第94話「燃やした後」
エミリーさんが居なくなったので、自然と解散する流れになった。
「ノノ様、それでは、また明日」
「ノノ様、続きは明日にでも、お聞かせください」
そう言って グラインさんたちは、それぞれ自身のテントへ戻っていった。
「明日は、どうなるんでしょうね」
「んー、朝一番に国境警備隊の人が確認に行くだろうから、午前中はこのままここで待機でしょうね」
「やはりそうなりますか」
「多分ねー、さあ、ルイさん、私たちも寝ましょう」
そう言ってルイさんと私は就寝することとした。
開けて翌日。
朝食の準備をしていたら、エミリーさんがやってきた。
「ノノ、おはよう。午前中は待機になったわよ」
「エミリーさん、おはようございます。やっぱりそうなりましたか」
「おはようございます。ノノ様の予想どおりですね」
まあ、予想も何も火柱が立った場所の検分が終わって、安全が確認できるまでは無難に待機になるよね。
「あと、私に呼び出しが来たわ。流石に隊長には名前でバレたみたいなのよ」
まあ、魔法使いで、エミリーと来ればねぇ。
他にそんな名前の魔法使いがいれば別だけど、それでも確認には来るわね。
「それは仕方が無いと思いますよ。見る人が見れば」
夜中に火柱が上がって、そのあとで恐らく名簿を見たと思うんだよねー。んで、名簿にエミリーさんの名前を見つけたと。……国境警備隊長はどう思ったんだろうね。
「そんなわけだから、あとで行くけど、ノノさまも来ない?」
「行きませーん。向こうはこっちのことを知らないでしょうに。そんなところにノコノコ行くことほど、愚かなことはないですよ。それにノノさまとか、呼び方~!」
「だよねー。まあ、スッキリしたからいいや」
どうやら、エミリーさんは盗賊を焼いてスッキリしたそうだ。……この人、ホントに盗賊嫌いだよなー、まあ、好きな人は居ないけどさ。
「ノノ、食事にしましょう」
そう言いながらエミリーさんが座る。いつの間にかゲンジさんも座っている。
「はいはい」
今日の朝食は、味噌汁と白飯と漬物、焼き魚。
「ノノさんや、魚、好きだよね?」
ルイさんとゲンジさんは頷きなから聞いている。
「ん? 好きか嫌いかですか?」
「そそ、朝食は割と魚が多くない?」
「うちは朝から肉はあまり食べないですね。味噌汁と白飯と漬物と何かになりますが、その何か、日によって違いますよ。勿論、無い場合もありますが、やはり肉は少ないですね」
「朝食といえば、卵料理ですかな」
「あ、そうですね。卵焼きとか。あとは豆腐ですかね」
ゲンジさんも話しに入ってきた。
「ゲンジも朝は肉は食べない派?」
「いや、こだわりはないですな」
エミリーさんがゲンジさんにも聞いている。
「ふうん」
「ノノ様、ごちそうさまでした」
ゲンジさんがあっという間に食べ終えた。
「あ、はい。おかわりとか良いですか?」
「大丈夫です。それでは某は準備がありますので」
ゲンジさんはそう言って、持ち場に戻って行った。
「エミリーさん、ゲンジさんは何か急用でもあるんですか?」
「ああ、見張りの交代じゃないかな。一応、ここは町中じゃないから、見張りがあるのよ」
野営扱いなのか。ここで襲われることはないけど、ちょっとした盗みをするヤツはいるかもか。
「世知辛いですね」
「まあ、仕方ないわよ。……ふう、私もそろそろ行くわ。ノノ、ごちそうさま、いつもありがとね」
「あ、エミリーさんは国境警備隊のところですね?」
肩を竦ませながら、頷いている。
「これも、まあ、仕方ないわ。そのあとは商隊長のところ、かなー」
そう言って、手を振りながら去って行った。
「ノノ様、ごちそうさまです」
ルイさんも食べ終わったようだ。
「それじゃ、かたすね」
そう言ってから、朝食を片付ける。魔法でパパッと洗って乾かして、魔法の鞄へ放り込む。
「ノノ様、前からお聞きしたかったのですが、そのまま放り込んで大丈夫なのですか?」
ああ、そうか。雑に入れてるから気になるのね。
「中はどうなってるのかは、私も分からないのよ。どう入れても欲しいときに欲しいと思った形で出てくるからね。この手のマジックアイテムはそんなものだと思っておいた方が良いよ。……鞄、覗いてみる?」
不思議そうにしているので、聞いてみる。
「その、よろしいんですか?」
ルイさんが怖ず怖ずと聞いてきたので、鞄をガバッと広げて中を見せる。
「……空っぽの、普通の鞄に見えます?」
