9.王都大聖堂
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「はぁー」
気が抜けたような、声にならない感嘆の声が漏れる。
ハイリスが勇者到着を大聖堂の神官に知らせている間、ルカは大聖堂内を見て回っていた。
大聖堂の奧にはステンドグラス。午後の日差しを受けキラキラと煌めいている。
中央にはステンドグラスを背に主神の石像。主神は男性とも女性とも言われており、ローブを纏うその姿はどちらにも見える。
その横には、六角柱の石に浅く腰掛けながら主神に寄り添う女神の石像、生きとし生けるもの全てを包み込むような優しい微笑みを浮かべている。
ルカを始め記録に残る勇者が聞いたお告げは、皆、女性の声であることから女神様の声だと考えられているが姿を見た者はいない。
しかし、ルカはもし会うことができたらば、こんな顔をしているのではないかと素直に思った。それほどまでに見事な石像であった。
女神の像を特徴付けるものとしてはもう一つある。それはルカも砦村で触った『勇者選定の聖具』だ。
女神の像は必ず右手にその聖具である透明な玉を持っており、大聖堂の女神像が持つ物は簡易版ではなくオリジナル版の一つである。過去の記録に依れば、勇者が触れると、属性に応じた色に輝くと言われ、その輝きは大聖堂内を隈なく照らしたとある。
今はこの場に似つかわしくない足場が女神像の横に組まれている。勇者選定の儀では、実際にこの像が持つ球にルカは触れることになるのだろう。
「勇者様、お待たせをしております」
主神と女神の像を前に呆けていたルカに後ろから声がかかった。
振り返るとハイリスと、その横にはとても豪華な神官服に身を包んだ高齢の男性が立っていた。
「私はフェルティラ王国内の聖ソルティス教会代表をしております、スームスと申します。勇者様、遠路遙々お越し頂きましてありがとうございます」
聖ソルティス教会は、トップとして教皇領の元首たる教皇がおり、全国各地に沢山の教会を抱えている。それらの教会を国毎に分け、このフェルティラ王国内の教会をまとめているのがスームスである。
見た目は立派な白髭を蓄えた優しそうなおじいさんだが、この王都大聖堂のトップでもあり、国内では最高位の神官にあたる。
「初めまして、フォルティスの町から来ました、ルカです。……あれで勇者かどうか確認するのですか?」
スームスに向き直り自己紹介をしながら、先ほど見ていた女神の像の横に立てられた足場を指さすルカ。
「ええ、ハイリスから町にある聖具では確認したと報告を頂いておりますが、こちらで最終確認をします。こちらの聖具では勇者様の属性も分かりますので。その辺りの流れは後ほど説明させて頂きます。長旅でお疲れでしょう? まずは滞在頂くお部屋にご案内致します。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます。それと勇者様なんて……僕はまだ何も成し遂げてはないですよ? 名前で構いません」
高位の神官自らの案内に恐縮するルカ。
「それでは公の場以外ではルカ様と呼ばせて頂きます」
「様もちょっと……」
扱いが丁寧すぎてなんだか居心地の悪い気持ちのルカ。
「いえ、ルカ様は直接女神様から神託を賜れた方ですので、これ以上はご容赦くだされ。フォッ、フォッ、フォッ。これから勇者として活動されるのですから直に慣れるでしょう」
教会における勇者というのは、権力こそ無いものの神の声を直接聞き、選ばれた者である。そのため、宗教上で言えば教皇に並び立つ程に尊ばれる存在になる。この扱いは何ら過剰ではない。
しかし、ルカはほんの少し前まで普通の一般人だ。旅立ちのとき、町では皆に乗せられて「俺が勇者だー!」などと叫んでしまったが、冷静になった今、ちっとも勇者として敬われる心の準備はできていない。
なお余談として、過去には時の権力者が勇者を取り込もうとすることはあった。しかし、新たな勇者が産まれ続けていることから分かるように、ほとんどの勇者は帰らぬ者となっていることから叶わぬ野望であった。
●○●○●
――――トン、トン、トン。
案内された部屋に荷物を置きルカが一息ついていると、部屋のドアがノックされた。
「ルカ様、お茶が入りましたので一息入れてはいかがでしょうか?」
ドアを開けると先ほど案内してくれた大神官のお付きの神官がおり、お茶の誘いを伝えてきた。
「ありがとうございます」
「ではこちらに」
神官の案内で大聖堂内を進む。
「あの……、先ほども申し上げましたが、”様”は不要ですよ? まだ僕は何も成し遂げてないのですから……」
「いえいえ! いけません! 先ほどスームス様からも申し上げましたが、我々にとってあなた様は聖下に並び敬うべき存在なのですから!」
「はあ……」
まだ諦めきれずお願いしてみたものの、想像以上の反応が返ってきてしまい戸惑うルカ。
案内役の神官の目が憧れの存在を見るかのようで、やはりむず痒い。
そうこうしている内に、大聖堂内にある応接室に到着した。
案内役の神官のノックに続き中に入ると、既にハイリスがソファーに座っていた。
ハイリスの様子を見ると、何だか冷や汗をかいており疲れが見える。
「お待たせ致しました」
ソファーから立ち上がりこちらを向いたスームスが答える。
「いえ、こちらこそ早速お呼び立てしてしまい申し訳ありません。お掛けくだされ。それに――普段手紙も寄越さないバカ弟子から近況も聞けましたし。フォッ、フォッ、フォッ」
「……先生のお師匠様? なんですか?」
「……ああ、お前が来るまでの間、昔の話まで引っ張り出されて……ずっと説教くらってた……」
「まったく……相変わらず口が悪い。説教だなんて、ちょっと昔話をしただけじゃ」
ハイリスはげっそりしているが、スームスはニコニコして嬉しそうだ。
●○●○●
「早速じゃが、お茶でも飲みながら今後のことについて軽く説明させてくだされ」
「よろしくお願いします。あっ、ありがとうございます」
頂いた紅茶を早速飲むルカ。
「ふぅ……」
実家に居たときからお茶はよく飲んでいた。地方で良く自生している低木の葉を蒸して乾燥させたお茶だ。スーッとする独特な味わいがある
そんな普段実家で飲むようなお茶と違い、鼻に抜ける芳醇な茶葉の香りが心地よい。間違いなく高級なものだと庶民でも分かる一杯だ。
少しの談笑の後、スームスはこれからのことについて説明を始めた。
「まず、一週間後にここ王都大聖堂で、聖ソルティス教が主催で勇者認定の儀を行います。先ほどご覧になった、祭壇にあります女神像の持つ『勇者選定の聖具』を使用します」
「やっぱり、あの足場はそのための物なのですね」
「はい、当日はアルフォンス王と限られた高位神官・高位貴族が立ち会います。国民へのお披露目は、国が主催で別に催されると聞いておりますので別途城から使者が参るでしょう」
なんだか大事になってきて血の気が引いているルカを置き去りにして話は続く。
「この国での認定の儀、お披露目が終わりましたら、教皇領であります聖ソルティス神国に行って頂きます。神都にあるルーシス大聖堂には勇者のみが使用できる勇者魔法の書が保管されており、歴代の勇者もそこで習得に励んだと伝わっております。きっとルカ様の力になってくれるでしょう」
「聖下には、オレからも旅の仲間となる神官を紹介してほしいと手紙を送っといたからな、力になってくれるはずだ」
ハイリスが口を挟む。
「はぁ……聖下を顎で使える者はお前さんくらいじゃわい」
あきれ気味に溜息をつくスームス。
その後、二、三事これからの予定を確認しお開きとなった。




