第87話「国境前」
「それで、どうなんです?」
私たちはあの後すぐ野営となった。
「ん、賊のこと?」
「それ以外に何があるんですか?」
私と、エミリーさん、ルイさんで話しながら、夕食の鍋をつついている。
「国境から向こう側で野盗が出るというのは確定情報だったわ。商隊から情報収集目的で国境まで人を出してたんだけど、出した人たちが戻ってきたのよ。それで、さっきの呼び出しだったのよ。丁度、離れたときに戻ってきたらしくてね。何とも間の悪い話よ」
なるほど。さっき、グラインさんが来たのはそれでか。
「ところでノノはさ、人って殺したことあるの?」
「ん?」
急になんだろう。……隣のルイさんが固まったよ?
「あるの?」
「野盗?」
「そそ。どうも規模が大きいようでね、あなた達の方まで手が回らない場合もあるかもと思ってね」
規模が大きいって、この商隊もそれなりですよ?
「エミリーさん、それはもう、野盗では無く、盗賊団ですよね?」
「私からしたらどっちも関係ないわよ。見つけたら燃やすだけだからね。ただ、国が違うから勝っては出来ないでしょう。国境からこっちは、私たちでがサクッと行けるんだけど、国境を跨ぐとそうは行かない。商隊護衛だし、向こうから来た分を片付けることにはなるんだけど、場合によっては、ノノとルイさんまで手が回らないんじゃないこともあるかなと思うわけよ。襲われたら直ぐに商隊の中央に移動して貰うことになるとは思うけど」
ああ、そう言うことか。もしもの時の戦力としてか。
「それで、殺したことはあるか、ということですか」
「まあね。商隊の直近まで来られるようなヘマはしないと思うけど、一応ね」
「ありますよ。それも両手の数どころか、数え切れないぐらい」
エミリーさんは、ちょっとホッとしている。ルイさんは「えっ?」てなってるけどね。
「あ、やっぱりあるんだ。魔法で?」
「どっちもですね。魔法使いは近接苦手と思って、突っ込んでくるのが居るじゃないですか。その時は、刀でバッサリですね」
「え、魔法使うときって、杖とかじゃないの?」
まあ、普通はそう。
「今、使ってるのは、ただの杖ですが、こういうときに使ってたのは、この仕込み杖なので、普通に切り捨ててましたね」
そう言って、普段使ってた仕込み杖を見せる。
「これをこう引くとですね、ほら」
「魔法使いが持ってるものじゃないわねー」
エミリーさんは、やれやれといった感じだ。
「でも、今回はこれ使ってないわよね」
確かに使ってない。必要ないしね。
「もう何年も使ってないですよ。混戦になるような場面に遭遇するようなところには行かないですしね。魔物はそこまで賢くは無いですし」
魔物は何というか、頭がそこまで良くないんだろうね。
「ん?」
何か、おかしいぞ?
「エミリーさん、そこまで警戒する必要があるんですか?」
「んー、何というかね、向こうの商隊長も歯切れが悪いのよ。こう、何というか、奥歯にものが挟まったような感じ?」
横を見ると、ルイさんの頭上には、はてなが浮かんでいるように見える。
「ノノ様、今の会話でなにかあるんですか?」
ルイさんはこういった経験が少ないから仕方が無いか。
「今、エミリーさんは人を殺めたことがあるかを聞いてきたでしょう。それって、近々、そういった事態があるということだよ。そのあと、魔法かそうじゃないかということも聞いてたでしょう。これは実際体験からだけど、魔法だと遠方からだから、あまり人を殺したという感覚は湧かない。けどね、近接戦闘はそうじゃない。実際に肉を切るからね。まあ、それは置いておいて、誰でも知ってることだけど、魔法使いは近接戦が得意じゃないから、詠唱の隙に近接に持ち込もうとするのよ。魔法というのは便利なようで、急な攻撃とか近接から攻撃に対しては不得手でしょう。エミリーさんは私は剣も使えることを知ってるから、近接での戦闘経験、それも対人での殺傷経験を知りたいと。そういうことで合ってますよね?」
最後はエミリーさんに対しての問いかけだ。
「そのとおりよ。ノノにはルイさんの護衛をお願い。商隊長からの話だとね、どうやら傭兵崩れで、結構手練れらしいのよ。やり方も商品を渡せば見逃す、そうで無ければ皆殺しにして奪う、それも女子供容赦なく殺すらしいのよ」
「え、女子供は、上手くすれば売れるんじゃ?」
そう、真っ当な方法で無ければ、それなりに売れるハズ。なのに何故?
