21.閑話 神官候補生ハイリス
――――聖ソルティス神国、皇都の神官学校。
今は授業の休み時間。
その日もハイリスは校舎裏手、人気の無い裏口横でタバコを吸っていた。
法律上タバコを吸っても問題の無い年齢である。また聖ソルティス教としても禁止されていない。しかし、暗黙の了解として神官の喫煙はよろしくない行為とされている。そのため隠れて吸っていたのである。
「スーー、はぁーー」
バン――――
突然、乱暴に開かれた裏口のドアから、赤毛の女子生徒が出てきた。
目尻がややきつめで意思のしっかりした顔をしている。
高位神官の娘で、女子生徒の中では神聖術の力はトップクラス、才色兼備を備え、聖女称号を得るのも近いのでは無いかとの声も多い期待の生徒である。
そんな、普段画に描いた聖女のような彼女が肩を怒らせ、裏口から少し離れると、手に持っていた沢山の手紙の束を地面に叩き付け、魔法で火を付けた。
「あーもう、どいつもこいつも、自分に酔ってて、ほんとキモい!」
燃やしているのはラブレターのようだ。
家柄も良く、見目麗しい彼女は男子生徒の中での人気も高い。そのため我こそはと思う同じ高位神官の子息から頻繁にアプローチを受けていた。
ただ、高位神官の子どもとはいえ所詮は年頃の男子、女性の好むアプローチなど分からず、引きつった笑顔を返されているのにも気づかず、彼らのアプローチに彼女はストレスを日々高めていた。
「スーー、はぁーー」
燃やし尽くして少し冷静になったのか、振り返るとハイリスが相変わらず我関せずとタバコを吸っていたのに気づいた。
「…………」
全て見られていたのは間違いないが、少し取り繕いながら赤毛の女子生徒、アンナはハイリスに話しかけた。
「あー……えーと。ハイリス君だったかしら?」
「オレの前で猫かぶる必要はねえよ、ハハッ」
「…………」
観念したのかアンナは「はぁー」と溜息を一つつくと、素の話し方で続けた。
「確かフェルティラ王国からの留学生」
「良く知ってんな」
「知ってるも何も、田舎者って馬鹿にした連中、片っ端から模擬戦でやっつけてるじゃない。目立ってるわよ」
「ああいう連中は、鼻先へし折ってやんないとウザいからな。あと田舎者なのは間違いない」
タバコを燻らせながらハイリスは笑う。
「あいつら鼻についた連中だったから、私も見ててすっきりしたわ」
アンナはハイリスの言葉に笑顔で返した。とても良い笑顔だ。
ガチャ――――
「あっ、ハイリス、またこんな所にいたのか」
「ホリス、何か用か? オレと連んでるとまた何か言われるぞ?」
「言わせておけばいい。おや、アンナさんも」
「ごきげんよう、ホリス様」
「”様”はいりませんよ。私はただの同級生ですから」
ホリス、現教皇に近い歴史の古い高位神官の家柄。言わばお坊ちゃま。学校の中でも一目を置かれている存在である。
美しいプラチナブロンドの髪、優しげな目元、家柄を鼻にかけることもなくい性格で所謂イケメンを地で行く男子生徒だ。女子生徒から絶大な人気を誇る。
だが、何故だかハイリスを気に入り友達となった。ホリスと比べ厳つい風貌のハイリスはある意味虫除けの役目にもなっている。
「分かりました。ではホリスさん。何かご用があったのではなくて?」
「…………クッ」
「ええ、少し授業のことで……ハイリスは何故笑いを堪えているのです?」
ガッ――
「ギャッ!」
とっさにアンナは腰掛けていたハイリスのつま先を踏んづけた。
「痛っ――何しやがる」
「ごめんなさい。足を滑らしてしまいまして。オホホッ」
「滑らすも何も踏んづけやがったじゃねぇか」
「うっさい」
「いつから二人はそんなに仲良くなったんだい?」
ホリスがほのぼのと言う。
「痛っっ、いや今日初めてしゃべったよ。おい、アンナこいつは大丈夫だから素で話せ。どうせもうボロ出てるぞ。それにホリスもそんな聖人じゃないぞ」
「ハイリス! ボロとか言うな! 頑張ってんのよ私も。 はぁ……もういいわ。 ごめんなさいホリスさん」
「いえいえ、私も普通に接してくれる友人は少ないですから。三人だけの秘密ですね」
ホリスがうれしそうに答える。
その一瞬後、鋭い目つきに変わりハイリスに一言釘を刺す。
「あとハイリスその話は墓まで持って行ってください」
●○●○●
そんなことがあり、ハイリス、後にハイリスと結婚するアンナ、後の教皇であるホリスは仲良くなった。
周囲からはホリスとアンナは分かるが、なんでハイリスがそこに入っているのかと不思議がられたのであった。




