第89話「商談成立」
「何か方法があるのですか?」
ボランさんが、やや興奮気味に身を乗り出して聞いてきた。
「探知魔法で怪しい動きをする人を追えば良いんじゃないかと話していたんですよ。私が使う探知魔法は魔力感知型なので、見逃すことはないので」
そう、探知魔法もいろいろあるけど、普段使ってるのは魔力探知型。生命力を探知するのもあるけど、あれは相手の生命力を測るから気付かれることがあるのよね。それが魔力感知型だと、対象が発する魔力を拾うだけだから気付かれることはほぼない。
……高位の魔導師には気付かれることがあるけどねー。
「な、なるほど。確かにその魔法であれば、内通の疑いのあるものは絞れますな」
絞れるけどね。そのあとをどうするか。
「その、どこまで追えるものなのでしょう?」
思案顔でボランさんが聞いてきた。
「内通の疑いのある人には、魔法で追尾用の印を付けることも出来るので、それを辿る形まで持ち込めれば、見失うことは無いです」
魔法使いには使えないけど、一般兵なら、まず見抜けない。問題は盗賊団に居る魔法使いがどの程度の実力があるかと、警戒しているか、かな。
「難易度的には、厳しいのですか?」
「相手次第ですね。国境警備隊は問題ないでしょうが、盗賊団の魔法使いがどの程度の実力があるのか、どの程度警戒してるか、次第ですね」
……居るよね、魔法使い。
「居ますよね、魔法使い」
「……これは、国境警備隊から聞いた話になりますが、襲われた者達からは「魔法の使用は無かったが、ローブを纏ったものは居た」という程度。ただ、規模から考えると居ないということは無いでしょうな」
なるほどね。情報源は国境警備隊かー。
「ボラン殿、その情報はどのように?」
エミリーさんも気になったようだ。
「先触れを出した際に、情報共有が有ってな。恐らく、国境門を通る者には知らせているのだろう。何も知らせないというわけにいかんし、もしもの時に聞いてなかったと証言されては国境警備隊の問題とされる」
「それならば、国境警備隊から護衛の兵士を出して貰えそうに思うが?」
確かにこの規模の商隊なら襲われることを前提に護衛を付けることも考えてもいいはず。
……言い方は悪いけど、いい囮に使える。
「その提案もあった。だが、軍の護衛となるとな」
ボランさんが意味ありげにエミリーさんの方を見た。
「……金銭か」
「ああ、かなりの金額を提示された。そのうえ、国境門付近で1週間程度、待つ必要があると言われてはな。一応、商会長に連絡はしているが……」
ふうむ、なかなか世知辛い。護衛にお金を取るのかー。
「一商会の商隊に軍の護衛は無料では難しいということか。しかし、囮として使うなら話が変わるように思うが」
「それがな、護衛が付くと盗賊団は出ないんだ。まあ、内通者がいればそうなるな」
確かに。
……国境警備隊と盗賊団がグルなんじゃないかと疑ってしまうけどね。
「それだと、国境警備隊と盗賊団がグルということも念頭にしないといけないレベルじゃないの?」
エミリーさんが突っ込む。そりゃそうよね。
「証拠が無いからな。疑いだしたら切りが無いが、それを言うわけにもいかん。うちとしては国境門を通る際に、紅蓮の魔導師が帯同していることが明らかになるから、それが、けん制になればとは思っていたのだが」
確かに国境を越えてこないくらいには、盗賊から恐れられてるものね。
「……だとしても、人数で押し切られるわよ。まあ、襲ってこない可能性に賭けるのもありか」
「そこの判断がな。いろいろ考えていたところに、ノノ様について連絡があった。それで戦力として見込めるなら、押し通れるんじゃないかと思ったんだ」
ん、戦力?
「ボランさん、バルバラさんからのお手紙には、ひょっとして、何か具体的なことが書かれてました?」
あの旅では結構なことをした記憶があるので、どこまで書かれていたのかが気になる。
「ノノ、目がちょっと怖いよ」
エミリーさんから耳打ちされた!
えー、そんな目をした覚えは無いけどなー。
「砂漠では水の提供と、盗賊団の壊滅、魔物の退治とあらゆる難敵に無双されていたと書かれていました。そして、ノノ様がノイシュ・ノーマッド様であるなら、何の心配も無い、旅の安全は確保されたと思って大丈夫だ、とも書かれてました。水の提供は分かりますが、盗賊団の壊滅と魔物退治が、失礼とは思いますが、今の司祭様然としたお姿からすると想像も付かず……」
エミリーさん、その残念なものを見る目でこっちを見ない。
「ふぅ、ボラン殿、その手紙書かれていることは恐らく事実でしょう。私が知るノノ様は魔導師としても剣士としても一流です。今回の盗賊団については、ノノ様と私、じゃない我ら残月に一任していただければ、盗賊団を壊滅してきましょう」
エミリーさん、今、私って言ったよね?
