11.国王との謁見
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――――トン、トン、トン。
ハイリスの何だか広めてはいけないような過去話を聞きながらしばらくすると、再び扉がノックされた。入ってきたのは王都大聖堂の長であるスームスである。来賓への挨拶がようやく終わったのだろう。
「ルカ様、お疲れ様でした。ワシが生きている内に女神様のお言葉を賜ることができ大変感動しました。長生きはしてみるものですな、フォッ、フォッ、フォッ」
立派な白鬚を撫でながらスームスが目を細める。
「あんな現象が起きるなんて知りませんでした。驚きました」
「いやいや、記録には勇者選定の聖具が光るとだけ。ワシも驚きましたわ。本当に良い経験でした」
高位神官であるスームスにとっても、姿形は見えぬとも神というのは信じるものであり、それに対し疑問を挟む余地はない。しかし、こうして実際に声を聞くことができたという事実は、以前にも増して彼の信仰心を高めることにつながったのであろう。
「おっと、あまり長々と待たせてしまうのは申し訳ない。使者殿、入りなされ」
扉の向こうに呼びかけるスームス。すると文官の出で立ちの男性が入室してきた。
「勇者ルカ様。国王陛下との謁見についてお伝えに参りました。読み上げます。”貴殿におかれましては、明日十番目の鐘の音におきまして、城の正面詰め所までお越しくださいますようお願い致します。”以上。なお今回は、お披露目の式典の前に個別で会いたい、という陛下のご要望のため、非公式の場となります。そのため平服でいらして頂いて構いません。こちらの書状を明日お持ちください」
一通の書状をルカに手渡す。
「はい、承知致しました。明日伺います」
「それでは私はこれで退出させて頂きます。お疲れのところ失礼致しました」
そう言うと文官は退出していった。
「さて、ワシらもそろそろお開きにしようかの。王都滞在中は引き続き部屋は遠慮なく使ってくだされ、もちろん勇者様は無料で構いません」
「オレはお披露目式までは王都に滞在する予定だから、何かあったら声を掛けてくれ。相談しやすいだろ? さてと……役目はほぼ終わったしアンナに土産でも探すために観光してようかね」
「暇なら手伝いでもしろ! このバカ弟子が。そしたらお前さんの部屋代も免除してやる」
「えぇ~~」
ハイリスも暇にはならなそうだ。
まだ二人は積もる話があるようなので、ルカ先に部屋を辞した。
●○●○●
翌日、きっかり十番目の鐘が鳴る前に王城正面の詰め所に到着したルカ。
今日は非公式な場とはいえ、王様というルカにとっては殿上人な存在との謁見に緊張してしまい、昨晩はあまり良く眠れなかった。
門前に立つ兵士の誰何に昨日受け取った書状を手渡し答える。
「勇者に選ばれましたルカと申します。本日は国王陛下との謁見のため参りました」
「確認します。しばしお待ちください」
正門の脇に設けられた待機部屋に通されしばらく待っていると、執事服姿をした背筋がピンと伸びた初老の男性が現れた。
「陛下の下で侍従長を務めておりますフィデリスと申します。勇者ルカ様、ようこそお出でくださいました。早速ではございますがご案内させて頂きます」
「はいッ、よろしくお願いします」
胸に手を当てきれいなお辞儀をするフィデリスに対し、ぎこちないお辞儀で返すルカ。
「それでは陛下がお待ちですのでこちらへ」
フィデリスの案内で城内を進む。
城内には所々に絵画や壺などが飾られており煌びやかだ。
初めて入るお城の中ということで、あまりキョロキョロしないようにと心がけてはいたが若干視線が揺れているルカ。
入り組んだ城内をしばらく歩くと一つの扉の前でフィデリスは立ち止まった。
