第88話「30年前の話から、ばれることになるとは……」
「この部分かー」
「ありましたか?」
食事のあと、ルイさんが言ってた部分を探すべく、母様から渡された本をよく読んでみることにした。
確かに書いてはいたけど、かなり後半の部分だったよ。……まだ半分ぐらいしか読み込めてないから、仕方が無いねー。
「あったけど、ここまでしか読み込んでなかったから、分からなかったよ」
私はルイさんにそう言って、該当部分を見せる。
ちなみにエミリーさんは食事が終わって、商隊長達と打ち合わせがあるとかで、ここには居ない。
「……私が見ても良いものでしょうか?」
「別にいいと思うよ。見たからといって、使えるわけでもないからね」
「使えるものではない? やはり司祭様でないと、ですか?」
ああ、そうか、ルイさんは知らないのか。
「この本、いわゆる聖書なんだけど、呪文そのものが載ってるわけでは無いのよ。魔導書は、魔法を使うための本だから、呪文とその説明が書いてあるけど、この本は、その部分は、隠語やアナグラムになってるの。その読み解き方を教わるのが司祭になった時なの。うちの場合は当てはまらないけどね。教会の本は聖書以外も同じ感じでね。ありがたい話の本はみんな何かしらの魔法が隠されていると思って間違いないわ」
そう話しながら、ルイさんに再度、該当部分を見せる。
「……単なる物語のようにしか見えませんね」
「まあ、簡単に分かれば苦労はしないよ。だって、出回ってる聖書での記載は「汝の敵を、その敵意を感じ取れ。さすれば脅威から解き放たれるだろう」だったかな。で、この本だと「その黒き害意を、見つけ出すのだ。私の聖なる力の、そう、私の力の及ぶ範囲において、黒き害意は、その姿を現すだろう」と書いてあるのだけど、この部分にチョイチョイとある法則で魔力を流すとね、呪文が浮かび上がるのよ」
古代神聖語の呪文が浮かび上がって来た。
「あ、何か文字っぽいものが、浮かび上がってきました!」
ルイさんが目を見開いているけど、文字っぽいもの?
「ルイさん、これ、古代神聖語の呪文だからね」
「え、これって古代神聖語なんですか?」
「そうだよ。ルイさんにはうちに戻ったら、その辺もみっちり学んで貰うのから」
そう、みっちり学んで貰う。
「みっちりですかー。……ところでこの呪文は使えそうなんですか?」
ふむ、使えるかどうか、か。
「使えるかどうかといえば、使えるね。ただ、その範囲というか効果の範囲かな、この場合。その範囲が死せるものと魔物に限定されるみたいね」
取り憑かれてるとかなら、生きてても対象かも知れない。
「え、そうなんですか?」
「神の代行者の司祭が神の名の下に使う魔法だから、あながち間違いではないと思うよよ」
まあ、そんなに便利でもないかなー。
「それだと、今回のには使えないですね。……他にも別のページに記載があったりとかは無いのでしょうか?」
他のページ、ねぇ。どうだろう。
「パッと見た感じ、無いような気がする。それにそんなのがあればもっと広まってると思わない?」
「え、そ、そう言われればそうですね。従軍司祭様が使ってないとおかしいです」
そうよね。そんな話聞いたことが無いもんね。
「それが答えじゃない。聖職者が使う分には十分だと思う。あとは魔法使いの領域になるんじゃないかな」
それにしても、この本、早く読まないとダメね。
「ノノ様、不思議に思ってることがあるんですけど、ノノ様、魔導書とかの類いは直ぐに読みますよね。なのに、その聖書は今まで読んでこなかったんですか?」
まあ、そう思うよね。
「これには理由があって、母様から渡されたときに言われたんだけど、正式に司祭としてあとを継がないと、読めないようになってるのよ。仮に手に取れたとしても白紙にしか見えないとも言ってから、母様は試したんだろうね。母様は何でもやってみないと気が済まない人だから、その母様が私にそういうということは、そうなんだろうと納得するしかなったんだけど……。いざ渡されると、読む時間が足らないのよ。結構ややこしい作りになってるから、いちいち検証しないといけないしで、読み込む時間が、ね」
苦笑いして、そう答える。
そんなやり取りをルイさんと話していると、人が来る気配が。
……エミリーさんか。
「ノノ、ちょっといい?」
「おや、エミリーさん、打ち合わせは終わったんですか?」
何か微妙な顔をしている。ん?
