はじめての探索
岩山には、いつからか魔王が住み着いていた。
姿も見せず、声も聞かない。
だが、そいつの望むまま、街からは様々な物が消え去った。
例えば、食卓から夕餉が消え、酒の樽は、どんなにきつく栓をしても、いつのまにやら空になる。
そういった事件も、当初は意味不明の怪奇現象として、ただ恐れられていた。
やがて、この岩山の異変が噂に上り、さらには神殿の宮司が祈りの糸でついに探り当てたそれらの行方が、件の魔王の城だった。
見れば、少し前に消えた領主館の物見塔は、今や魔王の城にきっちりと張り付いているし。
道無き道を、難儀しながら丸三日間の行程だった。
この岩山に何かが見えるという噂は、以前から囁かれてはいた。
だが、わざわざ来てみるには余りにも僻地に過ぎて、噂止まりに治まっていた。
異変が起きたのは二ヶ月前だ。
件の塔が、領主館から消えた。
そして程なく、石切場の連中が、この岩山のちょっとした変化に気がついた。
俄には信じ難く、且つ、有り得ない事ではあった。
街中にあったはずの塔が、遥か岩山のてっぺんに移動するわけが無い。
だが、もしそれが本当ならば、由々しき事態だ。
そんな事ができるとすれば、それは想像を絶する大魔法。
つまりは、魔王級の魔法使いが現れた事を示す。
それで、この度の探索と相成ったのであるが、当然ながら魔王と対峙する度胸などあるはずもなく、谷をひとつ隔てた場所から、それでもしっかりと、その醜怪な城を見て取った。
魔王の姿には、まだ誰もまみえてはいない。
遠い窓の内に、ちらりと黒い髪が見えたようにも思うが、何分にもこの距離だ。
だが、こんな場所に城があり、ましてや消えた塔がそこに張り付いているともなれば、もう疑う余地はない。
未知の魔王が、街を侵しつつあるのだ。
「ウェモンさん、烏達がこっちに来ますよ!」
「うむ、引き上げるか」
男達の
足取りは、重かった。
魔王誕生、この言葉の重さは、計り知れない。
前にこの災厄に見舞われたのは、二百年ばかり前の事。
当然ながら当時を知るものはいないが、その爪痕は深い。
魔王は、育つ。
幸い、まだ孤独で矮小な内に見つける事ができたこの災厄を、放っておくわけにはいかない。
討伐は、必須であった。




