第93話「討伐、盗賊団」
「ノノ、最終の打ち合わせをしましょう」
そろそろ出発の時間かなと思っていると、エミリーさんから打ち合わせをしたいと言われた。
こういうところは慎重なのよね、エミリーさん。
「そうですねー、ちょっと地面に私が見た情報を書き足しますね」
ザックリなので、地面に描いたのに追加していく。
「紙はないからしょうがないか」
エミリーさんがそう呟く。
そう、仕方ないのです。さてと。
「今、居るのがここで、目的地はこの山の裾野の森の中になります。森のこの辺、ちょっと奥になりますが、この辺りが開けていて、エミリーさんには、この部分、真ん中からちょっと奥に撃ち込んで貰えれば、盗賊の主だった人たちが燃やせる感じですかねー」
そう言いながら、チョイチョイと枝を使って、地図を細かく描いていく。
「ノノ、凄く器用ね。魔法を使ってるのかな?」
そこまで綺麗ではないけど、魔法を使ってるのかと聞かれてしまった。
「使ってませんよ?」
みんなこっちを見てくる。えー、地図とか普通に描くやん。
「……ノノ様、地図を描くの得意なんですか?」
シンシアさんが聞いてきた。
「ダンジョンに入ったときに描くのと変わりませんよ?」
ああ~、という顔をみんなしたので、ご理解いただけたのでしょう。
「確かにそうですね、ノノ様的にはダンジョンと同じ感覚なんですね」
……魔法や魔道具でも出来るけど、それは黙っておこう。
「そんなことより、時間も無いので。エミリーさん、出来ますよね?」
「う~ん、視線が通ってないから、ピンポイントでは無理かな。大凡、この辺りとかならいける思うけど……」
ちょっと、厳しいっぽい。うーん。
「では、こういうのはどうでしょう。この辺りという目印に、こんな感じで光の柱を出した場合はどうです?」
地面に描いた地図の目標から、垂直に光の柱を出して、確認してみる。
「……また、器用なことを。それだと可能だけど、相手にもバレるわよ?」
シンシアさんとレミさんが光の柱に手をかざしている。珍しいのか?
「バレたところで、相手は逃げる余裕はないですよ。だって、酒盛りしてるんですよ? それに私たちが着く頃には、見張り以外はグッスリです」
鳥の目を通して、見てる分には馬鹿みたいに飲んで騒いでいる。……防音の魔法も掛けてるんだろうね。
「なかなか豪快な盗賊団ですね。音が漏れたりとかはしないんでしょうか?」
ルイさんが聞いてきた。
「認識阻害の魔法以外に音を遮断する魔法か魔道具を使ってるんだと思うよ。そうでないと説明がつかないぐらい騒いでるよ」
それはもう、どんちゃん騒ぎ。一体何が彼らをそうさせるのか、というぐらいに騒いでいる。……最後の晩餐?
「明日にはこの地を離れると決まったから、腐りやすい食べ物を食べ尽くしてるんでしょう。荷造りはどう?」
「特に変わりは無いですね。起きてから準備するんでしょうか?」
前日に準備はしないのか、これまで盗んだであろう物資は雑多に置かれたままだ。……貴重そうなものは見当たらないけどね。
「貴重品は、恐らくボスの寝るところにあるはずよ。それと武器とかは持ち出しやすいところに置いてあるでしょう?」
エミリーさんがそう言うので、よく見てみる。
「武器は確かに整理して、手に取りやすいように並べておいてますね。これなら不意を突かれても、大丈夫だと思います」
「でしょうね。こういう手合いは、軍の討伐隊があまり遠隔からの攻撃をしてこないから、近接に備えて武器だけは、すぐ手に取れる場所においているのよ」
一応は、傭兵団ではあるわけか。今は、盗賊団だけど。
「そのおかげで、安全に遠隔から魔法が撃てるんだけどね。撃ち込む位置さえ分かれば、一撃で吹っ飛ばして、さっさと戻ってきましょう。どのみちあいつらが盗んだ盗品は回収出来ないんだし、盗賊団の後始末は、国境警備隊の仕事よ」
盗品の回収は確かに難しいし、多分、魔法で溶けるか焼ける。
「ところで、ノノさんや。これってあなた一人でも出来なくない?」
「これまでどおり、エミリーさんの役目ですよ。私は司祭。魔導師はあなた。良いですか、エミリーさん、間違ってはいけません」
役割分担を間違えてはいけない。それにここらで有名なのは紅蓮の魔導師。今回は入国時に魔法使いとしてしか、申告してないけど、名前はエミリーで申告していたはず。
「エミリーさん、魔法使いとして入国時に申請されてましたよね。相手は紅蓮の魔導師とは思わなかったみたいですが。それはあちらが勝手にそう思い込んだだけで、顔を隠してもなかったですし、向こうのミスもあるとは思いますが。……エミリーさん、ここの警備隊長とは面識があると言ってましたよね?」
