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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第一章
14/71

12.勇者の休日

 ――――王様との謁見から一夜明けて。


 財布の中身は少々寂しくなりつつあるが、一日二日でどうなる程ではない。

 そのためルカは今日を完全に休日と決めた。


(さて、まずは朝ご飯を食べよう)


 ルカが宿泊している王都大聖堂の横に建てられた、神官たちが事務仕事などを行うための建物には食堂が入っており、宿泊者も使うことができる。

 食堂に入ると人はまばらだった。

 神官の朝は早い。朝の礼拝、大聖堂の掃除、貧民への炊き出しなど仕事は沢山ある。

 ルカはいつもより少し遅くまで寝ていたため、食堂のピークは過ぎた時間帯のようであった。

 今日のメニューは、黒パンと豆と鳥肉が入ったスープ、この国では一般的なメニューだ。価格は大銅貨二枚、王都の物価では手頃な価格だ。

 聖ソルティス教では肉食を禁忌とはしていないため、普通に肉も魚も食べられる。但し清貧を是としているため必要最低限であり、豪華な食事は特別な日を除き食さない。


 食事を受け取り席に着く。

 さっそくスープを一口。ホッとする味だ。体に染み渡るようで段々と目が覚めてきた。

 黒パンをちぎりスープに浸して平らげたルカは、ふーっと息をした。


(同じ黒パンでも王都の黒パンはちょっとおいしい気がするなー)


 そんな感想を思い浮かべながら、食後のお茶を一口啜る。

 今日は何をしようか――――


    ●○●○●


(一先ず、ハンターギルドの場所だけ見に行ってみるか。王都のだから立派なのかな?)


 少しわくわくしながら歩いて行くと、中心部から東の方向にやや外れたところにギルドはあった。


(あった、あった。 ハンターギルドと……商業ギルド?)


 そこには一つの建物にハンターギルドと商業ギルドの看板が掛かっていた。


(とりあえず入ってみるか……)


「いらっしゃいませ」


 室内の天井にもハンターギルドと商業ギルドの看板がそれぞれぶら下がっていたため、ハンターギルドのエリアに行ってみた。

 受付が空いていたので、受付嬢に少し尋ねてみた。


「ここ、ハンターギルドですよね?」

「はいそうです」

「凄い小さいですけど、ここは事務所がメインなんですか?」

「いえ、ここが王都のハンターギルドの全てです。他の町からいらっしゃった方ですか?」

「はい、商業都市メルケイトの方から」

「なるほど。理由はですね――」


 職員の説明によるとこうだ――――


 王都があるということは、他の地域よりも安全であるとも言える。誰が好き好んで王都を危険な秘境に作りたがるだろうか。

 そんな訳で、王都のハンターギルドが取り扱う依頼のほとんどは護衛や力仕事などの雑用が多く、討伐依頼はあまり出てこない。そのため、一般的なハンターのイメージである討伐や採取、探索などをメインにしているハンターはほぼいない。

 一方で商業ギルドは、王都は経済の中心地であるため、ひっきりなしに荷馬車が行き交い多忙を極める。

 そのため、王都のハンターギルドは護衛依頼など、商業ギルドと関連のある依頼が多い。また、王都の地価は非常に高いため、商業ギルドの一角をハンターギルドは間借りする形を取っているとのことであった。


