8.王都へ
――――ガタゴトと軽快に馬車は進む。
領主館での謁見の次の日の朝、ルカとハイリスは王都行きの馬車に乗り商業都市を後にした。
出発前に定期馬車便の御者、ビスに家族への手紙を預けた。およそ一ヶ月後の次の便のときに届けてくれるはずだ。
王都と各主要都市は放射状の道でつながっている。特にそれぞれの地方の中核を担う都市間の街道は整備されており、ひっきりなしに人や物が行き交っている。そのため危険も少ない。
その主要な街道の一つを進む。
主要な馬車路線では馬車もしっかりしたものが使われている。馬車は二頭立てで、十人は乗れる大きさだ。昼間だから幌の横は巻き上げられていて、風が入ってきて気持ちがいい。
路面も整備されいることから、速度もそこそこ出ているが乗り心地も悪くない。
これから一週間程度かけ、途中で大小の街を経由して王都まで向かう
馬車の中を見回すと、役所の文官のような装いの人から、子供連れの女性、周辺の村の依頼を受けたのだろう剣を持ったハンターの二人組など、五人ほどが乗り合わせている。なお、商業都市から王都まで通しで乗る人は珍しいことから、途中の街で何度か入れ替わるだろう。
――――馬車は軽快に進む。
馬車の中はまだスペースに余裕があることから風通しも良い。
商業都市を出発して二時間ほど経つと、道の両側は小麦畑に囲まれた。収穫まで後少しの黄金の穂が風に揺れ、とても幻想的な光景に包まれている。
「すごい……きれいですね」
「圧巻だな、この辺りは砦村周辺と違って大規模に育ててるからな」
ルカの感嘆の声にハイリスが同意する。
「これから色々な場所に行くと思うが、見たことのない景色を見れるのは旅の醍醐味だぞ」
ハイリスがカラカラと笑う。
ハイリス自身も若い頃は帝国や諸国連合などを旅した経験がある。思い出が蘇っているのだろう。
●○●○●
――――商業都市メルケイトを出発して三日。
丁度行程の半分を過ぎたあたり。大都市間は精々中規模な街が点在している程度で農村風景が広がっている。
すると、途中の村から高齢のご婦人が乗車してきた。御者に踏み台を用意してもらい、よっこらしょと乗り込んでくる。発車してしばらくすると腰の辺りを気にする様子が、馬車の振動で腰が痛いようだ。
その様子に気づいたハイリスは軽い調子でご婦人に話しかける。
「おばあちゃん、腰痛いなら俺神官だからちょっと治療してやろうか?」
「おおっ、そりゃ助かる、お願いしようかね」
ハイリスが癒やしの魔法をかけてやる。
魔法で高齢による慢性的な腰痛などが完全に治ることはないが、症状を緩和することくらいにはなる。
しばらく腰に手を添え魔法をかけていると、大分良くなってきたようだ。
「痛みが引いたわ、ありがとう」
ご婦人がハイリスに礼を言う。
痛みが引き余裕ができたのと元来おしゃべりな性格だったのか、ご婦人はハイリス相手に世間話を始める。
「わたしには娘と息子がいてね。娘夫婦のところに行く途中なの。孫がかわいくて――――」
家族の話から、宿屋をやっていて昔は看板娘だったとか。
「――――今はおばあちゃんだけど若い頃は宿屋の看板娘だったのよ、今は息子が宿屋を継いでくれてるんだけど――――」
ご婦人ネットワークで仕入れたゴシップやら。
「――――ここだけの話なんだけどね、金物職人の家の息子と出入りしていた貴族の家の三女が良い仲になったけど反対されて、娘の方がぐいぐい行ってそのまま駆け落ちして――――」
「――――向かいの娘の嫁ぎ先が砦村の方の農村なんだけど、砦村から勇者が誕生したんですって――――
なんと国がまだ公表していない勇者が現れた話まで。
内緒話をするかのような話し方だが声量はそのままなので全く意味をなしていない。若干耳も遠いようだ。
横で聞いていたルカは情報の伝達速度に驚いている。
「――――最近、魔物化したイノシシが出ちゃって、イノシシ捕獲用の罠を壊されて困ってるのよ。ハンターが退治してくれてるけど怖いわー――――」
一方的に話し続けたご婦人は、顔の前で手を振り「あらやだ、話すぎちゃった、ごめんあそばせ」と言いながら、ハイリスとルカにペースト状の甘い芋を中に入れた手作りの小麦菓子を紙に包んで渡し、娘夫婦が居る村で、今度は踏み台を使わず降りていった。
「すごいおばあちゃんでしたね」
「あんだけしゃべれりゃ、百まで生きら」
相づちを打ち続けていたハイリスも少し疲れ気味だ。
「だけど、ああいった世間話は大切にしろよ。重要な情報があったりするからな。例えば、駆け落ちした貴族の三女なんかが後々捜索依頼が出されていたりな」
「ああ、ええ。あの娘はきっと旦那を尻に敷くとか言ってましたね。何だか全く顔も知らない人たちの人間模様が頭に残ってます。凄いですね情報網」
ルカは苦笑する。
もらったお菓子は素朴な甘さで、どこか懐かしい味がした。
●○●○●
――――それから更に三日。
馬車は王都に到着した。
商業都市メルケイトからおよそ一週間。王都への幹線道路であったため、途中の休憩・宿泊場所となる村や街も充実しており、比較的楽な旅路ではあったが、昼間はずっと馬車に乗り通しだったため疲れがみられる。
ルカが伸びをしながらハイリスに話しかける。
「さすがに疲れましたね、入場審査終わったら早く宿を取りましょう」
「ああ、だけど宿は不要だ。大聖堂にある宿泊場所を使わせてもらうつもりだから。ちょっと質素だが安いから良いだろ?」
今は王都への入場審査の列に並んでいる。
目的地であった王都はもうすぐだ。
王都はフェルディラ王国のほぼ中央に位置し、王国を南北に流れる大河の東にある。
国土のほとんどが平らな土地であるフェルディラ王国。守りに適した地形はこの大河を除くと国境沿いの山しか無い。そのため必然的に、大河の流れを防壁にできるこの地が選ばれた。
王都は二重の城壁と堀に囲われており、戦から縁遠いこの国であっても重厚な作りになっている。
中央に位置する王城を中心に、王城から最初の城壁までが貴族の住居が建ち並ぶ貴族街、二つ目の城壁の間が商業地域と平民街になっている。
今、ルカとハイリスが並んでいる入場審査の列は外側の城壁の門のものだ。
目的地である、王都大聖堂は貴族街の中の南側に位置する。
なお、大聖堂がこの位置にあるのは、王都の城壁がまだ一つだった古い時代から存在するためである。そのため現在も、貴族、平民問わず訪れることができるよう、貴族街に位置しているが平民街側にも専用の入り口が設けられている。
●○●○●
「――はい、確認しました。ようこそ王都へ」
何事もなく審査が終わり、王都内に入ることができたルカとハイリス。 一先ず目的地である王都の大聖堂に向かって歩く。
場所はハイリスが知っているため、ルカは付いていけば良い。
――――平民街を抜けしばらく歩くと。
「ここが……王都の大聖堂……歴史を感じます……」
「国が指定する歴史的建造物にも指定されているからなー、まあ裏側の事務室や泊まるスペースがある建物はボロくないから安心しろ、さて到着だ」
故郷を出発してから一ヶ月弱、ルカは勇者になるために王都大聖堂に到着した。
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