<2>椅子人のくせに!
伊代は死を確信した。迫り来る鈍器。回避が間に合うはずもない。完全に油断した。
どうやら自分はここまでらしい。即死だと逃げようがないから困る。
どうにか意識を保てれば、この身体が死ぬ前に逃げることもできるのだが。
どん、という衝撃が身体に走る。
伊代の体勢が崩れ、地に倒れた。しかし覚悟したほどの衝撃ではなかった。どうやら肩を押されたようで、衝撃の正体は鈍器、鉄パイプのものではなかった。
想定外の連続に目を白黒させながらも、伊代は現場を視界に捉えた。そこに居たのは伊代を突き飛ばした犯人、星野の姿。どうやら間一髪のところで突き飛ばされ事なきことを得たらしい。
「油断なんて、らしくないですね?」
「……悪かったな」
星野はゆっくりと男に向き合うと、どこからともなく刀を取り出した。これも神話的事象とかいうやつだろうか。少なくとも、物理的には有り得ないことなのは間違いない。
「死ね!死ね死ね死ね死ねえええええ!!」
男は狂乱しつつ目の前に立ち塞がる星野に向かって突進した。星野は刀を構え、鞘から抜かずにそのまま応戦する。なるべく攻撃は避け、当たりそうなものは刀で受け流していく。
しかしどうも星野には荷が重い。相手は狂人と言えども大柄寄りの男。細身の星野としては辛いところ。何しろ殺さないようにしているというのもある。段々と星野が不利になっていく。伊代が助太刀しようにも、このままでは星野ごと電撃に巻き込んでしまうし、実弾は流石にまずい。
そしてついに壁付近まで星野は追い詰められてしまう。
「ちょこまかと鬱陶しい女だったが……これで終わりだなぁ!?」
男がまるで、網にかかった魚を取るようにゆっくりと星野に近づいていく。星野が後ずさるもすぐ後ろには壁であり、これ以上下がることができない。
星野はため息をこぼしつつ、これ以上の手の施しようがないことを理解し、鞘から刀を引き抜いた。戦場と化した路地の風景が刀身に反射して見えた。
「あんまりやりたくはないんですけど……ごめんなさい」
星野は一歩踏み込み、弧を描くような挙動で懐へ刀を滑り込ませた。
その瞬間、男の腹部が裂け、鮮血が飛び散った……と思われた。しかし現実は違った。
__飛び散ったの血ではなく、蜘蛛だ。
裂けた腹部の奥で何かが蠢めく。それは臓物などではない、白い塊だった。ぶくり、とソレが脈打つ。次の瞬間、ソレは崩れた。いや崩れたのではない、無数の蜘蛛が一斉にほどけたのだ。
傷口から出てきたのは……白い、蜘蛛。星野が切ったそこからわらわらと飛び出ていく。かさ、かさかさと重なる足音が路地中に響き渡る。蜘蛛自体の大きさはそこまでのものの、数が圧倒的に多い。数匹や数十匹の程度ではない、数百ともいえる、まるで無限ともいえるような数。
そんな気が遠くなりそうな数の蜘蛛たちが、男の腹から流れ出ていき、あっという間に狭い路地は蜘蛛で埋まってしまった。もちろん星野や伊代の足元は、踏み場もないほどの蜘蛛で覆い尽くされていた。
「あ、ああ、あああああああ!!」
男は苦しみ悶え叫び散らし、蜘蛛でできた床の上でのたうち回る。
男はまだ叫んでいた。
助けを求めるように手を伸ばしていた。
最早傷口だけでなく、舵を切ったようにその口からも白い蜘蛛が這い出してくる。
喉の奥から、歯の隙間から、涙で濡れた目尻から。
それでも男は叫び続けていた。
蜘蛛が喉から溢れようと、口の中が蜘蛛で敷き詰められていようとも。
それでも叫びは響いていた。
しかししばらくすると男はピクリとも動かなくなり、声も止まってしまった。それでも蜘蛛は止まらなかった。男の身体はとうに空になっていてもおかしくはないのに。一体どれ程の蜘蛛が男の中にいたのだろう。