「そういう理由だったのですね」

「はい、素材の買い取りなどは商業ギルド側でできるので、ハンターギルドでは依頼の授受だけしかやっていないのです。なので、これだけのスペースでも十分なのですよ」

「そうすると依頼は護衛依頼ばかりなのかな……?」

「そうですね、護衛依頼の他は荷物運びや雑用系のものが多いです。あちらの掲示板に貼ってありますのでご覧ください」


 受付嬢にお礼をいって、ルカは依頼の貼り出された掲示板を見る。


「うーん……護衛依頼が多いな……」


 都市間の護衛依頼になると数日王都から離れないといけない。いつ王城から連絡が来るか分からない中で、数日留守にしなければならない護衛依頼は受けられない。


「そのほかに多いのは……荷運びか……、それ以外にはドブネズミの退治に掃除……。受けるとしたら荷運びかな……?」


 身一つでできる荷運びは、力仕事であることを除けば簡単で実入りが大きい。

 ルカは魔法で簡単な身体強化もできるため、もともと故郷でもこの手の依頼は受けたことがある。

 一先ず今日のところは、ギルドの場所と受けられそうな依頼があることを確かめられたことで良しとする。その後ルカは、再び王都の散策に繰り出したのであった。


    ●○●○●


「あら、ごきげんよう。勇者様」

「ごきげんよう……って姫さ――」

「私はエリー♪ ちょっと裕福な家のお嬢様ー♪」


 ルカの驚きをフェルティラ王国の姫であるエレオノーラは遮って続ける。


「エレオノーラ姫なんて知りません♪」

「知りませんは流石に駄目かと……」


 苦笑いでルカがツッコミを入れる。

 エレオノーラは、服装は裕福な家のお嬢様で通る服装をしているが、如何せん王族のオーラが全く隠せていない……


「一体こんな街中で何をしているのですか? ……エリー――さん」

「クスクス、まあ、良いでしょう。視察ですわ♪」

「視察と書いて脱走と読むのではないですよね……?」

「私が見て回っているのですから視察で間違いありませんわ! 勝手にいなくなってる事実もありませんし」

「……お付きの侍女さんが、思いっきりドーナッツもぐもぐしてるんですが……買収あからさま過ぎません?」


 エレオノーラ姫改めエリーの後ろに付き従っているメイド服の侍女は、さっきからドーナッツをおいしそうにもぐついている。

 先日の侍従長とのやりとりの答えが目の前にあるようだった。


「それでエリーさんは、どこを視察するのです?」


 侍女はドーナッツを飲み込むと、キリッとした表情になり今日の予定を告げる。


「今日は三件、王都に新しくできたお菓子屋、ケーキ屋、ハーブティのお店になっております」

「思いっきり楽しんでるじゃないですか!」

「ちなみにお父様のリクエストは、次に行くケーキ屋にあるラム酒を使ったパウンドケーキですわ!」

「王様も共犯ッッ!」


 王様公認なら危険は無いだろうと思うと、ガクッと肩を落としたルカ。


「はぁ、そうですか……それでは楽しんで」


 そう言ってルカが踵を返そうとすると、エレオノーラが引き止めた。


「ルカさんは今日はお暇? ご一緒しませんこと?」

「えっ? 暇ですが。よろしいのですか?」

「王都をご案内しながら、ケーキでもご馳走しますわ♪」


 上機嫌でルカの腕を取るエレオノーラ。

 侍女は微笑ましそうに見つめながら、腕に下げているカゴから二つ目のドーナッツを取り出している。

 どうしたものかと戸惑いながらもルカはエレオノーラに引っ張られて行った。


    ●○●○●


 ルカの腕を引きながら楽しそうに商業地区を歩くエレオノーラ。


「ここが王都で有名なデートスポットの噴水です。ここに二人で硬貨を投げ入れると結ばれるとか」

「ひめ――エリーさんは詳しいですね」

「ええ、王都のことは裏通りの渋いカフェまで全部知ってます」