「……商隊長が話があるから、というか、ちょっと確認したいことがあるらしく、来て欲しいそうよ。……どうする?」
来て欲しい? このタイミングで?
「このタイミングで、ですか?」
「そう、どうやら本店から手紙が届いて、その中にあなた絡みの記載があったようなの。 で、その確認がしたいと言われてるわ。勿論、あなたはうちが契約しているから、気が進まなければ、断っても構わないわよ。で、どうする?」
ふうむ、意図が分からないなー。
「意図が分からないですが、行くことは構わないですよ。エミリーさんの立場も理解してますから」
断ってもいいは、ホントは断っては欲しくない。確認しに来たと言うことはそういうことだ。
「ルイさん、先に寝ててください。勿論、日課をこなしてからですけど」
そう言うと、ルイさんは苦笑いしながら頷いていた。
「エミリーさん、行きましょうか」
「ノノ、助かる。断ってもよかったんだけど、それだと相手の心証が、ね」
まあ、隠すことも無いし。
エミリーさんと一緒に商隊長のテントの前まで来た。
テントの前には傭兵隊副長のアンソーさんと、他に隊員がもう一人、立って待っていた。
「エミリー殿、ノノ様、ご足労ありがとうございます。……隊長、エミリー殿とノノ様が来られました」
アンソニーさんが中に居るであろうゴッザムさんとボランさんに呼びかける。
すると、ゴッザムさんがテントの入り口を開けて、出てきた。
「ノノ様、ご足労ありがとうございます。さぁ、中へ。エミリー殿もどうぞ」
ゴッザムさんに案内されて、テントの中に入ると、商隊長のボランさんが立って出迎えてくれた。
「ノノ様、呼び出しに応じていただきありがとうございます」
そう言って、入って真ん中にある、簡易な商談用の机の椅子から立ち上がって、出迎えてくれた。
「ご丁寧にありがとうございます。御用がおありとのことですが、何かありましたか?」
挨拶もそこそこに、本題を促す。用件は早く済ませたいのよ。
「まずは、そちらへお掛けください」
ボランさんの真向かいへ座るように促される。
「ノノ様、お掛けください」
エミリーさんからも座るように勧められる。……まあ、座るけどね。
「時間も時間ですから、明日のこともありますので、早速用件に入らせていただきます」
そう、夕飯後で明日も早い。時間も無いのに呼び出しを掛けるというのは何かあったのかなと思っても仕方が無いよね。
「それで、ご用件とは?」
「ノノ様、つかぬ事をお伺いしますが、30年ほど前に黄領砂漠を越える商隊に居られませんでしたか?」
ん? 何だ? 30年前?
「ボラン殿、話の流れが見えぬが、それは今回の用務に関係があるのか?」
エミリーさんが横から問いただすように口を開いた。
「紅蓮の魔導師殿が疑問に思われるのも仕方が無いが、この先、国境を越えた先での盗賊団の動きについて、昨日、情報共有しただろう、その盗賊団絡みでの話だ」
ふうむ、あの話か。だとしても私に関係は無いような?
「確かに共有いただいたが、ノノ様にはというか、今の話、関係がないのでは?」
そうそう、30年前の話と、盗賊の話は繋がらないよね?
