第96話「憤りの原因」
「エミリーさん、戻りました!」
町の外れで残月に合流した。
……商隊の荷物があるからか、町はちょっと狭く感じる。町の外れでもそう感じるのだから、町はさほど広くはない。
「あら、こっちに来たの?」
エミリーさんが意外そうに聞いてきた。
「教会は人手が不足してて、食糧もそれほど多くないようで、私たちが残月に戻ると言うとホッとしたようでしたよ」
年寄りの司祭しか来なかったことを考えれば助司祭もいないかも知れない。
「ここの司祭様は、ノノ様のご母堂をご存じの方でしたよ。ノノ様の服装で出自が分かったようですが、やり取りが古代神聖語でしたので、門衛の方には、ファイネル教の確認に思われたようです」
ここの教会のことを考えていたら、ルイさんがここの司祭とのやり取りを話していた。
「ふぅ~ん。……ノノ、ウェヌス様って、結構、アクティブな方なの?」
エミリーさんが聞いてきた。その後ろでシンシアさんとレミさんも興味深そうに聞いている。
「体調を崩す前までは、家にはあまり居ませんでしたね。まあ、私も家には居なかったので、本当のところは分かりませんが」
久々に家に帰ったら、母様が居て吃驚した。ちょっと体調が優れないとかで暫く家で養生すると。
……あれから10年かぁ。
「それって、ノノが居なくても大丈夫なの?」
怪訝そうにエミリーさんが聞いてきた。
「普通に生活する分には平気なんですよ。旅をするにはちょっと辛いかなぐらいで。あと、家には使用人もいますからね」
木人を使用人と言って良いかなとは思うけど、他に言いようが無い。あ、今だとライズも居るか。
「使用人がいるなら安心か。でも、ここ10年ほど姿が見えなから、亡くなったんじゃないかと噂が流れてたわよ」
そうなんだ。まあ、10年も引き籠もってたら、そういう噂も立つか。
「そうなんですね。私もここ10年ほど、母様と一緒に引き籠もってたので知りませんでしたよ」
んー、それにしては勇者さん達は普通に来たんだよね。
「それにしては、勇者さん達は普通に来たんですよ。エルフのロンネさんが居たからかな?」
エルフの時間軸は、人族の中でも長いからね。10年ぐらいだと気にはしないだろうし。
「あ、そうそう、勇者と言えば、門衛から聞いたけど魔王軍と戦って、負けらしいわよ」
エミリーさん達は門衛から聞いてたみたい。
「あ、それは、私たちも司祭様から聞きました。何でも魔法協会の魔法使いが魔王軍に取り込まれて、それが原因で負傷して、撤退したと言ってましたよ」
ルイさんが横から、エミリーさんに司祭から聞いたことを話した。
「へぇ~、魔法協会の魔法使いがね。そこまでは知らなかったのか、門衛からは聞いてないわ。王国側で情報を止めてるのかも知れないわね。まあ、教会にはその話が入ってるなら、何の意味も無いと思うけど」
エミリーさんの話に残月の団員が寄ってきた。
「あら、みんなどうしたの?」
「いや、面白そうな話だから聞きに来ただけで、他意は無いぞ」
グラインさんがそう言うと、周りの他のメンツも頷く。
「これから行く王都のこともあるしな。実際に勇者が負けたとなると結構ヤバいんじゃないかと、商隊の方でも噂になってたぜ」
やはり、頼りは勇者なのだろう。しかし、魔法協会の魔法使いもそれなりに実力はあったろうに。
「エミリーさん、魔法協会の魔法使いの実力って、どんな感じなのか分かりますか?」
「それは分からないわね。私が魔法協会に居た頃は、下っ端は日々の暮らしに終われていたかね。ただ、勇者パーティーに強引にとはいえ、入れることが出来たんだとしたら、それなりの実力者だと思うわ。……それなりの、ね」
やはり、魔法協会に良い感情は無いようだね。それでもそれなり実力はあったという点は間違えがないようだ。
「それなりの実力者でも魔王軍側に取り込まれたとなると、魔王軍側に強力な魅力系の魔法を操る魔物か魔族が居ると考えた方が良いかな」