入国の際に警備隊長が居ないならと言ってたし。
「ご近所、というほどの距離ではないけど、面識はあるよ。警備隊長以外にも見知った人は居るよ。ただ、今日は居なかったけどね」
「見知った人が居ると問題でも?」
「何しに来たのかを根掘り葉掘り聞かれるわよ。今回は商隊護衛だからそこまでは無いと思うけど、一応、要注意人物らしいからね」
肩を竦めながらそう言う。
「ノノは助司祭になってたよね?」
よく見てるなー。確かにそうだよ。
「ルイさんの横に名前を書いただけですよ。それに助司祭と言ったのはグラインさんで、私は一言もしゃべってませんよ」
余計なことは言わない。グラインさんが二人とも助司祭と言ったのは何か考えがあってのことだろうし、黙ってたのよね。
まあ、仮に司祭と名乗ったら、恐らく足止めされて、教会に確認したあとでないと入れないとかになりそう。
「ここでの情報が流れるわけでもないですから、町に入るときは司祭に戻しますよ。さあ、そんなことより、そろそろ行きませんか?」
歩きなので、そろそろ出ないと帰りが遅くなる。
「そうね。レミ、シンシア、それじゃ、あとはよろしくね」
「ルイさん、ちゃんと寝るんですよ」
そう言ってから、エミリーさんと二人、こっそり商隊から抜け出した。
「ノノ、こっち合ってる?」
「合ってますよ。あと、1時間ぐらいでしょうか?」
歩くと結構な距離だけど、帰りは瞬間移動で戻るので、問題は無い。
「行きは仕方が無いです。一度行った場所でないと転移の魔法は危なくて使えないので」
「転移の魔法が使えるだけでも有り難いわよ。でも、そんな制約があるとはね」
「いわゆる転移ゲートや転移の魔法陣も使えますが、アレはアレで場所固定ですからね。そして、そのどちらもこさえるのに時間が掛かるという代物ですし」
そう、ゲート系は術式を書き込む必要があり、それなりに準備と時間が必要になる。今回のような場合には使い勝手が全くよろしくない。……改良も考えてはみたけど、それでもやっぱりそう簡単に扱える魔法ではなかった。魔力消費も多いしね。
「あ、見えてきましたよ!」
「え、どこ?」
「その山の裾野の、あの辺りです。何か靄が掛かってるように見えませんか?」
そう、よーく見ると、ちょっとした違和感がある。エミリーさんなら目ではなく匂いで分かるかも知れないけど、距離がなぁ、ちょっと遠いかな?
「目ではよく分からないね。でも、あの辺りなのね?」
やはり分からないか。まあ、まだ射程距離内ではないから、それは仕方が無いか。
「あんまり遠すぎると威力が落ちますし、狙いもズレる可能性がありますから、もう少し近づきますか」
「そうね。せめて森の入り口付近ぐらいまでは近づきたいわね。見張りとかはどんな感じ?」
あー、見張り、見張りかー。
「森の入り口付近には居ないんですよ。恐らくですけど、明日には放棄するし、国境警備隊の動きもある程度把握してる相手ですから、今日はもう見張ってないんだと思います」
「何というか、雑な感じがするわね」
「これまで見つかってないし、明日には居なくなるんであれば、今日、というか今夜しかないわけですし、国境警備隊からの情報も盗れてるんですから、無理もないですね」
慢心。そう慢心しても仕方が無いかな。
「お陰でこうして近づけているのだから、有り難いことではあるけどね」
そんなことを話しながら、森へ向かう。こっちもそんなに緊張感はない。
「ノノ、もし仮に、あなただけだったらどうするの?」
「私だけの場合ですか。ふうむ、そうですねー、森の中ですから不意打ちで少しずつ、ですかね。あまり目立つことはしたくないですし」
魔法で一気に出来ればいいんだろうけど、この条件だと結構難しいなぁ。
「魔法で一気に片を付けるのかと思ったけど、そうではないのね?」
「森の中ですからね。これが洞窟とかなら、あまり目立つことがないですから、洞窟の入り口から火属性の魔法か水属性の魔法で一気にやってしまいますね。効率も良いですし」
水属性の魔法がマシかな。アイテムとか、火属性の魔法だと燃えちゃいそうだし。
「なるほどね。今回は目立つけど良いの?」
「そこは、ここなら紅蓮の魔導師の仕事なら、誰もが納得でしょう。護衛任務中に盗賊団を見つけたので、いつもどおりに燃やした、と。それも規模が大きいですから、他に方法がなかったと言い訳が出来ます」
隣の領地だからこそ、使える手でもある。
「ここの国境警備隊長も紅蓮の魔導師のやり方は知っているんでしょう?」
「合同で討伐したこともあるから、分かってはいるわねー」
……エミリーさん、その微妙な顔は何?