やがて蜘蛛たちは散り散りになって路地から消えていった。呆然とその様子を見つめることしか、伊代はできなかった。
「……は」
伊代がようやく声を絞り出した時には、すっかり路地から蜘蛛の姿がなくなっていた。
まだ昼を過ぎた頃の、ただの路地。ゴミ溜めの中身が散乱し、穴が空いたボロボロの衣服が地面に転がっている、ただの路地だ。
星野はというと、側溝に鞘を突っ込み、何かを確認している素振りを見せている。しかし伊代の処理が落ち着いたのを感じ取ると伊代の方へ向き直した。
「……見て、分からなかったんですー?蜘蛛ですよ、すぱいだー」
「そんなことはわかってる!!」
「まあ冗談を言ってる場合でもないですしねー?いいでしょういいでしょう、お教えしますともー!」
星野は側溝から鞘を引抜き、先についたものを伊代に見せる。そこにべちょりとついていたものは、先ほど男の身体から幾度となく出てきていた白い蜘蛛であった。
「こいつらは正確には蜘蛛ではなくて……邪神の落とし子なんですよね」
「……え」
「まあきっかけとかはよくわかりませんけど、たぶん出会っちゃったんじゃないですか?……迷宮の神にでも」
「……つまりどういうことだ」
「んー、こいつらは雛なんですよ。恐らく邪神と出会ってしまい植え付けられたのかと。それでたまたま私がこうやっちゃった時にぶちまけてしまった……と」
「あー、つまりそもそも雛とやらが植え付けられていて限界だったと?」
「そうそう、その影響で正気も保てなくなったんでしょーね」
「まあ当たり前ではあるな……」
「急に冷静になるじゃないですかー!?とゆーか伊代ならギリ知ってそうなラインかなーとも思ったんですけどね」
「僕はそういう知識に詳しい訳じゃない!!知っているだろ」
「はいはーい」
「『はい』は一回でいい。全くこれだから……」
「んもうなんですー!?私がいなかったらやばかったでしょー!?まあ?私にかかれば奥の手も何も出してないんで?余裕ですけど?」
星野は胸を張って言い放つ。つい数分前、人間の腹から蜘蛛が溢れ出るという悪夢のような光景を目にしたばかりだというのに、星野は普段と何一つ変わらない。
思わず声を荒らげてから、伊代は小さく舌打ちした。目の前にいるのはミ=ゴ。人類史の裏側を知るような存在だ。そのくせやっていることは小学生じみた悪口の応酬である。全くもって締まらない。ある意味では頼もしいのかもしれないが、伊代としては複雑である。
「うるさいですね、僕はどっかのゴ=ミさんとは違って技術をひけらかすようなことはしないんですよ」
「だから誰がゴミですってー!?まあ紙とペンで記録しとくようなアナログ椅子人さんには、私らの気持ちなんてわからないかもしれないですねー?」
「はぁ!?誰が椅子人だって!?」
伊代惟栖の正体はイス人である。
◆
偉大なるイスの種族。彼らの特徴はなんと言っても、他の生物と精神を交換することができる“精神転移”だ。憑依した種族の身体を纏っているに過ぎないため、本体は精神生命体であり、実態はない。そしてこの交換は時空間を超越することができ、過去未来の生物とも行うことができる。実質的に時間旅行が可能であり、偉大とも言える所以である。時間を越えようものならティンダロスの猟犬に目をつけられてしまうが、彼らには何故か気づかれないようだ。
元はイスという惑星に存在していたが、星が滅亡してしまったため精神転移による逃亡……もとい移民により生きながらえることに成功。そんな彼らは論理的で争いを好まない傾向があり、武器なども少ない。唯一の火器といえば五千万年前に彼らを困らせた、対飛行するポリプ用の電撃銃ぐらいしかない。
そんな彼らは今日も今日とて過去か未来、はたまた現代で精神転移により知識を蓄えている__
◆
