大軍の中に火柱がいくつも上がる。ギャップが凄い。


「僕のノート!」

「ノート? ……ああ、はいはーい。どうぞ」


 聖杖を持っていない方の手で修道着の中をごそごそ。

 ノートを取り出すとルカに渡した。


「えーと、確かあれが……あった!」


【守れ、聖なる領域】


 ルカが勇者魔法を発動すると、押し寄せる魔物の大軍から身を守るように一塊になって戦っていた味方を覆うように半球状の光の幕ができあがった。

 魔物たちはその光の防壁に激突するも中には入れない。


「「「おおっ!!」」」


 すると一人の兵士が光の防壁に近づき、激突を繰り返す魔物を指さす。

「すげぇ、魔物の奴ら入って来れないぜ」

「あっ、気をつけて――」


 ドスン――――


「痛っ!!」


 ルカが注意をしようとしたその瞬間。

 魔物の大軍の隙間から、一緒に追い立てられていた普通のイノシシが飛び出し、境目の近くにいた兵士に激突した。


「……この防壁は瘴気を持つ者をシャットアウトするので、普通の動物には効きません……。あと半分動物の魔獣は半分食い止めるだけのようです……」


 ルカが指を差した先には、体長4mを越えるビックボアの鼻先だけ光の防壁に突き刺さっていて、鼻をフガフガさせていた。


「勇者様。これはどのくらい持つのでしょう?」


 指揮官が我に返ってルカに尋ねる。


「分かりません。使ったのが初めてなので……とにかく体勢を整えましょう」

「分かりました」


 現在進行中で防壁にガンガンと魔物がぶつかり、時々関係のない野生の動物がパニックになって突っ込んでくる。

 そんな状況下で撤退の体勢を整えると移動を始めた。

 後から分かったことだがルカを中心にこの防壁は発動しているため、ルカが歩くとそれに伴い半球状の光の幕も付いてきた。そのため、しばらくは防壁に守られつつ後退が(かな)った。

 途中でルカの防壁の効果は無くなったが、辛くもキャンプ地まで戻った一団は、既に壊されていた陣地を復旧させつつ帝国兵を中心に防御態勢を取った。

 際限なく森から湧き出す魔物や魔獣を矢や魔法で減らし、盾兵が食い止め、剣や槍で仕留める。何とか今は耐えているが直に限界が来るだろう。

 その時ルカは状況を打開するため、念のためノートに書き起こしていた上級の勇者魔法を発動させようとしていた。しかし上手くいかない。如何せん、発動に必要な詠唱が難しい上に長く、焦りもあって失敗を重ねていた。


(一回、一回だけでもいい、発動してくれ……)


「ぐあぁー、痛い! 痛い!」

「右が抜かれたカバーに入れ! 押し返せ!!」


 体長が3mを越えるビッグボアが壁役となっていた盾兵の列に突っ込んだ。プレートアーマーを身に纏った屈強な兵士が二~三人吹っ飛んだ

 後列から魔法使いが一斉に攻撃魔法を浴びせ後退させる。


(早く……早く……いけっ!!)


【浄化す、魔を滅ぼす聖なる領域】


 ピカーーーーー、シュン――――


 焦る気持ちを抑えながら詠唱を重ね、発動制限回数が後一回に迫ったところでようやく発動に成功した。

 結果はとても静かであった。爆煙が上がることもなく、ただまばゆい光が辺り一帯を覆ったかと思うと、魔物は塵となり消え去り、魔獣も息絶え絶えで倒れ伏していた。


「「「…………」」」


 一瞬の静寂。


「「「やったー!」」」


 そして歓喜が広まった。

 生き残ったことに涙する者も見える。


「…………油断するな! 残った魔獣を仕留めろ」

「「「おうっ!!」」」


 指揮官の声に一斉に駆け出す兵士とハンター。神官たちは負傷した兵士の治療に当たった。


「ふぅ……ふぅ……良かった……間に合った……」


 ごっそりと何か魔力では無いが力が抜ける感覚があり、地面に座り込んだルカ。その肩を後ろからレミッサが支える。


「ルカさーん! 凄いじゃ無いですかー。一掃ですよ一掃!」


 レミッサはいつもない様子で興奮して、肩を支えたままガクガクと揺さぶる。


「レ、レミッサ……止めてークラクラするー」


 歓喜の声は未だにあちこちから聞こえる。

次回更新は2/26予定です。

【あとがき】

Stampede(スタンピード(・・・))なんですね、スタンビート(・・・)だと思ってました。

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