 何となくきっと自分の脚で行ったことがあるんだろうな、と思いながらルカは付いていく。


「エリーさん。これから行くケーキ屋さんって貴族向けのお店ですか? この服装だとまずいかなと思ったのですが……?」

「そうですわね……そのお店は貴族専用という訳ではありませんわ。ちょっと高級なお店ですけど」


 おとがいに指を当て思案するエレオノーラ。ルカの服装を上から下までじっと見るとこう言った。


「そうですわ! せっかくルカさんを捕まえたのですから、先に仕立屋さんに行きましょう。お披露目の衣装用に採寸もしなければなりませんし。行きますわよ」


    ●○●○●


 商業地区の貴族向けのお店が建ち並ぶ中に仕立屋はあった。

 勝手知ったるようにエレオノーラは入り口の扉を開けた。


 カラン、カラン――――


「――ッ!! これは、これはエレオノーラ様、脚をお運び頂きありがとうございます。 言づてを頂ければ直接お城まで伺いましたのに」


 エレオノーラの来店に気づいたオーナと思われる男性は、慌ててやってきて深々と頭を下げる。


「構いませんわ、楽にしてください」


 平伏しそうな店員たちを手で制し、エレオノーラは続ける。


「昨日手紙で伝えましたが、あなたに勇者様のお披露目式典で着る衣装の作成をお願いします。それで今日はたまたま王都を案内してましたので、ついでに本人を連れてきました」


 いたずらっ気のある言い方で来店の理由を告げるエレオノーラ。

 オーナーはルカの方を見ると、ほんの一瞬で上から下まで値踏みをするような目を向けた。


「そうでございましたか、わざわざありがとうございます。採寸をさせて頂きます」

「あと一着、既製のもので構わないから、勇者様に私と並んで歩くのにふさわしい服を頂けます? お忍び用で♪」

「承知致しました。そちらも準備させて頂きます。ささっ、勇者様こちらへどうぞ」

「はい……」


 オーナーに促されて店の奥に案内されるルカ。勇者扱いをされるのにまだ慣れておらずなんだか居心地が悪い。


 ――――しばらくして。


「姫様、お待たせ致しました。採寸と勇者様のご準備が整いました」


 オーナーに案内されて応接室で待っていたエレオノーラの下に通されルカ。


「どうでしょうか……似合ってます? ジャケットなんて着たこと無くて……」


 ルカは着慣れないものを着て少し照れた様子だ。

 オーナーはワンピース姿のエレオノーラに合うように、紺色のジャケットとシャツをルカに着せフォーマル気味にまとめた。


「まあ! 素敵でしてよ」

「へへっ……」


 可愛らしいエレオノーラに褒められてルカも満更ではないようだ。

 そんなやりとりの後ろで、スススッと気配なく侍女が移動し、支払いを済ませている。

 彼女はただスイーツで買収されただけの侍女ではない、できる侍女なのだ。だからこそ姫様の側に立つことができるのだが。


「さて、服装も整いましたし、そろそろケーキ屋さんに向かいましょうか♪」


 上機嫌なエレオノーラに再び腕を取られ、仕立屋を後にする一行。

 時刻は昼と夕方の間、一休みをしてお茶をするには丁度良い時間帯である。


    ●○●○●


 目的地のケーキ屋はこぢんまりとした佇まいでテイクアウトの他に、店内でも食べられるように席が設けられていた。

 侍女はエレオノーラに店の前で少し待つように告げ、先に店内に入ると、二、三事店員と話す。すると店長が奧から出てきて、エレオノーラとルカを奧の衝立(パーティション)で分けられた席に案内した。お忍びと言いつつも、一国の姫様を普通に並ばせる訳にはいかないため、事前に予約でも取っていたようだ。

 店内を見渡すと女性がほとんどで、皆お店自慢のケーキに舌鼓を打っている。エレオノーラの来店に気づいている様子はない。彼女の来店に気づいていないのは、エレオノーラのお忍びスキルの高さか、はたまたおいしいケーキのおかげか、恐らく後者であろう。

