第90話「サンドワーム」
商隊長との話し合いのあと、足取りの軽いエミリーさんを横目にしながら、残月の団員のいる方へ戻ることになった。
……この人、足取りが軽いというより、軽くスキップ踏んでないか?
「あ、ノノ様、お戻りですか」
途中でレミさんとシンシアさんに出くわしたが、エミリーさんを見るなり二人とも怪訝顔をする。
「エミリー、ご機嫌ね」
「どう見ても、上機嫌に見えますね。……スキップ?」
誰から見てもご機嫌に見えるよね。それとやっぱりスキップに見えるか。
「盗賊団を焼きに行けるのよ。これほど楽しみなことは無いわ!」
た、楽しみって、そこまでなの?
「あー、エミリーに餌を与えちゃったか。そうで無くてもちょっとアレなのにねー」
「アレとは何よ、アレとは!」
レミさんと言い合いになってきた。
「シンシアさん、エミリーさんってどうしたあんなに盗賊を焼きたがるんです?」
「本人が言うには、遠慮無く魔法を試し撃ちできるからだそうですよ。魔物もそうですけど、盗賊にも遠慮が要らないですからね」
「でも、捕まえて鉱山送りでもいいと思うんですけど?」
そう、貴重な労働力にもなるんだよ。
「うちの領には鉱山はないし、鉱山のある領に送るのも遠いので手間しか無いですし、それに以前、逃亡されたことがあるんですよ。それでうちの領では、軽微な罪は償って貰いますが、鉱山送りになるような輩は、余程で無いと即決で断罪です。自首してくる人もいますが、そういった人は、希ですねー」
事情は分かるけど、希な人はどうなってるんだろう。
「自首してきた人は?」
「盗賊に身を落とした人なので、隷属の首輪を付けて、鉱山送りほどきつくは無いですが、それなりの苦役を与えていますよ。エミリーさんからは生ぬるいと言われていますが……」
エミリーさん、盗賊に対して苛烈だねー。
……何か理由はあるんだろうけど、聞かない方が良い気がする。相手は盗賊だしね。
エミリーさんの方を見るとまだ、レミさんと言い争ってる。
「それじゃ、エミリーさん、私はもう寝るので自分のテントに戻りますねー」
そう言って、返事は待たずにルイさんのいるテントへ向かった。後ろから声は聞こえたけど、引き留めてる風では無かった。
……
「ノノ様、どうでしたか?」
ルイさんがまだ起きてた。まあ、気にはなるか。
「私の素性がバレました」
ルイさんが固まった。びっくりして叫ばれるよりはマシか。
「え、え、え、ど、どどうしてですか!」
「30年ぐらい前になるんだけど、黄領砂漠を越える商隊と行動を共にしたことがあってね、この商隊の所属してる商会の商会長がその時の商隊にいたのよ。そこからよ。魔導鳩で現状報告してたみたいで、その中で私のことも報告されてて、商会長が気づいたみたい」
「商会長さんが、ですか。商人は記憶力が良くないと務まらないとは聞きますが、すごい記憶力ですね。……それとも、ノノ様、何かやらかしました?」
最初は「そうなんだー」ぐらいだったルイさんの表情が、疑惑の眼差しに。
やらかしか。ふうむ。
「どういう経緯で商隊に?」
さて、どう答えたものか。……正直に話した方が良いか。
「サンドワームに襲われてたのを見かねて、助けたのが切っ掛けだったと思う。そうでもなければ、野良の魔法使いなんか、商隊には入れないでしょう?」
「そうですね、何の紹介もなしだと難しいと思います。でも、商隊にも魔法使いはいたんじゃないんですか?」
「サンドワームに効く魔法って限られてるのよ。それに商隊所属の魔法使いは、砂漠を渡るための水を確保するための要員だから、攻撃魔法はそこまで求められてないしね」
普通の街道とかなら水場がある程度の間隔である。砂漠だと、砂に埋もれて分からなくことも多いから、ほとんど機能してない。そうなると水を多く持って行くか、魔法使いを連れて行くかになる。普通は両方用意する。してないと砂漠は楽には渡れない。
「砂漠を越える商隊となると、かなりの規模なんじゃないんですか?」