「何か、やらかしました?」
「やり過ぎとは、いつも言われる。けど、ここもうちと同じで捕らえた盗賊に手を取られたくないのよ。魔王軍との戦いで人手も足りてないから、下手に生け捕りにするとめんどくさいの。お互いそれが分かってるから苦笑いで済むわ」
そんな話をしていると、目的の場所に着いた。
「えっ、ここ? ここからだと、届かなくない?」
「んーそうですね、これまでのエミリーさんの感覚だと、ちょっと遠く感じるかも知れませんが、この距離までなら届きます。この距離が、エミリーさんがフレアを撃ち込める限界になります。この距離感を覚えて下さい」
エミリーさんの感覚だと、ちょっと遠く感じるか。でも、エミリーさんの魔力量ならこの距離までは、フレアの最大火力が出せる。
「ノノがそう言うのならそうなんでしょうけど……。まあ、やってみるか。この距離で撃てるなら、かなり戦術が幅が広がるしね」
魔法は近接に弱いから、遠くから撃てればそれに越したことは無い。今回は特に相手が動かないから、じっくり狙うことが出来る。
「では、光の柱を出しますので、それを目標にフレアを撃ち込んで下さい。そして、すぐ帰りましょう」
「そうね、どうせ国境警備隊が出向くから、それで良いか」
それでは光の柱を出しますか。ええっと、鳥の目とで確認して、ハイ、ここか。
「夜闇を照らす星よ、我が旅路の標となれ。天へ昇れ、導きの灯! <<ビーコン・ライト!>>」
空へまっすぐ、光の柱が昇っていく。
「ほー、流石ね。ところで延焼の方は大丈夫?」
あ、忘れてた!
「夜空を統べる月光よ、穢れなき銀の輪で、迫る熱波を閉ざし給え。<<ルナ・フープ!>>」
森の奥に神聖な銀色の光の輪が浮かび上がる。
「ちょっと、なかなか凄いものを出したわね」
「見た目は荘厳ですが、出来ることは炎による熱波を封じ込めることだけですよ」
「へー、そうなんだ」
ちょっとは感心したようだ。
「さぁ、エミリーさん、フレアを」
エミリーさんに呪文を促すとエミリーさんは両手で杖を天高く振りかざす。
「遥か古、始まりの天に灯りし原初の火よ。我が掲げし宿木の杖に応え、不浄を灼く絶対の質量と成れ。天を分かつ赤白の断罪よ、無に帰す裁きを今ここに。<<フレア!>>」
エミリーさんの杖の先から古代の赤白い火の粉が激しく噴き上がり、光の柱の上の空がまばゆく赤白に染まったかと思うと、凄まじい熱量が天から降り注いだ。
「やー、鳥の目で見てますが、凄まじいですね。森に熱波が届かないように防壁を張ってるのもあって、中は高熱になってますね。……これ、生き残ることは不可能です」
逃げ惑うとか、そんなことも無く、盗賊達は一瞬で炭化して行く。……熱を閉じ込めると熱の行き場が無くなるからか、威力が倍増しているように見える。
「ノノ、どう? どんな感じ?」
「音が聞こえなくて良かったです。直下付近はもう跡形も無く、離れた場所は炭化してます。生き残りも出るかと思ったんですが、結果として、熱を閉じ込めた状態になってしまい、そのため、威力がかなり上がってしまったようです」
「私自身が確認できないのは残念だけど、仕方ないか。……炎も収まってきたようだし、戻るか」
結構派手に燃え上がってたけど、周りには影響は無い。……あったら私は無能だね。
「そうですね。恐らく、近隣からなら凄まじい炎の柱と地鳴りが確認出来ますから、早々に立ち去った方が良いですね」
「そうね、早々に撤退しましょう。……それにしてもこの距離であの威力が出せたのか」
きっと、今頃は国境警備隊も感づいて居るだろう。
「……仮に国境警備隊と出会ったとしても、魔法で惑わせば良いのよ」
エミリーさんが、急に不穏なことを言い出す。
「そこは魔法で姿を消します。それに戻りは転移の魔法で一瞬ですよ?」
「ああ、そうか、確かに転移の魔法で戻るって言ってたわね……」
思い出したようです。
