18.閑話 神官選抜
前話から引き続き閑話です。
――――ハイリスの手紙から三ヶ月。
コン、コン、コン――
会議室のドアがノックされる。
「どうぞ。入ってくれ」
「失礼致します。聖下、例の候補者をお連れ致しました」
会議室に五人の女性神官が入ってくる。
年齢は様々で、治療院を取り仕切るベテランから神官学校を卒業してからまだ日が浅い者までいる。
神官には男女が存在するが、治癒の神聖術に関しては女性神官の方が優れている。子供は女性から産まれてくるため、女性には人類の体に関する情報が男性より多く備わっている、などとも言われているが、実際のところは分かっていない。
反対に男性神官は治癒よりも攻撃の神聖術に優れた者が多い傾向がある。
今回、勇者の旅は長く険しい旅になることが予想されるため、教皇は治癒の神聖術に優れた者を集めた。魔法的な攻撃は魔法使いを仲間にすれば良いだろうという考えだ。
「今日集まってもらったのは他でもない。そなた達も新たに勇者が見つかったこと、噂くらい聞いたことがあるだろう。その勇者様の旅に同行する神官を一名選びたいと思っている」
言葉を切って一度、集めたメンバーを見る。
面白そうと思っている様子の者、考えている者、少し怯えが見える者、そして話を聞いているのか? 何も考えてなさそうな者、様々である。
「神に選ばれし勇者と共にあること、それはとても名誉なことである。しかし、旅の目的は魔王討伐である。そこにたどり着くまでも、長く困難な旅路となるだろう。魔族との戦闘、ダンジョンの攻略、盗賊との戦いもあるだろう。私はここにいる誰であっても問題ないと考えている。ただし無理強いはしない、はっきり言おう、命をかける旅だ、断っても今後に影響が無いことは神に誓ってないと断言する。誰か立候補者はいるか?」
もう一度様子を伺うと予想通り、始めは勇者というブランドに惹かれていた者も旅の過酷さに思い至り、尻込みしているように見える。
だが問題はない。
元々、各有力な派閥から最も優れたものを一名ずつ候補者に出したが辞退した、という事実が大事であり、端から勇者の仲間にとは思っていない。
そう、本命は派閥に属していない……
「私、立候補しまーす」
候補者の一人が手を挙げた。
背筋はピンと伸び神官服を着た姿は清楚で、目元は柔らかく優しげな印象だ。背中まで伸びた美しい白に近い金髪が頭に着けたヴェールから覗き、ゆったりとした服装のため目立たないがスタイルも良い。
「そうかレミッサありがとう。他の者はどうだ?」
皆に問いかける。
「私は辞退させてもらうよ、治療院ほっぽらかす訳にはいかないでしょ? それに長旅なんておばちゃんには無理よ」
一番ベテランの女性神官が言う。
他の者達も理由はどうあれ辞退の申し出であった。
「では勇者様の旅にはレミッサに同行してもらうこととする。皆、集まってくれてありがとう。退出してもらって構わない。レミッサ、後日詳細は連絡する」
「はいー、必ずや聖下の御前に魔王の首、捧げて見せましょー」
彼女の声質上ほんわかした雰囲気であるが、自信満々に言ってることがとても物騒である。
教皇は意図した通りにことが進み少し油断していたため、一瞬「うむ」と返事をして流しそうになったが、返事を引っ込める。
他の者達も固まっている。
「レミッサ。首など持ってこられても困るのだが……」
レミッサは一瞬考えるそぶりをし改めて言う。
「?……あぁ、では、魔王の心臓──」
「いらんいらん。お前は黒魔術でもやるつもりか?」
食い気味に教皇が突っ込む。
「何もいらん。無事に生きて帰り、魔王の討伐を直接私に報告してくれれば良い」
「そうですかー?」
まだちょっと納得がいっていなさそうなレミッサを言い含め、再度退出を許可する。
退出するなか、最後尾のベテラン女性神官が小声で教皇に話しかける。
「ふふっ、すごい娘を選んだね、あの意気込みなら安心だよ。それに引き替え嫌だねえ派閥ってやつは。教皇様でも気を遣わないといけないなんて。私ら聖職者なのにねぇ? 政治なんてやだやだ。まあ、上手いこと話は広げておくよ」
肩をすくめると彼女は退出しドアを閉めた。
彼女とは長い付き合いだ。教皇とは別の派閥の有力者ではあり、女性神官を育てる立場でもある彼女は発信力がある。
しかし教義に従順な穏健派で裏表が無くサバサバした性格であることから、これまでも噂話のような形で裏から話を広げてもらうなど協力してくれている。
集められた面々を見て意図に感づいたのだろう。きっと各派閥が辞退してもメンツが立つように上手く今回の件は広がっていくだろう。
「さて、計画通りに進んだが……大丈夫だろうか……」
今回選ばれたレミッサは孤児で派閥の影響はなく、神聖術の腕は申し分ない。加えて従軍神官として戦闘経験もあって現状最適な人材ではある。生い立ちの事情から少々個性的な性格で一抹の不安もあるのだが。
一先ず、勇者様との顔合わせでボロがでないことを神に祈る教皇であった。
【あとがき】
勇者パーティの一人目で神官です。




