表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

俺、初春

久しぶりに訪ねた街は、魔王討伐の話題で持ち切りだった。

え、なんで?

なんと首都から、お偉い聖女様まで喚ぶらしい。

ジローマルが、なんかやらかしたのかと思ったが、本人は必死で否定していた。

さっき、試作のイチゴを届けてやったのだ。

まあ、あいつは腹黒くなれるほど器用な奴ではあるまい。


「やっと兄ちゃんの野菜がまた食べられるねえ」


市場では、大歓迎を受けた。

俺が噂の魔王だとは、知れ渡ってはいない様子だ。

勇者には、俺の「野菜作り」云々については、伏せておいてもらっている。

そんな呼び名が知れ渡ったら、今の俺なんて、あからさまに怪しいからだ。


「いま、色々な種を試してるんだけどさ、これ、ちょっと食って見てよ」

「いい匂いがするねえ、何だい、これは」

「イチゴって言ってね、赤くて甘いけど、これでも野菜なのさ」


早速、総菜屋のおばちゃんに、イチゴと春野菜を届けてやった。

青物が普通に出回るにはまだちょっとだけ季節が早いので、こんな物でも貴重品となる。

まだ寒さは残るが、俺の農場にはちょっとした設備があったりするのだ。

そしてだ、自慢の野菜を最初に託すのは、 俺の行動範囲に限った話では最高 の料理人で、かつ、大勢の人に食べてもらえる環境を持つ、このおばちゃんでなくてはならない。

あと、二十日大根の鉢を差し出した。


「これね、半月ほどで食える根菜でね。小さいから薬味にいいよ。気に入ったら種もあげるから試して見てよ」


おばちゃんの料理に決定的に欠けているものは、薬味と香辛料だ。

無しでも充分に美味しいのだが、やはりもう少しアクセントが欲しい所だ。

今の所、種子系の作物は開発不振だが、草の類なら比較的練り易い。

ただし、自然界において風味の強い植物には、有毒の品種が多い。

俺なら多少の毒もちょっとしたエッセンスで済むが、そのまま市場に流したら、俺は大量殺人鬼の真性魔王になってしまう。

二十日大根なら、飾って良し、漬けて良し、生でも煮ても美味しく食えるし、刻めば葉も根も、風味ある薬味にできる。

その点、おばちゃんとのレシピすり合わせにも余念はない。


今、葱類を開発中だが、基にした植物が結構な毒草なので、苦戦している。


「ところで、魔王討伐ってどうなってるか知ってる?」


直球で、聞いてみた。


「ああ、あれね。何だか魔王が支配を広げているらしくてねえ。」

「支配?」

「何でも、館の周囲から汚染が広がっているんだってさ」


もしや、農場の事か?


「死神みたいに、でっかい鎌を振り回して人を襲うんだってさ」


ああ、あれ。

杖じゃあ何だか年寄り臭い気がして、最近持ち変えたお気に入りの得物だ。

鍬でも良かったのだが、こっちの方が圧倒的に格好良かった。

でも、人なんか襲ってはいない。


「でもね、近くを通った人から聞いたんだけど、あのペンペン草も生えない土地が、見事な緑に変わってたらしいんだよ。」

「へええ」


しらを切りつつ、罪悪感で一杯になってしまう。

おばちゃんには、嘘をつきたくないんだよなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