「それでは、サクッと戻りましょう。聖なる光よ、我が道を照らし、彼の地へと導け。<<テレポーテーション>>」
足下に魔法陣が浮かび上がり、その場から一瞬で、残月の野営地の近くへ。
「うわっと。もう着いた。フワッと一瞬するだけなのね」
「転移の魔法は初めてですか?」
「……使える人は高位の魔導師だけでしょうに。でも何で、高位の魔導師しか使えないんだろう?」
あー、なるほど。そこからか。
「それは多分、転移を想像できないからではないでしょうか?」
エミリーさんが少し考える仕草をした。
「ああ、確かに。ものが別の場所にフッと移動するとか、あり得ないと思うし、それが自分だと思うと、ね。でも、転移の魔法陣は気にならないのよね」
「アレは魔力を通せば、決まった魔法陣へ移動すると知ってるからだと思いますよ」
転移の魔法陣もそんなに数はないし、国で厳重に管理されているけど、エミリーさんはどこで使ったんだろう?
「なるほどね。……ノノ、転移の魔法、私でも使えると思う?」
「どうでしょうね。距離とか運ぶ量とか人数とかで使う魔力量が違いますから、発動するかどうかも分かりませんね。まずはこういった小さい石でやってみて、成功したら、もっと大きいもの、成功したらさらに大きいものとか、距離を少しずつ伸ばしていくぐらいしか練習方法はないですし、結構な魔力を消費しますから、エミリーさんの場合はご自身をここからミンダスへ転移できれば御の字ぐらいですね。もっとも、着いた途端魔力切れでバタン、となりますが」
実際に使えるようになるかは分からないんだよねー。
「便利そうなんだけどね。属性的には?」
「一応、無属性ですね。誰でも使えますが、魔力はドカ食いです。魔法陣の方が魔力消費は控えめですが、アレ、場所固定で一対一のセットでしか使えないうえに、魔法陣自体が複雑だし、使い勝手が悪いんですよね。エミリーさん、魔法陣の解説本と転移魔法の呪文を渡しておきましょうか?」
エミリーさんがやや呆れ顔だよ?
「ノノは、何でも渡そうとするよね。ちなみにその手に持ってる解説書、うちの実家にもあったけど、無理でしょう。対象の座標とか、調べる方法も無いし、現存して稼働している魔法陣も王家とか教会にしかないから、調べようがない。これは祖母が言ってたんだけどね。修復というか、メンテナンス的なことはうちの実家でもやってたから、原理は分かるんだけど、座標だけは無理だって言ってたよ。あと転移の呪文も王都の学校で習いはするけど、成功率は0.1%未満で誰も使えなかったなぁ」
なるほど、実家がそう言えば、スクロール屋さんでしたね。で、転移の魔法は学校で教えてるのか。
「どっちも知ってるんですね。転移の魔法は発動しなかったんですか?」
「……何も起こらなかったわねー。先生ですら、発動してなかったから、原因は不明。それでも昔の教師の中には使える人が居て、その人も原因は分からないと言っていたそうよ」
発動する、しないは分からないんだよね。私は使えるから余計に分からない。仮説としては、転移を想像できないのを筆頭に、多属性の魔法を行使できることとか、古代神聖語の呪文を成功させていることとか。まあ、実際、検証のしようがないので放置になってるけど。
「うちでの話になりますが、先に言ったように、転移が想像できないことの他に、多属性か古代神聖語のみの魔法を成功させてることが条件ではないかなということになってましたね。検証はしてないので、実際のところは分かりません。エミリーさんならひょっとしたら使えるかもと思いましたが、多属性の魔法が難しいような気がしますね」
エミリーさんは一応、多属性の魔法を操るし、フレアも使い熟せてきているが、多属性の魔法を高レベルで使えないので、無理かなぁ……。
「無理ね。さっき、あなたが話してるときに小声で試してみたけど、何も起こらなかったわ」
「小声、ですかー」
条件、何なんだろうか?
