15.一人旅
第二章に入ります。起承転結の”承”。
ここから徐々にパーティメンバーも登場します。
第二章からは毎週水、土のAM7~8時に更新予定です。
――――城からの帰り道。
「その代わり『私にも手紙を書いてください』って言われても……気軽に書けないよなー」
公的郵便を送る際に使われる封蝋印を貸与してもらう代わりに、エレオノーラ姫から提示された条件は、彼女にも手紙を書くことだった。
『――旅の途中の些細なことで構いませんわ。私、滅多に王都から出ることがありませんから、各地の様子や名物を教えてくださいまし』と、エレオノーラは気軽な風でルカに言ったが、もちろん言葉通りではない思惑もある。
平民から見た各地の様子を知ることで、国内においては何か問題が起きていないかの確認、国外は噂話など外交で有利になる情報が運良く手に入ればと思っている。
そして最後に――――
「勇者様、本来は外交官などが持つとっても大切なものですので、くれぐれも取り扱いは気をつけてください」
「……はい、ワカリマシタ……」
手紙を送る送料の問題は無くなった。しかし、無くしたらとんでもないことになりそうなものを貸し出されることになり、返事がちょっと片言になるルカであった。
●○●○●
――――一夜明けて。
「ふぁーぁあ、おはよう、ルカ」
「先生、おはようございます」
ルカとハイリスは久しぶりに朝食堂で一緒になった。
ハイリスは近頃、勇者誕生に湧き大聖堂を訪れる人々が急増していたため、これ幸いとスームスに朝から晩までこき使われていたのであった
そのため王都滞在中、朝の時間が合うことが中々無かったのだ。
「あー……まったくあのじいさん、こき使いやがって……。ルカ、昨日はちゃんとお前の勇姿見届けたからな」
「ありがとうございます。緊張で震えてましたけどね」
「まあ、それは仕方ない。あれだけ人が集まってたんだから」
式典ではとんでもない人の数に終始圧倒されっぱなしだったルカ。よく見ると剣を掲げた際もプルプルと小刻みに震えていたりする。
「あの後、王様とも謁見したんだってな。どうだった?」
「王様も姫様も優しい方でしたよ。特に軍隊に入れとかは無くて、自由にしていいそうです。あと何か支援してほしい事は無いかと聞かれたので、どこでも無料で手紙が送れる封蝋印を貸してもらいました」
「うーん、まあそれくらいなら問題ないだろ。他には何かもらったか?」
「どこでも通れる通行証もらいました。あと、国に仕える分けじゃないからあんまり支援できないって言ってましたね」
「そうだな、これから世界中を旅するとなるとそれは必要だな。この国の王様は良心的だからいいけど、これからは何かもらうときは注意しろよ? 下手に支援してもらうとやっかい事を押しつけられるぞ」
無料より高いものはない。
先に受け取ってしまっては、後からやっかい事を持ち込まれても断りづらくなる。ましてやそれが国や貴族相手となれば何がやってくるか分かったものじゃない。お貴族様にとって平民を都合良く転がすことなど容易いことなのだから……
「うっ……注意します」
「あくまでもらうのは仕事の対価だ。あと、しつこく何か渡そうとしてくるヤツには、代わりに孤児院に寄付してもらうとかして逃げとけ」
「分かりました。覚えておきます」
やはり田舎暮らしでまだまだ若いルカには、政治的思惑を持つ貴族や悪意を持って近づいてくる人物への対処に対する経験が乏しい。
勇者、勇者と持ち上げられ、変なことに巻き込まれないようにと肝に銘じるのであった。
「この後は聖ソルティス神国のルーシス大聖堂へ行くのか?」
「はい、勇者魔法を習得しないと」
「ホリス教皇には手紙を出しておいたが、スームスにも一筆書いてもらおう。門前払いは無いはずだ」
「お願いします」
「さて、さっさと朝飯食っちまおう」
二人は雑談に興じながら朝飯を平らげていった。
●○●○●