「そうなのよ。こうやって見せるときは底のある普通の鞄なのよ。こうして、手を入れると……。ほら、手の先が消えるでしょう」
鞄の中に手を突っ込むと、鞄の口から先に有るべきハズの手が消えている。
「本当ですね、不思議です」
「ちなみに魔法で登録した人しか使えないので、ルイさんが使おうとすると、鞄の口が開きません」
「そうなんですね。それだと、持ち主が死んだときはどうなるんです?」
あー、なかなか良い着眼点だ。
「その場合は、次に魔法で魔力を登録するまで使えなくなります。そして、中身は分かりません。前に使ってた人が何を入れてたのか、知ってなければ個別には出せません。ただし、全部を取り出す方法はあって、次の人が魔力を登録して「全部出ろ!」と念じれば、鞄の中身が全部出るようにはなってます。見つけたら魔力登録して全部出す。これがこの手の鞄を手に入れたときに最初にすることですね。ただ、注意しないといけないのは、魔力を登録した人が生きてる間は、その人が手放す手続きをしないと、新たな魔力の登録は出来ないんです。なので、拾ったとしても必ずしも使えるとは限らないの」
長い説明になったけど、中身はそのまま次の持ち主に引き継がれるのよね。
「何が入っているのか分からないのに、出すのって怖くないですか?」
「生きたものは入らないから、そこまで危険ではないよ。ただし、呪物は入るから、そこは注意が必要だけどね」
何度かそれで酷い目に遭ったという話を聞いたことがある。呪物だからねぇ。
「呪物ですか、それは怖いですね。でも、なかなか見かけることもないですし、あ、そういえば以前、お店で見たことはありますよ、その時は中は空だと言ってました」
「空かー。まあ、もし、見つけることがあったら、まず、魔力の登録が出来るか確認して、登録できたら中身を出すために教会とか、呪物を何とか出来る人がいるとこでお金を払って全部出す。中身が売れることもあるしね。その後どうするかは、その時考えることになるかな」
まあ、売ってしまった方が楽かもね。てか、何の話よ?
「あ、エミリーさんが、戻ってこられたようですよ」
それなりに時間は経ってたようで、エミリーさんが残月のところへ戻ってきたようだ。
「ルイさん、私たちも向こうに行ってみましょう」
そう言って、ルイさんと残月の人が集まってる方へ行く。まあ、すぐそこなんだけどね。
「エミリー、それは本当なのか?」
「ええ、事実みたいよ」
……何かあったみたい。
「エミリーさん、グラインさん、何かあったんですか?」
二人がこっちを向く。ちょっと険しい顔だ。
「あったというか、例の盗賊の話なんだけど、どうやらうちの領というか、うちの団に合同討伐の依頼を出してたみたいなのよ」
「そう、それをな、うちから断りがあったということになってたらしい……」
ほう、何とも面妖な。どうしてそんなことに?
「入れ違いですか?」
移動もしてたしね、入れ違いがあったのかも知れない。
「それはないわ。私たちがうちの国境門で手続きしたときにはその話は聞いてなかったし、その頃には盗賊団の被害もそれなりにあったからね。それに道中は一本道だから、出くわさないわけがないのよ」
「それって……」
「そう、どこかで何かがあったんじゃないかと思うでしょう? でも、ここからうちの国境までは、何かが起こることはほぼ無いの。ノノも知ったと思うけど」
確かにここまでの道中で何かが起こるとは思えない。
「そうですね。あるとすればロックリザードに絡まれるぐらいですか。でも、余程のことをしないと絡まれないですよね」
「まあ、卵を盗るとかぐらいじゃないかな、絡まれるとしたら」
確かに卵を盗るなら絡まれる。けど……。
「残月側からの回答は持ち帰ってるんですよね」
「そう、それで回答はどうなってるのかを確認したんだけど、文書で残ってたわ。私の署名入りでね」
うわー、偽造?
「私の署名は魔法契約になるから、魔力を通すと淡く光るのよ」
エミリーさんが悪い顔でそう言った。
「光らなかったんですね」
「以前の署名に似せて書いてあったわ。それで信用したみたいね」
一手間省いたせいで偽物を掴まされたってことか。
「その手続きをした人はどうなったんです?」
既に居ないかなとは思うけどねー。
「対象者は二人居て、二人とも昨日から行方不明よ」
「しかもその二人は俺たちの入国手続きを担当した奴らだったんだよ、笑えるだろう?」
何が笑えるのか分からないんだけど?