「そうですよ。この商隊の5倍ぐらい居たんじゃないかな。それぐらいの人数でないと、儲けが出ない。まあ、それ以外だと少数精鋭で素早く抜ける方法もあるけど、こっちは博打要素が高いから一発逆転とか狙う連中がよくやるけど、成功率は2割を下回るわ」
「……ノノ様、かなりお詳しいですね」
何回も行ってるからね、そういう人たちも結構見かける。……死体も多かったけど。
「当時は割と頻繁に行ってましたから。特に地下遺跡には通ってましたね」
魔素を含んだ材料がねー、豊富なのよねー。特に地下遺跡。
「地下遺跡なんてあるんですか!?」
ルイさんが吃驚している。
「ありますよー。地下遺跡には魔素を大量に含んだ材料があるんだよ。ちょっと奥まで行かないと駄目なんだけど、危険を差し引いても魅力的!」
「そこも一人で、ですか?」
「一人の方が危険は少なくなるの。水と食料を何とか出来ればだけど。大人数で行くとサンドワームが必ず襲ってくるから」
大勢いると砂漠でもそれなりに地面に響くから仕方ない。
「えっ、必ずですか!」
「音で寄ってくるんだよ。人が多いと、余計に寄ってくる。そんなに大きくはないから、ちゃんとした護衛を雇うとかすれば問題ないんだけど、極希にだけど、規格外のでかいのがいて、30年前のが、それだった。それも大人を2、3人丸呑みできるぐらいに育ってたねー」
たまにでかいのが居るんだよ。魔石も大きいから狩れればおいしいんだけど、あいつら砂の中に潜って攻撃してくるから、めんどくさいんだよね。
「ちょっと離れたところから、様子見をしてたんだけど、商隊の護衛でもちょっと手に余る大きさと数だったから、途中から手助けしたの。あいつらの弱点は氷だから、凍らせれば良いだけだから」
「……商隊の皆様は、さぞ吃驚されたことでしょうね」
ん、ルイさん、何故、それが分かる?
「ルイさん、よく分かったわね。でも、何故?」
「ノノ様のことですから、先に魔法を使われたのでしょう?」
「え、そうだけど、よく分かったわね」
「そこがおかしいのです。普通は声をかけてからじゃないと、危なくて、攻撃魔法なんて使えませんよ」
あー、思い出した。同じことを言われたわ。
「思い出した。同じことを言われたわ。ただ、結構ギリギリな感じだったから、助かったとも言われたよ。そんなこともあったけど、行き先も被ってたから、商隊に誘われたのよ。一番の理由は、氷魔法を使える魔法使いは少ないというのもあったんだと思うけどね」
氷魔法は、水魔法の派生と言われているけど、習得者は少ない。魔導書には載ってはいるけど、水の温度を下げるというのが難しいらしい。……以前、調べたときは、極地に居る魔法使いは普通に使えていたから環境もあるのかも知れない。
「……純粋に戦力としてだと思いますね。一人で砂漠を越えることの出来る魔法使いなんて、居ないです」
居ないかな?
「知り合いには結構居るけど?」
両手ぐらいは居るけど、これは結構な数?
「ノノ様の、そのお知り合いは大魔導師とか、それに類する方たちですよね?」
「一部はそうかも知れないけど、そうじゃない人も居るよ」
居たはず。んー、居ないか? 居ないかな?
「まあ、それはさておきですね、今日、商隊長から話を聞いて『あーそう言えば、そんなこともあったな』と思い出したわけです」
「……ノノ様、まあ、いいです。それでどうなったんです?」
どうやら、流してくれるようだ。
「エミリーさんと話してた方法で賊退治に行くことになりました。なので、明日は国境で手続きをしたら、そのまま野営になります」
ルイさんが「えっ?」という感じの顔をしている。
「それは、取り繕う必要がなくなったということですか」
「少なくとも、商隊長とゴッザムさん、アンソニーさんには取り繕う必要は無くなったね」
「なったね、じゃないです。それで二人だけで……、いや大丈夫ですね」
一瞬考えたように見えたけど、すぐ結論が出たみたい。
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