「それに関しては憶測だけど、売るルートが無いからじゃないかと言っていたわ。売るルートが無ければ慰み者にしても維持に食料が必要になるし、場所もいるでしょう。それにイザというときの足かせにもなりかねない。売れない商品ほど無駄なのはないからね」
売るルートがないかー。国が混乱してるからかな。
「彼らの目的はこの混乱に乗じて、稼げるものを集めて、他所で悠々自適に過ごすことじゃないかと言ってたけど、どうだろうね?」
「んー、でも、その盗んだものは売れるんですかね?」
どこで売るか、何だよねー。
「今はどこもいろんなものが不足気味だから、何とでもなるわよ」
まあ、何とかなる算段がないとやらないか。
「ところで、討伐とかは出来ないんですか?」
流石に討伐の軍は出てるだろう。……出てるよね?
「それがねー、情報が賊側にダダ漏れらしくて、うまく逃げられてるし、国境を通過した商隊や商人のことも賊に流れてるらしいのよ。うちの領なら……」
やや、悔しそうに、最後はつぶやいた。
「それにしても内通者がいるというのは、ちょっといただけないですね」
「商隊長も、そこが問題だと言ってたわ。必ず襲われると考えているようで、国境を抜けるまでに何か良い方法は無いかと、相談も持ちかけられたのよ」
襲ってくるのが分かってるんなら、その数が分かれば何とかなりそうなんだけど、どうなんだろう?
「襲ってくる数は分かってるんですよね?」
「それが、毎回、違うらしくてね。最大で考えると流石にどうしようも無いという結論になっていたわ」
……一体、どれほど居るんだよ?
「それに囲まれたら、流石に私たちも只では済まないでしょうしね」
多方面から一度に来られると、流石に厳しいかな。探知魔法で、方向が分かっても……。
ん? 内通者を特定できれば、なんとか出来なくは無いんじゃ?
「エミリーさん、内通者を特定できれば、何とか出来ませんか?」
「ノノ、何か思いついたの?」
「私の探知魔法で、怪しい動きをする人が居れば分かると思うんですよ。それでのその人を追うこと出来れば、あるいは……」
そう、対象が限られるなら、ひょっとするとなんとか出来るかな?
「検討の余地はありそうね。あとで商隊長らに相談してみるわ。……でも、待って。それだと、あなたが探知魔法を使えるという前提で話を進める必要があるわ。司祭様が探知魔法?と疑われない? それに必ず成功するという保証はないよね」
「確かにそれはそうですね……」
んー、方法はあるけど、絶対に確定出来るわけでもないからなー。
「ノノ様、教会の魔法で魔物を探知する魔法があるじゃないですか。昔、うちの領で、司祭様が使われてたんですが、あれの応用と言えば良いのでないでしょうか?」
そんな魔法、あったけ?
「確か、私が教会でそんなことがあったと話したことがあるんですが、その時に「その魔法は司祭以上だけが使える魔法だ」と言われました。ついでに好奇心から、対象は魔物だけですかとも聞きましたが、それは答えられない。けど、司祭に成れれば分かることだよ、とも言われました」
それって、使えると言ってるようなものじゃない!
「ノノ、ちょっと、あなたちゃんとあなたのお母様から頂いたという本を読んでるの?」
エミリーさんからジト目で見られた。うう、読んでるよ。まだ読み終わってないけど。
えらいところに飛び火したよ……。
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