――――トン、トン、トン。
「陛下、勇者様をご案内致しました」
「ご苦労、入ってもらいなさい」
フィデリスは扉を開け中に入ると、扉の脇に控え道を譲り頭を下げた。
恐る恐るといった様子でルカが中に入る。
「失礼致します……」
今回は非公式な謁見のため、通されたのは公式行事に使用するような大規模な謁見の間ではなく、王族の私室にある談話室であった。それでも十分な広さであるが。
中に入ると二人の人物がルカを出迎えた。
一人は白地に金の装飾が施されたジュストコールを身に纏った年嵩の男性。彼が王様であろう。
二人目はルカと同じくらいの歳に見える。ほのかにピンク色をした白いドレスを身に纏っている可愛らしい容貌の女性が居た。
「勇者ルカ殿、よくぞ参った。さあ座ってくれ。楽しみにしていたぞ」
年嵩の男性。フェルディア王国の王、アルフォンスが待ちきれないとばかりにルカをソファーに勧める。
「お父様は昨日からずっと楽しみになさっていたのですよ、ふふっ」
王の横からこの国の姫であるエレオノーラが微笑む。
その微笑みにちょっと赤くなるルカ。
●○●○●
「よっこらせ」
――――ドスン。
アルフォンスとエレオノーラは隣同士、ルカはローテーブルを挟み向かいに腰を下ろした。
アルフォンス王は、絵物語に描かれる王様のように金髪で髭を蓄え立派な体躯、もっと直接的な言い方をするなら、中年太りのぽっこりお腹をしている。全体的に丸っこいこともあり雰囲気は柔らかく、やさしげな目をしていた。
「さてさて、何からお話しようかの?」
「恐れながら陛下。時間も限られております故、先にお披露目の式典についてお伝えになられてはどうかと」
「そうじゃな、ワシはいつもしゃべり過ぎるからのぅ」
ワクワクが隠しきれない王様に対し、斜め後ろに立っていたフィデリスが耳打ちするように進言する。
「まずは、勇者ルカ殿、我々フェルディア王国は勇者誕生を大いに歓迎しますじゃ。いや~~、昨日の選定の儀は凄かった。ワシ、感動した!」
「ありがとうございます」
王様のほっこり雰囲気に当てられ、やや緊張が溶けてきたルカ。
エレオノーラも横でニコニコしている。
「ついては、国内外にお披露目するために式典を開催する! かっこよく決めてくれ!」
「はい頑張ります。ですが、服装や剣とかはどうしたら良いでしょう? お貸し頂くことはできますか? 私物ではとても勇者には見えなくて……」
「実はな、衣装については既にこちらで準備しておってな。せっかくだ、急がないで構わんから、ちょっと着替えて参れ」
●○●○●
――――しばらくして。
「なっ、なっ、なんですかーー! これは!?」
「良いじゃろ? うむ、よく似合っておる」
目を見開き驚いている姫と満足げに立派な白鬚を撫でて頷いている王。
「はぁ、あ、ありがとうございます」
両極端な二人の反応に、どう答えたら良いか迷うルカ。
驚いて口をぱくぱくさせていたエレオノーラの意識が戻ってくると、一気にまくし立てるように父である王に詰め寄った。
「なんですか、これは! この趣味の悪いキンキラ金の成金衣装は!? わたし知りませんよ!? こっそり作ったのですか!? お・父・様!!」
「趣味の悪い……ゴージャスでかっこいいじゃろ……?」
「い・い・え! 不正に蓄財している悪徳貴族の方が、まだましなセンスですわ! で! こっそり作ったのですか?」
趣味が悪いと言われやや落ち込んでいる王と、目をとがらせ王の肩を両手で揺さぶる姫。
「これは……わしが昔来てた鎧じゃ……。今は、ちとお腹が出てしまっての、着れなくなってしもうたのだが取っておいたのじゃ……」
「えっ……お父様がこれを……」
