14.お披露目の式典
第一章が長くなってしまうので王都でハンターとして依頼を受ける話は一旦スキップします。後で足すかもしれませんが、物語の本筋には影響ないので問題ありません。
あっという間に時は流れ、何度か王城に呼ばれ衣装合わせや打ち合わせをしているうちに勇者のお披露目の式典当日になっていた。
「…………」
当日も迎えの馬車に詰め込まれ、朝から数人の侍女に囲まれ控え室で衣装に着替えさせられ、軽く化粧を施され、ルカはされるがままになっていた。
今は少し疲れた表情で、控え室のソファーにボケーッと座っている。
「嵐だった……」
衣装は当然前日までに決まっており、当日は着替えるだけのはずであったが、当日になって来賓の服装を見た侍女が、やれ、どこそこの家の服装と色が似過ぎているなどなど微調整が入った。
完全にルカは蚊帳の外であったが、アクセサリーを取っ替えひっかえ付け替えさせられ、相談をしている侍女たちの圧に恐れ戦いたのであった。
――――トン、トン、トン。
「勇者様、お時間です」
案内役の騎士が迎えに来た。
部屋を出る前にもう一度姿見を確認する。
衣装は先日着た”|王様が考える最高にイカした衣装”ではなく、エレオノーラ姫が考えた”最新トレンドを取り入れつつ、勇者らしい衣装”になっており、ファッションに詳しくないルカが見てもとても格好いい。
だが残念なことに着ている素材が今ひとつだとルカ自身は思う。
ルカは男性にしては小柄で身長が160cmと少しとやや低く、顔も優しげで整ってはいるが、もしも演劇で勇者役を選ぶとしたら、十中八九もっとキリッとした勇ましい人が選ばれるだろう。
そんなどうでもいいことに思いを飛ばしかけながら、部屋のドアに向かう。
お見送りのためお辞儀をする侍女たちを見ると、一人見覚えのある侍女が混ざっていた。エレオノーラと王都を散策した際に付いていたドーナッツの侍女だ。
彼女は一度お辞儀をすると、ルカにサムズアップを向けた。「最高にきまってる」とでも言いたいのかもしれない。
それを見て少し方の力が抜けたルカは「ふうっ」と一度深く息をして部屋を後にした。
●○●○●
「「「勇者様ー、勇者様ー」」」
見渡す限り人、人、人――――
ここは王都の中にある式典などを行うための大広場。
今日は王都中の住民が集まったかのごとく、黒山の人だかりになっている。
王国の貴族たちも平民とは分けられたスペースの席に座り、勇者を肴に雑談に興じている。
これは王様が「貴族、平民分けてお披露目やるの面倒だから一度にやってしまおう」という物臭な考えと、姫様の「どうせやるなら王都中でお祭りにして経済を回しましょう」という打算が一致した結果である。
そのため今日一日、王都は適当に勇者に関連付けて大盛り上がりだ。
式典が始まった――――
まず始めに、この国の王であるアルフォンスの演説。いつもの気のいいおじさんといった姿からは似つかない威厳あふれる力強い声で、勇者誕生を祝う。
次に王都大神殿の長、スームスからの話。こちらもいつもの好々爺ではなく大神官として、先日の勇者選定の儀での話や、聖ソルティス教における勇者について集まった人々に説いた。
そして最後に勇者の登場である。
司会の呼びかけを合図にルカは舞台上に姿を現す。
一段と強くなる歓声、貴族席にいる貴族たちもよく見ようと前のめりになっている。
ルカは舞台中央にやってくると、腰に下げていた黄金の大剣を鞘から引き抜き大きく上に掲げた。
「「「うぉーーーー」」」
その様子に大歓声をあげる衆人。
ちなみにこの剣、勇者っぽいという理由で王様秘蔵の剣を借りた物である。普段のルカはスピード重視でもっと軽く細い剣を使っている。
大剣を再び鞘に収めると、舞台に置かれている拡声の術が篭められた魔道具に向かい宣言する。
「神の神託に従い、我、勇者としてこの世界の平和と安寧のため、魔の物と戦うことを誓う」
この台詞、王都の高位神官と王城の文官が集まり、政治的、文化的にどこにも角が立たないよう考え抜かれた台詞である。
「「「勇者様、ばんざーい」」」
