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聖女様

首都テイエンから招聘されてきた聖女様は、さすがに王城下の神殿に帰属するだけあって、若くして(※魔法使い基準)才能に開花し、昇華した逸材である。

なにしろ、まだ四十路にも至っていないというのに、国内最高峰の神殿に召し抱えられているのだ。


ちなみに、今どきの三十路女は、素材さえ良ければ十分「有り」だ。

ただ単に、魔法使いになってしまう連中にはそもそも魅力ある異性として関係が成立するに至るだけの素養が、主に外見上、さらには性質上、著しく欠落している事例が多いというだけで、別に、全てにおいて魅力がありえないという訳ではない。


この聖女様はといえば、とりたてて美しくはないが、知的で、わりと好感が持てる姿と雰囲気の女性だ。


「好感が持てる」というのは聖女の様相に限っての話、実に、特筆するに値する奇跡である。

聖女になるまでの人生と、それ以降のちやほやされ放題の待遇は、その落差の激しさ故に性格的な歪みを生む事が多いのだ。


聖ナナツ様は、36歳。


適齢期にはほど遠く、巷においては、すでに孫の1人2人はいてもおかしくはない年齢である。

だが神殿での、恵まれつつも程よく簡素な、直射日光にも無縁な規則正しい生活は、女性の、殊に家事・出産・育児の荒波に揉まれずに済んだ女性の美容においては、最良の保全環境となる。

そのおかげで、老嬢の殿堂とはいえ神殿の聖女達は、概ね長寿で、美醜を問いさえしなければ、たいてい年齢の割に瑞々しい。


その点魔法使いたる男は、危険な任務を押し付けられて何かと酷使されるため、荒みがちだし、押並べて短命だ。


ところで、俺は30歳+α。

そのαが数年なのか数百年なのかは不明だが、感覚的には、ナナツ様は極めて近い年齢の異性と言える。

それだけの事でも、つい、ちょっと意識してしまうのは、男の性だ。

恋愛経験は皆無だが、妄想することにかけては一過言持つ俺である。

ナナツ様がもうちょっと劇的な美女ならば、小説の10万字くらいは書けるレベルだ。

だが、相手は聖女様。

魔王の俺を討伐するためにこの街に来た、勇者殿の後援者なのだ。

若干の美化を加味して色々と念入りに妄想してしまったが、はっきりと、俺は彼女にそぐわない。

いや、そぐうもそぐわないも、単にチラ見した俺が妄想に励んだだけで、ナナツ様は俺の事なんか知りもしないのだがね。

魔王サブロータの存在は知っていて当然ではあるが、それは単なる「殲滅対象への知識」という名の認識だけなのだ。


ひっそりと群衆の波から抜け出しつつ、俺は過去の記憶をまさぐってみた。

先ほどから、ちょっとばかり引っ掛かる事があったのだ。


かつての俺は、確かに色々と艶っぽい妄想を逞しくしていたはずなのに、どうも、その憧れの人々の面影が、全く脳裏に蘇って来ないのだ。

そういえば、ほとんど他人に会った事もなかった俺が憧れるような人って、誰だ?

そもそもそいつら、人間なのか?


ほんと、俺って謎だらけだな。

魔王サブロータとは何者かって?


そんなもん、俺だって知りたいわ!




何者か、と引っ張ってますが、別に何者でもありません……

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