第97話「宿屋」
初稿から改変がありますので、ご留意ください。
「ところでノノさん、その首から下げてるのって、何かな?」
ん? ああ、これか。ジョージ司祭に貰った匂い袋を首から下げてるのを忘れていたよ。
「これはですねー……」
ちょっと魔力を込めてみる。
「ちょ、ファイネル教の紋様っぽいのが出てきたわよ。……何、それ?」
エミリーさんが不審げに見ながら聞いてきた。
「何でも教会の司祭が入国時にチェックした証として、他の町でのチェックを簡略化するために配ってるらしいです。魔王軍討伐に司祭を割く必要があっての処置だそうです。治癒士自体が少ないですから仕方が無いですね」
ヒーラーというか、治癒士は全体的に少ない。教会がほぼ独占しているせいだから、教会がガンガン人を出さないといけないというのは理屈上もあってる。
「それって、複製とかされないようになってるの?」
「どうなんでしょうね。ただ、複製して使ってファイネル教に目を付けられるだけなら良いですけど、ファイネル様にも目を付けられる可能性もありますからねー……」
無いとは言えないのが女神ファイネルの怖いところだ。
「教会を敵に回すだけならともかく、神様もか。……でも、ここ数百年単位でファイネル様は勇者認定の時以外は顕現されてないと言われてるけど、そこは?」
あー、それなー。
「どーなんでしょうねー。うちの母様は『たまに人に交じってうろちょろしてる』と言ってましたよ」
神様に向かってうろちょろとかそれもどうなんだろうね?
「う、うろちょろかー。何かウェヌス様がそう言うんならそうなんだろうけど、ありがたみがないというか……」
ルイさんと、いつの間にか居た、シンシアさん、レミさんも目が点になっている。
少し離れた場所に居る他の人たちは怪訝そうにこっちを見ている。……聞こえてはないけど、何だろうって感じに見える。
「さて、ぼちぼち、商隊長のところへ行くか」
「夕食は、どうするんです?」
そう、もう少しすると食事の時間になるはずだ。
「うちはそれぞれに取ることになってる。ルイさんの分はレミとシンシアに任せておけば良いわよ」
任せておけば良いわよって。
「私とあなたは、商隊長に町で歓待を受けることになってるわ」
「……軽い。ものすごく軽く言いましたね」
「実際、そんな気負ったものではないからね。賊退治の件を聞きたいそうよ」
まあ、商隊長には作戦というか、賊は何とかしますって、言ってたから仕方ないか。
「それじゃ、シンシアさん、レミさん、ルイさんをよろしくお願いします」
そう言って、ルイさんのことをお願いしておく。
「ノノ様、そんな他人行儀なお願いとか要らないですよ。ノノ様は残月の従軍司祭様なのですからね」
レミさんがそう言うと、シンシアさんが横でコクコクと何回も頷いている。
「ルイさんに関しては、ノノ預かりだし、うちでも準団員ぐらいに思ってるから良いわよ。それにどうせ帰りも一緒なんだしね」
確かに。私は兎も角、ルイさんが一緒にミンダスに戻るのは間違いじゃないからね。
「まあ、エミリーさんたちが良ければそれでいいです。……エミリーさん、行きましょうか」
エミリーさんと町の方へ歩いて行く。
「小さい町だけど、国境の町だけのことはあるから、宿屋が結構あるのよね」
確かに宿屋はそれなりにある。……あまり賑わってはないの盗賊団のせいだろうが、盗賊団が居なくなったから、そのうち元に戻るだろう。
「あ、ここだわ」
宿屋が連なった一番奥の豪華な宿屋の前でエミリーさんが立ち止まった。
「結構、高そうなお宿ですね」
「商会にもランクがあるからね。今回の商隊を派遣している商会はタンドラ王国でも5指に入る大店だから、安宿に泊まれないわよ」
安い宿に泊まると舐められるとかあるから仕方ないとはいえ、これはこれで出費も多そうだね。
「すみません、ボラン商隊長から呼ばれているのですが?」
宿屋の回りを見ていたら、エミリーさんが宿屋に入っていった。……いかんいかん。
「紅蓮の魔導師殿に、ノノ様、お待ちしておりました」
宿の人より、先に傭兵隊の副隊長アンソニーさんが奥から出た来た。
……宿の人より早いとか、待ち構えていたのかな?
「アンソニーさん、宿の人が横で困惑してますよ」
よく見ると、宿の人も居たわ。
「いや、困惑の原因は、ノノ様のせいかと。宿屋に司祭様がフラリと現れる、ないですね」
そこは先に説明しておこうよ。宿の人も、頷いてないで何か言ったら良いと思うよ。
「アンソニーさん、説明してなかったんですか?」
エミリーさんが問い質す。
「いや、商隊長が話してると思っていましたので、私からは話してないよ」
宿屋の人は苦笑いをしているが、そうとも言ってられないので、近づいてきた。
「アンソニー様、話は中に入ってからでお願いできますか。周りの、他の宿の者達が気付き出しておりますので」
そう、周りからの視線を感じるんだよ。悪目立ちしてるとしか思えない。
「おお、店主、すまない。エミリー殿、ノノ様、奥で隊長達が待ちわびております。奥へ参りましょう」
目の前の宿の人はどうやら店主だったようだ。アンソニーさんが店主に向かって、一礼し、こっちに向き直る。私たちを奥の部屋へ案内してくれるようだ。
「店主、それでは料理を頼む。案内はこちらでするが、一応、こちらの小さい方はファイネル教の司祭様であるから、そこは間違わんようにな」
店主と目が合ったが、ちょっと吃驚しているよ。まあ、多分、若いからだと思う。普通の司祭はもっと年寄りだからね、仕方ない。
「それと、あと、もう一人、……その顔だと知っているようだな」
店主がエミリーさんの顔を見て、ちょっとホッとしている。
「紅蓮の魔導師、様ですよね。いつもうちの国境警備隊と盗賊を退治されている。ありがたいことです」
そう言って、拝み出しそうな雰囲気が!
まあ、お金も掛からず、勝手に盗賊を退治して回ってるから、町の人たちには有り難い存在だとは思うけど、本人を知れば知るほど……。
そんなことを思いながらエミリーさんの後ろ姿を見ていたわけだが、振り返ったエミリーさんと目が合ってしまった。いかんいかん、ジト目になってるよ。
「お二人とも、こちらへ」
そんなことには気付かない、アンソニーさんが、私たちを案内してくれるよなので、エミリーさんと一緒について行く。
……やはり、一番奥の部屋のようだ。
「ボラン様、ゴッザム隊長、お二人をお連れしました」
誤字脱字と表現がアレだったので修正しました。
話が先に進まないのはいつものことですが、王都に着けばサクサク進むはず。多分。