「グライン、ノノは分かってないわよ。横から口を挟むなら、ちゃんと説明して」
エミリーさんは分かってるみたいだね。
「ああ、すまん。ここの連中は俺たちのことはある程度知ってるし、エミリーは顔も知った連中が多いんだ。だから、魔法使いと書いてもすぐ分かるんだが、この二人はエミリーを知らなかった。手続きの時は顔も見てるはずだからな。依頼を断った本人が来てるのに、上に報告をしてないというのはおかしいだろう?」
なるほど、エミリーさんが来たら、辻褄が合わないもんね。
「そしてその二人なんだが、一月ぐらい前に流れてきた元傭兵だったんだ。それも『白銀の虎』の傭兵で、団の方針が合わなくて抜けて、ここに来たと言ってたんだそうだ。まあ、今の『白銀の虎』の方針が気に食わないなら、抜けるヤツはマシなヤツかと思って採用したらしいが、結果はこのとおり」
グラインさんがそう言いながら、肩を竦め苦笑いしている。
「警備隊長が言うには、仕事は凄く真面目で、入国の手続きも率先して真面目にしてたそうよ」
エミリーさんは半笑いである。
「あー、それは真面目にしますね。飯の種なんですから」
「だな」
「そうよねー」
グラインさんとエミリーさんもご納得の模様。
「でも、普通は新人だから頑張ってるんだと思うわよ。早く仕事を覚えて貰って戦力になって貰わないと。それもあって、うちへの依頼も任せたみたいだったわ」
……見事に裏切られちゃったけど。
「ところで、例のフレアを放った場所の確認はどうだったんです?」
情報が漏れてた話は、原因が分かった。あとは盗賊団の状況を聞きたい。
「森と盗賊団が居たと思われる開けた場所がね、奇妙なことに森の木の生えてる境目で綺麗に線でも引いたかのように分かれて燃えてたそうよ。もちろん、森の方は何の影響もなしで、盗賊の居た方は惨憺たるもの、という風にね。あと、火勢が凄ざましいかったんだろうとも言われたわ。まあ、火柱が上がるくらいだからね。でね、死体は無くて、骨と金属の塊やミスリル製の武具、溶けた金貨や銀貨が有ったそうよ」
骨は燃え残るんだよねー。うん、それは仕方がない。周りを囲んだせいで威力が上がっても残っちゃったか。
「骨は割と残っちゃうんですよね。焼いたあとで埋めた方が良かったかもですね」
レミさんとルイさんも「骨は残りますねー」と呟いている。教会関係者はよく知ってることだろう。
「他には何か残ってましたか?」
「一応、元『白銀の虎』だった証っぽいものは有ったぽいよ。燃え残るんだから、特殊な加工がされてたんだろうと言ってたわ」
特定されちゃったか。骨はどうしたんだろう?
「骨はスケルトン化しないように埋めてきたそうよ。それと、ミスリルの武具とかは、最近襲われた商隊のものだったみたいで、こいつらが犯人で間違いないだろうと言ってたわ」
ミスリルはそう容易くは溶けないからねー。
傭兵団が盗賊団に成り下がる。仕事はあるのに団長次第とはいえ、最後は盗賊団として名を残すとか、元居た団員たちはどう思うんだろう。
追い出されとはいえ、盗賊団に居たとは言えないし。……あ、それで、元が付いてるんだ。
「エミリーさん、元『白銀の虎』なのは、白銀の虎に居た一部が盗賊団になったという判断になったわけですね」
「そうよ。白銀の虎は、別のどこかに居るの。落とし所としては、そういう話にしたそうよ」
国が雇った傭兵団が盗賊団に成り下がったとは流石にちょっと拙いのだろう。例え、良い噂のない傭兵団だとしたも。
「国の支払いが悪かったからとか、言いふらすヤツがいないとも限らないからね。予防線は張っておくと。そう言ってたわ。だから、皆もそのつもりでね」
盗賊団のことは分かったけど、フレアの件はどう説明したのだろうか?
「ところで、魔法の件は追求されなかったんですか?」
何か言われてそうだけどねー。
「特に何も言われてないわ。私が魔法を使った証拠もない。今まで見せてきた魔法にもあんな高威力の魔法はないし、いつも一緒のシンシアが水魔法を使った形跡もない。盗んだ魔道具の暴発じゃないかと言っといたわ。まあ、信じてはないでしょうけど」
確かにそれもそうか。火消し役とセットでしか、やってないから状況証拠もそろわないか。
「延焼してないけど、水を使った形跡もない。名簿にも魔法使いはエミリーさんとシンシアさんとボーマスさんの3人。これではどーにも分からないでしょうね」
「まあね。それに私としては、フレアについては自領以外では使ってるのを見せたくないのよ。使えると分かると変に警戒されるでしょう?」
確かに。ポンポン撃つようなものでもないか。
「おい、エミリー。そろそろ出発だそうだぞ」
そんな話をしていると、いつの間にか居なくなってたグラインさんが帰ってきた。どうやら商隊の方に行ってたみたい。
「商隊の方には警備隊から質問は行かなかったんでしょうかね?」
「自分の国の商隊を疑うわけが無い。第一、うちらが護衛任務で付いてきてるのに、そんな戦力あると考えないわよ」
そりゃそうか。
「さ、ノノもルイさんも、出発の準備。あと、次の町で商隊長がノノに話があると言ってたわよ」
げぇ、めんどくさいことしか思いつかないよ。
「露骨に嫌そうな顔をしない!」
……怒られた。
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