勝手にお金を使ってないことが分かり一安心しつつも、自分の父親がこんなダサいキンキラの鎧を着ていたと聞いて絶句する姫。
王様はきれいな金髪と整えられた髭、そして中年太りをしたぽっこりお腹をしているが、若い頃はさぞかっこいいと評判の王子様だったことが窺えた。服のセンスは別として。
「娘が反抗期なんじゃが……どうしたらいい?」
「えぇー……僕に相談されても……」
目の前で王族のコントのようなやりとりを見せられ戸惑うルカ。
●○●○●
「コホン、取り乱しました」
軽く咳払いをして取り繕うエレオノーラ。
「昔からカラスのように光り物が好きなことは存じてましたが……ここまでとは」
「えっ……ワシ、カラスと同じに見られてた――」
「ホホホ、ものの例えですわ、お父様。ただのガラスも宝石もキラキラしてれば等しく愛するお父様のこと、(経済的で)尊敬してますわ。」
「そうかそうか」
「――金や宝石好きでしたらきっと破産してましたもの……」
最後にぼそっとつぶやかれた言葉は聞かなかったことにルカはした。
「さて、衣装についてはきちんとエレオノーラの知り合いのデザイナーにお願いするから問題ない。剣も儀礼用のものを用意しよう」
「よろしくお願い致します」
「準備もあるからの、開催は一ヶ月後くらいと思っておってくれ。それまではゆっくり王都で過ごすと良い。細かいことはフィデリスから逐次連絡する」
移動手段は馬車しかない。国内外の来賓を迎えるための移動時間などを考えると一ヶ月程度は最低でもかかる。ルカはしばらく王都に逗留することになった。
「うーむ、ワシがあと二十も若ければ共に旅立てたのだが」
残念そうにアルフォンスが言う。
「陛下、二十年前も既に王でしたので困ります。それで無くても度々抜け出すのですから王としての自覚を──」
「分かっとる、分かっとる。フィデリスは厳しいのう」
アルフォンスが王太子時代から付いていたフィデリスは、王にとって最も身近な人の一人で苦言を呈することもできる数少ない人物である。
「思いつきでの行動はあってはなりません。どうか、思慮深い姫を見習ってください」
「そうですわお父様。”あってはならない”のです。”あっては”」
「何故二回繰り返され……姫……城を抜け出されたのですか?」
「いいえ、フィデリス。姫は城から抜け出してなどいませんよ。お付きの侍女からもそんな報告は受けてないでしょ?」
「確かに受けてはいませんが……」
「ふふふっ」
活動的な王と頭脳明晰な今は亡き王妃の遺伝子を受け継いだ姫は、水面下で気づかれないように活動する術を身につけたようだ。
●○●○●
その後、今までどこで何をしてきたのかなど雑談が続いたが、予定していた時間になった。
最後は会議に行きたくないと駄々を捏ねるアルフォンスをエレオノーラが引っ張りながら退出していった。
「では、進展がありましたらまた城から使いを出します。引き続き王都大聖堂にご滞在でよろしいでしょうか?」
「はい、大聖堂でお世話になります」
正門まで送ってくれたフィデリスと別れ城を跡にする。
「うーん、どうしよう……」
大聖堂に泊まるので宿代の心配はないが、一ヶ月以上、王都に滞在するにはお財布の中が乏しい。旅立ちのとき、自信の貯金の他に幾らか両親も持たせてくれたが、それは万が一のときに取っておきたい。
「ハンターギルドで依頼を受けるか……」
もうすぐ王都を囲う城壁に遮られそうになっている夕陽の日差しを浴び、ルカは今後のことを考えながら帰路についた。
【ざっくり設定集】
王様のイメージは、スマホ広告でいつもピンチに陥っているザ・王様的な感じ。
王様は、旅行先でよく売っているドラゴンが剣に巻き付いてる金キラのキーホルダーとか買っちゃう心を忘れない。宝飾が好きなのではなく安くてもキラキラが好きな人。