でも、勇者パーティーの他のメンバーは平気だったいうのがちょっと、引っかかる。
「勇者パーティーに入れる実力があるなら、普通なら魔法による魅力攻撃ぐらいレジストが出来ると思うんですよ。魔法協会の、恐らく秘蔵っ子とでも言われるぐらいの実力は無いと勇者パーティーには入れないでしょうから。その魔法使いが魅了されるということは……」
……いや、待てよ。元から魔王軍側だったとしたら。
「ノノ様」
「ノノ、考え込まないよ。ここで考えても答えは出ないんだから」
エミリーさんとルイさんに心配されてしまったようだ。
「それに勇者様は怪我はしたとはいえ、無事なんだしな。まだまだ、逆転の目はあるさ」
「グラインの言うとおりよ。他の団員も考えは同じよ」
エミリーさんが周り見ながらそう言い、さらに。
「ノノ、よく聞いて。聖剣に認められた勇者アレックスは、いまだに『健在』なのよ」
そうか、そうだった。まだ敗れただけで、死んではいないんだったね。
「ノノも意外とやる気なのかな?」
エミリーさんがボソッと言う。
まあ、この流れなら、そう見えても仕方ないか。
「いえ、そういうわけでは無いのですが、前にも話したと思いますが、勇者さんと一緒に居るロンネさんは、うち父様の弟子なんですよ。いわば身内のようなもの、というか、向こうは知らないでしょうが、私は姉弟子になるんです。私も父様に師事してましたからね。ですから心配もします、例え彼女があの忌まわしいエルフ王の娘であったとしても」
何やかんや言っても、うちの父様が弟子にしたのだ。為人は全く知りもしないけど、私を嫌うエルフでは無いのだと言うことは分かる。そうでなければ、父様は弟子にはしない。
「私が不思議の思うのは、勇者が怪我したことは割と聞こえた来るんですが、それ以外のメンバーのこととなると、一切、聞こえてこないんですよ。勇者パーティーが魔王軍に敗れた。原因は魔法使いが魔王軍に取り込まれたせいだ。この情報だけでは、他のメンバーがどうなのか。誰もそのことについては知らないんです。これって、ちょっと酷いんじゃないかと」
ああ、やっと分かった。私は勇者以外のメンバーのことが聞こえてこないことに憤ってたんだ。人々を助けるための戦いをしているのは、勇者だけではないのに、勇者のことしか話さない人たちに。
そう気付いたら、何だか落ち着いてきた。
「エミリーさん、今後はどうなるんです?」
……話題を変えよう。
「ノノさんや、急に話を変えてきたね。まあいいけど」
やれやれといった感じでそう答えてくれた。
その様子を見て、他の残月の団員はそれぞれ待ち場に戻って行った。
「このあと、商隊長に呼ばれているから、一緒に来て貰うよ。そこで今後の方針を相談することになってる。まあ、このまま王都に向かうんだろうとは思うけど。そこでノノさんはどうするの。このままノノとして振る舞うの?」
ふむ、そこかー。んー。
「エミリーさん、ノノ様はこのままノノ様を名乗っておいた方が良いかと思います。先ほど、ここの司祭様に聞いたのですが、王都では、ノイシュ・ノーマッド様が来られるとの噂が一人歩きしてて、大変なことになってるようなのです。王都の教会に着くまでは、ノノ様のままの方が動きやすいと思います」
そう言えば、ロンネさんが王都でやらかしてたんだった。ホント、教会にはそーいった情報が流れてくるのに、一般市民とかからは勇者のことしか出てこない。情報の統制でもしてるんじゃないかと疑ってしまいそうだけど、教会が持ってる情報を考えるとそうでもないみたいだし。……やっぱり勇者が怪我をして撤退というのが目を引くんだろうなぁ。
「えー、王都ではそんな噂が流れてるの?」
「みたいです」
「商隊長のところに行けば、そこら辺も確認出来るかもね」
そう言って、エミリーさんが私の方をニヤッと見た。
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