そんなことを話しながら歩いていると、テントが見えてきた。
テントに近づくと人影があり、誰かとよく見てみるとシンシアさんとレミさん、ルイさんが待ち構えていた。あと、グラインさんが居るようだ。
「ノノ様、エミリー、成功したみたいね。こっちでも炎と地響きが確認できたわ」
「そうそう、知らない人たちは吃驚して、テントから出て炎を眺めていたわよ」
「ノノ様、お怪我とかはないですか?」
3人が一斉に話しかけてきた。
「3人に一気に話しかけられると、わけが分からないわ。けど、盗賊は燃やす尽くしてきたわよ」
エミリーさんが凄くザックリ報告する。
「ノノ様、討ち漏らしとかはないんでしょうか?」
レミさんが何故か私に確認してきた。
「エミリーさんの言ったとおりで間違いないよ。森に火が回らないように、魔法の壁を作ったんですが、そのせいで壁の内側の火力がマシマシになって、それはもう、えらいことになってましたから」
「ほう、えらいことにですか?」
あ、グラインさんが出てきたぞ。
「エミリー、商隊長が戻ったら報告が欲しいと言ってきている。まあ、どのみち行くんだろう?」
出てきて早々にグラインさんはそう告げてきた。
「勿論行くわよ。そうね、ちょっと休憩したら商隊長に報告に行ってくるわ。今後のことも打ち合わせをしておかないと面倒になると困るからね。ところで国境警備隊に動きはあるの?」
それは私も気になっている。夜中に森に行くとは思えないけどね。
「こっからだと分からんが、多少の動きはある。当たり前だが。まあ、本格的に朝にならんと動かんと思うぞ。夜中に森の奥まで緊急出動とか、自殺行為になりかねんし、国境門からはそれなりに離れてるからな。近けりゃ別だが、そんなところに夜中に調査には出んな。今は日が昇り次第、調査隊を派遣するべく準備を進めているはずだと思うぞ」
真っ当な判断が出来ればそうなるけど、ここの国境警備隊長はどうなんだろう?
「エミリーさん、実際のところ、無謀に夜中に調査隊を出すような人が隊長では無いですよね?」
警備隊長を知ってる人に確認した方が良いかなとエミリーさんに確認してみる。
「……そうね。割と慎重な方だったわよ。猪突猛進型では無いけど、朝一番に調査隊を率い出て行くと思うわ」
ん? 隊長自ら行くのか?
「隊長自らですか?」
「判断をする必要もあるから、確実に隊長が行くわ。というか、隊長以外はそこまで有能では無いわよ。だから、賊が出たと聞けば隊長自らが警備兵を率いて、調査・討伐に赴くのよ。グライン達もそう思うでしょう」
グラインさんやシンシアさん、レミさんも頷いている。
……全員知ってるのかな?
「不思議そうな顔をしてるから、教えてあげる。うちの領とこことの間には不毛の大地があるから、争いは皆無。争う理由が発生しないからね。それでも隊長だけは判断の出来るそれなりの人を軍が派遣してるのよ。他の隊員は軍から少数と近隣の村からの輪番制、あと不足は傭兵の雇用で賄ってると聞いているわ。まあ、こんな辺鄙なところでは、軍功も上げられないし、仕方が無いとも愚痴ってたけどね」
なるほどね。魔王軍も来ないし、近領との争いもない。やってくるのは商人か隣国からの旅人ぐらい。あと、野盗ぐらいか。魔王軍との戦いが逼迫してる国だし、こんな辺鄙なところに大がかりな軍は置かないか。野盗は近領に盗賊必ず殺すマンがいるから、共闘を持ち掛ければ、二つ返事でやってくる。
……確かに多少交渉が出来る人物と新兵か老兵を送っておけば良いとなるね。
「ちょっと、気になったのですが、今回の盗賊団については、何か連絡はなかったんですか?」
そう、何か違和感を感じる。
「無かったわねー。グライン、なんか聞いてる?」
「いや、俺も聞いてないな」
二人して首をひねるばかり。
……何とはなくだけど、例の盗賊団が絡んでる気がしてきた。もう確認することも出来ないけどね。
「既に終わったことだから、もう良いんじゃない? 知ったところで、どうせ盗賊団の一味が絡んでるぐらいでしょうし」
エミリーさんも盗賊団が絡んでるんじゃないかと思ってるみたい。
「それじゃ、私は商隊長のところに行ってくるわ。話し合い次第になるとは思うけど、あとは明日の朝にでも」
そう言って、エミリーさんは商隊長のいるテントの方へ歩いて行った。
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