20.教皇と対面
――――教皇庁。
「どうぞ、中へ」
教皇庁の受付で身分証と、王都でスームスに書いてもらった紹介状を渡したところ、教皇の秘書官を名乗る神官が現れ応接室に通された。
――――しばらくして。
応接室で出された紅茶に喉を潤していると、扉がノックされ先ほどの秘書官が入ってきた。秘書官は扉の脇に避け軽く頭を下げると後から、白地に金の刺繍が施された豪華な神官服に身を包んだ男性が入ってきた。
「よく来てくれた、座ってくれ」
想像していたより若いとルカは感じた。
ハイリスと同期だと言っていたが、髭もきれいに剃っていて見た目さわやかで若く見える。
「初めまして、ルカと申します。今代の勇者に選ばれました……」
とはいえ緊張しない訳では無い。おっかなびっくり頭を下げたルカ。
「私は少し勇者様と話す、少し外してくれ。あと終わるまで誰も中に入れないように」
「畏まりました」
教皇の言葉に礼をもって返し退出する秘書官。
秘書官が退出するのを確認すると、教皇は少し柔らかい雰囲気になりルカに話しかける。
「さて、初めましてルカ君。私は聖ソルティス教会の教皇を拝命しておるホリスという。君のことはハイリスから手紙で直接聞いているよ。奴とは神学校時代の悪友でね、無理かもしれんがあまり畏まらなくも構わないよ」
若干砕けた話し方になった教皇はルカに菓子を勧めると続きを話し出す。
「ハイリスは私のこと何か話していたかい? 学生時代の頃の話……とかね?」
威圧感もなく親しげに話しかける教皇にルカも少し緊張が解け、思い出しながら話す。
「町に居たときは聖下のことを話しているのを聞いたことはありませんでしたが、今回、王都への旅の途中では何回か聞きました。学生時代の一番の友人だったと」
「そうか」
「他に話と言えば……そうですね、寮を抜け出して町に――」
(まさかあの話か……? ハイリスに飲み屋に連れてかれ平民の挨拶だとかで、適当に酒を飲まされ酔い潰れ……奴がトイレに立った隙に娼婦にお持ち帰りされて食べられかけた(意味深)、あの話か!?)
「――町に行って出店で買い食いしたとか。イナゴを甘辛く煮た串を食わせたら、食べ物を粗末にできないと、四苦八苦しながら食っていたのが面白かったと言ってました」
「……あぁ、そんな下らんことばかりしていたな……。私は高位神官の息子だったから、奴から見たら世間知らずで面白かったのだろう。実際奴に連れ回されるまで、この皇都に住まう貧民の実情すら当時の私は知らなかった……。今、教皇になって、与えるだけで全てを救うことはできないことを知ったが、自分の暮らす周りですら見えていなかったことに当時は恥ずかしくなったものだ……」
ちなみに――――
ホリスが食われかけた娼婦は町では有名だったらしく、無垢な天使を堕天使(意味深)にするのが好きな魔女だとか言われている。
彼女は人族とエルフ族のハーフで透明感のある白い肌と、こぼれるような双丘を持ち、その抜群なスタイルが男たちを虜にする。エルフ族の血を引くため年齢不詳、現在高位神官である者の中にも後ろめたいことがあるのだろうか、彼女に微笑まれると挙動不審になる者もいるとか。若かれし時に彼女と一夜の恋をしたのかも知れない。
全寮制の厳しい神官学校でこっそり抜け出すのはよくあることだ。実際そういった世間知らずの生徒が言葉巧みに誘惑しているらしい。神官候補生は皆、成人しているため自己責任だが。
「さて本題に移ろうか。ルカ君、ハイリスからも聞いているかもしれないが、ここルーシス大聖堂の書庫には勇者のみが使える魔法が書かれた書物が収蔵されている。それはきっと勇者としての活動の大きな助けとなるだろう」
「はい、ハイリス先生からは神聖術も学んで来いと言われました」
「そうか。勇者の書物は貴重なもの故、持ち出しができないから滞在中に習得してほしい。ただ、全ての勇者魔法を習得できるかは分からない。難易度があって、どこまで使えるようになるかはそのときの勇者によると過去の記録にある。神聖術については教師を手配しよう」
「ありがとうございます。勇者魔法だからといって全て使える訳ではないのですね」
「そのようだ」
勇者専用の魔法は一騎当千、通常の魔法とは一線を画すものだ。
過去現れた水の勇者、炎の勇者も勇者魔法を使って強大な魔族に立ち向かった。
勇者魔法が書かれた書物は神から授かったと伝わっている。なぜなら過去、誰一人として使えたことのない魔法も書かれているからだ。
つまり、勇者魔法は難易度が分かれており、勇者によって理解し習得できる魔法は制限されている。
「歴史に残る最強の勇者と呼び声高い水の勇者は、勇者魔法を使って万の軍勢を退けたと言われている。しかし、規模が大きい魔法は使いどころが難しいだろう、神聖術の方が使い勝手は良いと思う」
「しばらくお世話になります」
「うむ、教皇庁の宿泊所に滞在するといい」
「ありがとうございます」
コンコン――――
「聖下、そろそろお時間です」
「分かった」
廊下から秘書官が時間を告げる。
「もう少し話したいところであったが、またの機会にしよう」
「お時間頂きありがとうございました」
ホリスは応接室のソファーから立ち上がると退出していった。
ルカは別の神官に教皇庁内にある宿泊所に案内された。