「そう、私も商会長から魔導鳩の連絡が無ければ、ノノ様をお呼びすることも無かったのだが、商会長へ今回の護衛任務に紅蓮の魔導師殿が居ることと、従軍司祭としてノノ様が居られることを報告したのだが、その返信が届いてな。その中にノノ様のことに触れた部分があってな、その確認と、もし、その情報が確かなら、お願いしたいことがあり、お呼びすることにしたのだ」
「なるほど、確かに護衛任務にどこの傭兵を雇ったかを報告する必要はあるか。しかも司祭様が居るとなるとそこは報告することになるか」
エミリーさんは納得したようだ。まあ、確かに私が知ってる頃とは違って、この行軍以外では、司祭は同行しないみたいだしね。
「そう、見た目も含めて報告したのだ。何せ、偽られては堪ったものでは無いからな」
「それも分かるな。実際、実力を見て貰えれば、その疑念は晴れたと思うが」
そうだね、祝福だけでもオーバーっぽいからね。
「そう、疑念は晴れたが、こちらからの報告はその前に出していたものでな、今回、商会長直筆の返信も入っておってな、そこには今の商会長が30年前の黄領砂漠横断時にノノ様によく似た魔導師にかなり助けて貰ったと。そしてそのお名前が、ノイシュ・ノーマッド様、賢者ウェヌス・ノーマッド様が一人娘であったと。さらに王都では、現在、ウェヌス・ノーマッド様の代わりにノイシュ・ノーマッド様が勇者一行の魔導師候補として来られるとの話が流れていると」
ああ、なるほど、確定しに来たね。
「ボラン殿、貴殿はノノ様がそのノイシュ・ノーマッド様ではないかと、そう言いたいわけですか」
エミリーさんはこういう時に速攻で突っ込んでいく。私の雇用主は、残月なので、私の盾になってくれている。ここで芋を引くと舐められるというのもあるし。こういうところは上手いと思う。
「紅蓮の魔導師殿はノノ様のことはどこまでご存じなのか、それも確認したい。こちらとしても雇用主として、実際の戦力を見極めたいのだ。隠し事は無しで願いたい」
特に隠しては無いんですけどね、言ってないだけで。
「ノノ様」
エミリーさんが私の方を見る。どう答えるか、目で確認するように見ている。
「ふう、そうでしたか。ヘルマン商会のバルバラさん、商会長になったんですね」
目線を下にしながら、そう答える。
「商才豊かな人でしたからね。でも、商会長とは……、あ、そう言えば、商会長の娘さんと一緒になれたんですね。あの才能を手放すことは無かったと言うことか」
エミリーさんはやれやれという風に、ボランさんは目を見張っている。
「すると、あなた様はやはり……」
「そのとおりです。ノイシュ・ノーマッドが本当の名前です。ですが、ノノも嘘では無いですよ。ノイシュ・ノーマッド、それは長いので縮めているだけですからね」
この場に居る、私以外は、何故か苦笑いしている。
「ボランさん、エミリーさんから話は聞いています。ボランさんは盗賊団が国境警備隊の一部と癒着してると踏んでいて、その証拠を何とか手に入れ、襲われる前に殲滅したいと」
「いや、殲滅までは。ただ、情報が漏れているなら、そこをなんとかして、次の町まで無事に辿り着けないかと。こちらで掴んでいる情報では、盗賊団は結構な人数らしく、どうやっても襲われることは確実なので、そこを避ける方法は無いかと、相談を持ちかけたのです」
殲滅は考えてない、まあ、人数が多いと多方面から一斉に襲ってこれるから、対処が出来ないもんね。
「ボランさんの考えどおり、人数が多いと多方面から襲ってこれますからね。しかも人間は魔物と違って、ずる賢い。やっかいな存在ですものね」
ボランさんは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「そこなんです。内通者は確実にいるでしょう。多少の人数なら何とか出来るとは思うのですが、何せ、乗合馬車も同行している。……人質にでもされたら、こちらとしては打つ手がない。賊の規模が聞いてるとおりだと、乗合馬車までは手が回りそうにないのです」
まあ、思ったとおりの回答かな。
「エミリーさん、こちらで検討したことを話していい?」
「ノノ様がそれでよろしければ。既に正体もバラしてますし」
エミリーさんが苦笑いをしながら答えてくれた。
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