――――お披露目の式典から一週間。
「元気でな、何かあったらオレにも手紙を送ってくれ。教会関係なら力になれるかもしれんから」
「ここまでありがとうございました。手紙よろしくお願いします」
「ああ、渡しておく。あと、お前の勇姿たっぷり伝えてやるよ」
ここまで一緒に旅をしてきたハイリスとはここでお別れだ。
ルカはこれから都市間を行き来する荷馬車の護衛として国境の町まで行く。そこから更に聖ソルティス神国まで行く商隊、もしくは荷馬車の護衛の仕事を見つけ国境を越えるつもりだ。
「ハンターさん行きますよ」
今回依頼を受けた都市間の荷物の運搬を担う荷馬車の御者が声を掛けてくる。
ルカは今、普通のハンターと変わりない格好をしている。そのため自分から名乗り出ない限り勇者であることは誰も気づけないだろう。
御者のおじさんもハンターの若者としか認識しておらず、まさか勇者が護衛をするとは夢にも思っていない。
「ハッ」
バシッ――――
御者のおじさんが馬に合図を送る。
たっぷり物資を詰め込んだ幌の付いた荷馬車がゆっくりと動き出した。ルカは荷馬車に荷物と共に乗っている。
「先生、ありがとうございました。行ってきまーす」
ルカはハイリスに手を振り別れを告げる。
そのまま馬車は西門から街道に出た。
護衛といってもさして仰々しくはない。ここフェルティラ王国は、魔王との戦争が続く北部から大きく離れた大陸の南方に位置しており、大都市を結ぶ主要な街道沿いに関しては比較的安全だ。
そのため、護衛も精々野生動物を追っ払うだけの仕事で、この馬車に付いている護衛はルカ一人だ。
「おじさん。国境の町までどのくらいです?」
「あーそうだな……何も無ければ一週間ぐらいで着くんじゃねえかー」
「分かりました。よろしくお願いします」
「よろしくよろしく。まあ、オレも長いことやってるが、魔物化したイノシシにドツキ回されるくらいしか経験してないから気長に行こうや」
御者のおじさんは、パイプを取り出し煙を燻らせている。
●○●○●
ガタガタガタ、ガタッ――――
二頭立ての馬車がものすごいスピードで走っている。やや深い森の中、その決して平坦でないその道、小石を踏むたびに大きく揺れる。
馬車の後方からは魔物化したイノシシ、ブラックボアが四頭迫っていた。
シッッ――
ピギャ――、ドシン。
ルカが魔力を込めて剣を振るう、斬撃が飛び一番近くに迫っていた一頭の眉間付近に当たった。運良く目に当たったのかその一頭は道を外れ近くの木に激突した。
あと三頭――――
シッッ――
ギャオ!
再び魔力を込めて剣を振るう。斬撃が飛び今度は頭付近を浅く削った。少し距離が離れていたため威力が減衰しており、ブラックボアの身体強化された固い表皮に阻まれただけだった。
魔物化した動物である魔獣は基となる動物と比べ体が大型化すると共に、魔法を行使するようになる。炎を飛ばすなど放出系を使う魔獣は限られるが、身体強化系を使うものは多い。
そんな魔獣に対して、減衰した斬撃程度では牽制にはなれど、遠距離攻撃には心許ない。
――――始めに出くわしたブラックボアは一頭だけだった。
ルカは馬車から飛び降り相対し、危なげなく倒した。
しかし、倒した時の悲鳴を聞きつけたのか森の中から四頭が出てきて襲いかかってきた。
流石のルカも四頭を馬車を守りながら倒すのは一人では難しい。精々二頭を同時に相手にできても、その隙に馬車を襲われてしまうだろう。
そのため馬車に飛び乗り、逃げてチャンスを待っているのである。
「おじさん! 何か武器ないの!?」
「無い! 今回の積み荷は食べ物と衣類だ! 精々あるのはオレの護身用の剣だけだ! ほれっ」
ガシャ――――
御者席から一瞬振り返って剣を馬車の方へ放った。
「それじゃ、棒! 何か長いものない!? 剣じゃ届かないっ」
「長いもの? それなら幌を引っかける用の棒が転がってるはずだ!」
シッッ――
ギャギャッ!