聴衆から勇者誕生を祝う歓声が上がる。
歓声はしばらく鳴り響いた――――
●○●○●
式典が終わるとルカは、王族の控え室に通された。
そこには、アルフォンス王とエレオノーラ姫が待っていた。
「勇者殿、お疲れ様。格好良かったじゃないか。ワシの剣も輝いていた、うんうん」
満足げな王。
「勇者様の儀礼用としては良かったですけど……本当に普段使いしてたんですの……?」
疑わしそうな視線をエレオノーラは父に向ける。
実はあの剣、以前の鎧と同様、昔アルフォンスが実際に使っていたものらしい。
「この衣装含めご準備頂きありがとうございました」
ルカができるだけ丁寧にお礼を言う。
「なに、構わんよ。このような慶事、めったにないからの」
立派な髭を撫でながら王は笑う。
「それで、一つ相談し忘れておったのじゃが。勇者様、この後どうする気じゃ?」
「行き先でしょうか?」
王は腕を組み、続ける。
「それもある。記録によると過去の勇者は元々貴族や騎士だったから、そのまま軍に入って行動したとあるが、勇者様は元々平民じゃろ? そもそも我が国は魔族との戦線とは遠く離れていて、軍も志願制じゃから強制的に軍に入れるのもちと違う。そもそも勇者は魔族に対して一騎当千と聞くしの、そんな者を一国の軍に縛るのも違うかと思うて」
「はい」
「だから我が国としては自由にしてもらって構わんと思っておる。その代わり対した支援はできんがの」
「分かりました。とりあえず、この後は聖ソルティス教会の総本山である聖ソルティス神国のルーシス大聖堂に行こうと考えています。勇者だけが使える魔法があるとか」
「そうか、そうか」
聖ソルティス神国。この世界で最大の勢力を誇る聖ソルティス教の教皇が治める教皇領である。
その皇都にあるルーシス大聖堂は千年もの歴史があり、歴代勇者の記録なども多数残っているらしい。以前、大神官スームスとハイリスから王都の次はルーシス大聖堂へ向かうようにと要請されている。
「それで、どういった支援をして頂けるのでしょうか?」
「とりあえずは、通行許可書の一番いい奴を渡そう。ほほっ、どこでもいけるぞ。後は個人的にワシの武の師匠、剣聖に紹介状を書こう。勇者様は剣士だろう? きっと力になってくれるじゃろう。他には何か希望はあるかの?」
何せこの百年以上勇者は存在していなかった。そのため勇者自身も国も手探りであり方を探る必要がある。
ルカは少し考えると、直近困っていたことを切り出した。
「そうですね……あっ、手紙の送料に補助って出して頂けませんか?
「手紙?」
「えーとですね……故郷の家族に手紙を出しているのですが、王都で送料を聞いたらとても高く……これから更に遠くに行くとなると送料だけで大変なことになるなって……」
基本的に手紙の送料は距離で決まる。経由地を経る毎に料金が上がり、辺境の砦村に送ろうと思うと、王都の時点でなかなかのお値段になっていたのだ。
「ふーむ」
「お父様、それなら公的な手紙を送る時に使う封蝋印を貸与したらどうでしょう? あの紋章を押したものであれば、国内外を問わずどこからでも送れますから丁度良いかと」
封蝋印というのは封筒を閉じる際に蝋を垂らし紋章を押す印である。この大陸の国々は、国際郵便を維持するために費用を出し合っている。その取り決めの中で、国の責任を持って発行した封蝋印が使われ押された紋章の郵便については、都度の支払いが不要で送ることができるようになっている。
その代わり使用する封蝋印は、押印時に魔力を使う特殊な物で偽造ができないようになっている。また、国毎に発行数が決められているかなり貴重なものである。
「そうじゃな、それを貸与することにしよう」
エレオノーラの提案に二つ返事で同意するアルフォンス。
「その代わり――――」
加えてエレオノーラは条件を出した。
【あとがき】
これにて第一章終わりです。
物語は起承転結の”承”に入っていきます。
勇者パーティを作っていきます。
【お知らせ】
第二章からは毎週水、土更新になります。
次回更新は1/18予定です。