 テーブルに向かい合わせに座ると早速エレオノーラはメニューを広げた。


「さて、何を食べましょう♪ ルカも好きな物を頼んでください」


 目をキラキラさせメニューを見ている。

 ルカもメニューに目を通すと、普段はとても食べないような価格のスイーツが並んでおり目を見張る。


「凄い高級店なのですか? ここ?」


 テーブルの横に控えていた侍女に小声で尋ねる。


「いいえ? 安くはないですが高くもないお店でございます」


 横目でしっかりルカの広げるメニューを何食わぬ顔で見ている侍女。 おそらくお土産をエレオノーラに強請(ねだ)る気だろう。


 そうこうしている内に、うーん、うーんと悩んでいたエレオノーラであったがようやく決まったようだ。


「ルカさんは決まりになりまして?」

「はい」


 侍女が店員を呼ぶ。


「私はこのイチゴのタルトと紅茶のセットを」

「僕はチョコレートケーキと紅茶のセットをお願いします」

「畏まりました」


 店員がお辞儀をして下がる。

 エレオノーラは店で人気のTOP3に入るイチゴをふんだんに使ったタルト、ルカは普段中々食べることのできないチョコレートでコーティングされたチョコレートケーキを注文した。


「私イチゴには目がなくて……オホホッ。ルカさんはチョコレートお好きなんですの?」

「はい、あんまり食べたことはないですが」


 しばらくして、注文した品が運ばれてきた。


「こちらがイチゴのタルトになります。そしてこちらがチョコレートケーキになります」


 店員がそれぞれ注文した品を置くと、慣れた手つきで紅茶を入れ下がっていった。


「まあ、おいしそう。早速頂きましょう♪」

「はい」


 おいしそうなケーキにルカもテンションが上がる。

 ルカがフォークでケーキを切ると、周りのチョコがパリっと割れ中から果物とチョコクリームがスポンジに挟まれて出てきた。

 一口食べると果物の甘さとチョコのビターな甘さが相まってとてもおいしい。流石いい値段するだけはあるななどとルカは思った。

 無言でお互いケーキをパクついていたが、エレオノーラが話しかけた。

「今日はお付き合い頂きありがとうございました。私、こうやって肩肘張らずにお付き合いできるお友達は限られていますの、だからとても楽しかったですわ。ルカさんも王都はいかがでしたか?」

「初めて来ましたが、とてもきれいで良いところですね。エリーさん直々にエスコートして頂きありがとうございました。故郷の家族にも手紙で自慢しようと思います」

「ふふっ、それは良かったですわ」


 微笑みを浮かべるエレオノーラ。

 その後、故郷にいる家族や友人の話など会話は尽きなかったが、食べ終わった後はケーキ店の前でエレオノーラとは別れた。


    ●○●○●


「……どうでした私? ルカさんに良い印象を与えられまして?」

「姫様、普段姫様が嫌ってる貴族令嬢みたいでしたよ、ププッ。”♪”って……クスッ」

「ちょ――、男の人はああいうのが好きなんでしょ? さしすせそにボディータッチでしたっけ?」

「どこで覚えたのですか姫様……。ルカ様は――ケーキの値段に驚いておられました」

「確かに驚いていたようだけど――そうじゃなくてわ・た・しについては? どう見えたの?」

「そうですね、普通に照れてたかと、くっつかれて」

「まあ、心証は良くできたと思っておきましょうか」


 昨日の謁見でルカが純朴な人間と判断したエレオノーラは、王族として今後世界に影響を与える可能性のある勇者をこの国につなぎ止められるよう画策していた。

 ただ、最後に言っていた王族故に”気楽な友達がいない”というは本音がこぼれたもので、政治的な駆け引きも何も気にせず接することができる同年代のルカに対して、純粋にエレオノーラも楽しんではいたのだった。

【ざっくり設定集】エレオノーラ姫

 侍女と一緒にしばしば城を抜け出しているのは本当。

 王も王子時代抜け出していたので血筋。

 お付きの侍女は護衛を兼ねており中々の強さ。

 好きな物はイチゴ。侍女が好きな物はドーナッツ。

 王様がリクエストしたラム酒のパウンドケーキはきちんと買って帰った。王様もニッコリ。

【お知らせ】

いつも朝更新していますが、お試しで明日から数日夜更新にします m(__)m

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