13.閑話 故郷の手紙
【お知らせ】
いつも朝更新していますが、お試しで数日夜更新にします m(__)m
パンパン――――
とある日の昼前、麗らかな日差しの下でルカの母、エレナが庭で洗濯物を干していると、家からルカの妹であるステラが飛び出してきた。
「おかーさん、お兄ちゃんから手紙きたー!」
「えっ?」
ステラは母に駆け寄ると、手に持った一通の封筒を見せた。
「ビスおじいちゃんが今届けてくれたー」
「そう、お礼は言った?」
「ちゃんと言ったよ?」
「えらいわね」
軽くステラの頭を撫でながらエレナは封筒を受け取り確認する。
封蝋で閉じられた封筒の差出人には、ルカの名前が書いてあった。
「ねー、早く読んでー、読んでー」
「はいはい。お父さんには悪いけど先に読んじゃおうか」
ルカの父であるルシウスは仕事のため外出中であったが、エレナも中身が気になるため、先に読むことにした。
「それじゃあ、ステラ、少し手伝って? あと少しで洗濯干し終わるから、そしたら読みましょう」
「はーい」
ステラが洗濯カゴから洗濯物を取り出し、シワを伸ばすため一生懸命叩く。それをエレナが受け取り、もう一度シワを取って整えては干していく。
今日もいい天気だ。夕方を待たずに乾くだろう。
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洗濯物を干し終え家の中に戻ってきた二人は、リビングのソファーに隣り合わせで座ると、さっそく封蝋を外し中の便箋を取り出した。
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父さん、母さん、ステラ、元気ですか?
僕は元気です。といってもこれを書いているのは商業都市メルケイトだから、まだ出発してから十日くらいなんだけど……
商業都市に向かう途中で少し気になったことに遭遇したので手紙を書きます。
通りかかった途中の村で畑が荒らされるって被害があったから、先生と一緒に原因を探したんだけど、原因が小鬼でした。
僕は初めて見ました。先生もこの国では珍しいって言ってました。森の中に住まいがあって七匹居たので討伐しました。幸い強くは無かったので怪我も無く討伐できてほっとしています。
ハンターギルドには報告しているので調査していると思いますが、砦村に近い村なので一応気をつけてください。
商業都市に着いてハンターギルドで登録をしました。
登録の後、ギルドマスターと少し剣を合わせたのですが、全然敵いませんでした。もっと強くならないと……
また王都で手紙書きます。
ルカ
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「――――また手紙を書きます。だって」
「お兄ちゃん凄い、小鬼と戦ったんだ! 小鬼ってあれでしょ? 物語に出てくる悪い魔物、悪戯する子どもを攫っちゃう。凄いなー」
エレナが掻い摘まんで分かりやすく読んであげると、ステラは目をキラキラさせていた。
彼女にとって兄は、物語の勇者になった憧れの存在なのだ。
「怪我もないようで良かった……。それにしても小鬼……、お父さんにも見せないと……」
エレナは少しほっとした様子だ。やはり母として戦いに赴く我が子のことは心配なのである。
便箋を封筒にしまうと、手紙などを仕舞ってあるチェストの引き出しを開け中に入れた。
「さあ、そろそろお昼ご飯の時間だから準備しましょ? ステラも手伝ってね?」
「はーい」
二人は連れだってキッチンに向かっていた。
●○●○●
――――夕暮れ時。
「ただいま」
「あっ、お父さん帰ってきた! お帰りなさーい」
「お帰りなさい、あなた」
玄関のドアが開くと勢いよくステラが迎えに出る。その後ろからエレナが夕飯の支度をしていたのだろうか、エプロンで手を拭きながら続く。
「何かあったのかい?」
ニコニコ顔のステラと、少し心配事があるような曇り顔の妻の顔を見比べ、いつもと違うことに気づき尋ねるルシウス。
「お兄ちゃんから手紙が届いたのー」
元気一杯に答えるステラ。
「そうか、ルカから――」
「悪い奴、小鬼やっつけたんだってー」
妻の心配事に気づいたルシウスは「そうか」と短く答えると、二人をリビングに促した。
「ステラ、もうすぐ夕食できるからテーブルにお皿並べててくれる?」
「分かった」
エレナはステラにお手伝いをお願いすると、ルシウスとエレナは二人の部屋に入っていった。
ルカの手紙をエレナから受け取るとルシウスは早速手紙を読んだ。
「そうか、小鬼が出たのか……。オレも見たことないな……」
ルシウスは産まれてこの方、この国を出たことはない。そのため、国内での目撃事例が非常に少ない小鬼は見たことが無かった。
「弱かったって書いてあったけど大丈夫かしら……」
「大丈夫だろう、あいつはクマも倒せるんだし。それにハイリスも付いてたから」
魔物と魔物化した獣、通称”魔獣”の強さは色々だ。小鬼で言えば、一対一であれば普通のクマの方が圧倒的に強い。それを単独で倒すことができるルカは同年代の中で腕前は高い方である。
「しかし小鬼か……、数が集まるとやっかいと聞くし、明日にでも町長に話をして他に情報が入ってないか聞いてみよう。この町は辺境だから、まだ情報が入ってきてないかもしれない」
手紙に書かれた日付から今日までおよそ一ヶ月が経っている。
辺境にあるフォルティスの町に入ってくる情報はどうしても時間差が生じる。さらに関係が薄い内容であれば、そもそも情報が届かないことも日常茶飯事だ。
ハンターとして働いているルシウスであってもこの一ヶ月、街で小鬼の話を聞いたことはない。
ハンターギルドが街には存在しないため、どうしても情報を得ることが難しくなる。
「何だか怖いわ……」
「大丈夫、夜間は砦の出入り口は閉めてる。小鬼はそれを越えるだけの力はないさ……」
フェルディラ王国の民にとって魔物の存在は身近ではない。怖がるエレナの肩を抱きながら安心させるように言い聞かせるルシウス。
未知の存在は必要以上に恐ろしく感じてしまう。言い聞かせているのは自分に対してもだった。
「さあ、夕食にしよう。ステラも待ってる」
ルシウスはそうエレナを促すと二人で部屋を後にした。
【あとがき】
”1-08 王都へ”で商業都市から王都へ出発するときにビスにお願いしていた手紙です。