「ノノ様、いえ、ノイシュ・ノーマッド様、そのようなことが可能なのですか?」
ボランさんが今までと違って、期待のまなざしでこっちを見てる。
「あ、ノノでいいですよ。質問の件ですが、紅蓮の魔導師殿が自領において、盗賊、盗賊団を殲滅して回ってることは知れ渡っているでしょう。ボランさんがバルバラさんの手紙を信じて、私に任せて貰えるなら、紅蓮の魔導師殿と二人だけで大丈夫でしょう。盗賊団のアジトに紅蓮の魔導師殿を放り込めば、焼き尽くすでしょうから」
ボランさんがヤバい者を見るようにエミリーさんを一瞬見た。
「先のオーク砦のように、燃やし尽くしてきますよ。場所さえ分かれば」
「そ、それは心強い。確かにあの魔法であれば、それも可能か」
暫し考えた後に、ボランさんが顔をこちらに向けてきた。
「分かりました。本件、ノノ様に一任します。何かこちらでやるべきことがあれば」
おお、どうやら任せて貰えるらしい。
「そうですね、国境門付近で一泊が出来るように商隊を進めてください。その一泊で殲滅してきましょう。それと、そろそろ外に居るゴッザムさんとアンソニーさんにも加わって貰って、もっと話を詰めた方が良いと思いますが?」
傭兵隊長と副長が知らない作戦なんて有ってはならないのよ。
「今後のこともありますし、私のことも含め、今回の作戦についても共有しておいた方が何かと都合も良いと思います」
何かを納得してような顔でボランさんが私を凝視する。
「確かにおっしゃるとおりですな。これは失礼しました。ちょっとお待ちを」
そう言って、ボランさんが座っている椅子の横に置いてある水晶に手をかざす。
密談用のアイテムか。話が外に漏れないようしていたようだ。
「ゴッザム、アンソニー、中に入っていいぞ」
ボランさんがそう言うと、二人が中に入ってきた。
「話が纏まった。ノノ様はノイシュ・ノーマッド様で間違いなかった。それで、盗賊団のことだが、全面的にノノ様にお任せすることになった。お前達にも情報は共有するが、他には漏らすなよ」
ゴッザムさんとアンソニーさんが私の方を、やや、驚いたように見つめてきた。
んー、そんなに見つめられてもね。
「お二人とも、そんなに見つめられても何も出ませんよ」
「おっと、これは失礼しました。あの祝福といい、ただ者では無いと感じていましたが、納得です。賢者ウェヌス・ノーマッド様のご息女でしたか」
「ご息女!」
「エミリーさん、そこ、そこなの?」
エミリーさんがバツの悪そうな顔をしているけど、この席でその発言はないでしょう。
「まあ、いいでしょう。そのとおりです。ウェヌス・ノーマッドが一人娘、ノイシュ・ノーマッドです。ノイシュ・ノーマッドを縮めて、ノノで通していますので、今後もノノでお願いします」
「分かりました。ではノノ様、うちの商隊長との話し合いで決まった作戦を教えて貰えますか?」
お、私に聞いてきたぞ。そこはボランさんに聞くべきでは?
そう思ったので、ボランさんの方を見る。
「ゴッザム、その話は私からあとでする。商会長からの手紙に書いてあったことは全て事実だそうだ。それに商会長が奥様と結婚された経緯も知っておられた」
え、そこは良いんじゃないの。
「それなら、信用しても大丈夫ですな。ということは、黄領砂漠での話は本当に事実だったんですね」
ん? 何だっけ、黄領砂漠の旅の時に何かあったけ?
「話が見えないんだが?」
エミリーさんが突っ込んだ。私も知らない話っぽいんだけどね。
「いや、黄領砂漠でノノ様から説教を食らって、先代の娘さん、今の奥様と結婚されたという話です。何か凄い剣幕で説教をされて、旅の間中、事あるごとに耳にタコが出来るぐらいだったと聞いています」
ああ、思い出した。どうでもいい痴話喧嘩でウジウジしてたのを叱りつけたんだったわ。
「あ、あれかー、そっかー」
「ノノって、昔から知り合ったらなんか世話してたんだね」
エミリーさんが耳元で囁きかけてきた。今はちょっとそれは置いておこう。
「まあ、それで信用が得られたのであれば、盗賊団のことも任せて貰いますね。商隊の傭兵が動くよりは、目立ちませんし、魔法で目立たないようにすることも得意ですから」
魔法使いとしての本領発揮だよ。
「確かに我らが動くよりは目立ちませんな。作戦はうちの商会長に聞きますが、そのあとで疑念点が生じた際は、ノノ様にお聞きしても?」
「気になることは何でも聞いて下さい」
「ノノ様の実力、は、いいか。あの祝福だけでも十分な実力者と分かるし」
ゴッザムさんは納得いったようだ。いいのか、それで?
「もう随分と遅くなったようですし、話はこれで終わりで良いですか?」
明日のことを考えるとそろそろお開きにしないと拙い。
「そうですな、こちらは商隊長から説明を受けてから疑問点があれば使いを出します」
こうして、商隊長との話し合いは終わった。
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