ビックボアの接近を剣の斬撃を魔法で飛ばすことで牽制しつつ、一瞬荷馬車の中に目を巡らす。
「あっ、あった」
荷馬車の隅に先端に金具が着いた1m半ほどの棒が転がっていた。
それを素早く拾うと、一番近づいていたビックボアの眉間を目掛けて突き出した。
ギャウ――――
剣の間合いより広い棒は、狙い違わず一頭のビッグボアの頭を痛打した。
突かれたビッグボアは脳しんとうを起こしたのかひっくり返って、地面に倒れた。
あと三頭――――
「兄ちゃん! もう馬がもたねぇぞ!」
「分かりました! 徐々にスピードを落としてください!」
「分かった!」
ルカは集中力を高める。
残りは三頭。二頭であれば一人でも相手取れる。後一頭削れれば。
馬車が減速する、ブラックボアとの距離が徐々に詰まる。
そこっ――、ヒュッ――
バキッ。
魔力を込めて棒を突き出す。
渾身の突きは寸分違わず、一頭のブラックボアの眉間に突き刺さった。突き刺さった瞬間、棒は魔力に耐えきれず破裂するように中程から砕けた。
棒は失ったがこれで後二頭だ。これで一人でも対処できる。
シッッ――、シュッ――、シッッ――
残りの魔力を気にせず、斬撃を残り二匹の足下に連続して叩き込む。たまらず二匹は減速を余儀なくされる。
それを見てルカは、転倒しないように注意しながら大分減速していた馬車から飛び降りた。
「来いっ!!」
気合いを一声。鼻先に斬撃を飛ばした。
鼻先はブラックボアの弱点の一つである。嫌がった二頭は頭を振り、ルカを挟み込むように突撃してきた。
ハッ――――
ガッ、ガツーン。
ギリギリまで引きつけたルカは、右から突進してきた方の背中に手を当て、ブラックボアを飛び越えると後方へ抜ける。その結果、突進してきた二頭は正面衝突した。
この程度では対したダメージにはならない。頭を振っている二頭に対し、すかさず飛び越えた方のブラックボアに素早く斬撃を加える。
ギャアギャア――
一度静止してしまえば動き出しは遅い。
切りつけた方のブラックボアは血を流し動きが遅くなっている。
素早く反対側に回るともう一頭の方にも斬撃を浴びせる。
魔力で飛ばした斬撃はあまり効果がなかったが、直接剣が届く距離なら問題ない。魔力を込めて鋭さが増したルカの剣がもう一頭の心臓を貫いた。
ビクッと震えたブラックボアはゆっくりとその場で倒れた。
もう一頭の方も既に血を流して弱っている。既にルカの敵ではなく、程なくしてその身を横たえた。
●○●○●
「兄ちゃん、大丈夫だったか?」
「はい、倒してきました。追ってきているものはいません」
少し先で止まって待っていた荷馬車に追いつくと、御者のおじさんが心配そうに声をかけてきた。
「そうか、助かったよ」
ほっとした様子のおじさん。
都市間の荷馬車の御者をしていれば、魔獣や動物に出くわすことはあるだろう。しかし、ここまで多くの魔獣に一度に襲われたことはないだろう。肝が冷えたようだ。
●○●○●
その後は特に大きな問題は起きず、予定より一日遅れて国境の町に到着した。
遅れの理由は、ブラックボアの襲撃により馬に無理をさせたため、途中の村で馬を長めに休ませたためだ。
「通ってよし」
ルカと御者のおじさんは国境の街の門で通行証のチェックを受け、街の中に入った。
流石は国境の街の兵士、ルカの勇者という記載にも眉を少し動かしただけで反応せず淡々と仕事をこなしていた。
「お疲れさん、ここでいいよ。ほれ」
御者のおじさんが依頼達成の書類にサインをして渡してくれた。
これをハンターギルドの受付に提出すれば報酬が支払われる。
「お世話になりました。無事に着けて良かったです」
「ああ、助かったよ」
御者のおじさんに別れを告げ、ルカは一先ずハンターギルドに向かって歩き出した。