「怪我はないですー?」
「お陰様で。助かりましたよ」
伊代は軽く服を払いながら答える。あの蜘蛛のようなものは病気などは運んでいるのだろうか。そうとしたら最悪過ぎるだろうと、つい悪い方向に考えてしまう頭をどうにか振り払う。
「それでー?私になにか言うことありますよねー?」
「……どうも、ありがとうございます」
「わお、意外と素直で星野さんびっくり」
「悪かったですね……!?」
「そうだ、時に伊代くん。付き合って欲しいことがあるんですけどー、当然ついてきてくれますよねー?」
「嫌な予感しかしないんですけど」
「いやまさかねぇ?命の恩人であろう私の誘いを断るわけもないですよねー?」
「……聞くだけ聞きましょうか」
「私と……かき氷を食べませんー!?」
ー
四月五月と春の行楽シーズン。どこもかしこも人で賑わっていることだろう。星野は気持ち早歩きで駅ナカを移動していた。自分ならどうにかなるだろうと、前日の準備を怠った結果である。人混みに揉まれながらもどうにか改札口へとたどり着く。きょろきょろと辺りを見回し目的の人物を探すと、少しだけ駅から離れた木陰に、その人は佇んでいた。
白のワイシャツに深緑のニットベスト、 首元には不器用ながらも赤の紐リボンが結ばれている。そしてジーンズにスニーカーとシンプルながらも彼……伊代にはよく似合っている服装だった。人混みから少し離れた場所で本を片手に立つその姿は、相変わらず真面目そうで、そして妙に目立つ。警察官の制服を着ていないというのに、何故か周囲よりもきっちりして見えるのだから不思議なものだ。今日も五分前どころか十五分前には来ていたのだろう、律儀なやつである。
星野の姿に気がつくと、伊代は読んでいた本から顔を上げる。ちらりと本の方を目にやると、『サラサーテの盤』と書かれていた。まーた変な本でも読んでんな、と少し呆れる星野。
「おはよーございます!相変わらず来るのが早いんですね」
「早いも何も、もう時間ですけど?」
「すんでの所で遅刻するとこでしたよー!もー危ない危ない」
「はいはい、それで?なんで急に呼びつけて……」
「よし!じゃあ行きますよー!多分こっちです!」
「おい!!」
星野は伊代の問いに答えもせず、一直線に歩き出した。伊代も慌てて後に続く。絶妙に歩幅の合わない階段や、やけに狭い歩道をくぐり抜け歩くことはや数分。段々と人通りが少なくなり、余裕を持って歩けるようになってきた。そんな中二人の間では他愛ない会話が展開されていた。
「__ですから私は悪くなくてですねー?」
「うんうん、それはお前が悪いな」
「えー!?んもー相変わらず手厳しいんですからー!」
「はいはい……そういえば、何故かき氷を?」
「いやー、かき氷が食べたいなーと思いまして!」
「いや季節感どうなってんです?」
春なのにかき氷。時期尚早なものではないか。そうは思わずにはいられない伊代であった。そう問うと星野は、その質問を待ってましたと言わんばかりに伊代に向かって身を乗り出す。
「わかってないですね伊代くんはー!あんことか練乳いちごとかかかってるお高めのが食べてみたかったんですよー!季節なんて二の次ですってー 」
「は、はあ……?」
「そ、れ、に!……っと着きましたよー!」
星野が指さすその方向には、どこかこじんまりとした個人経営らしき喫茶店があった。外装はどこか西洋を感じるタイル調であり、敷地内には自転車を止めるスペースの他にテラスがあった。その横には花壇が作られており、茜色の薔薇が咲き乱れていた。とにかく人気で人で溢れている、と言うよりは近所の人に愛されているという印象を受ける。
星野が半自動ドアのボタンを押し込み、嬉々として入店するのに伊代も続く。すぐに店員が二人を出迎えた。店員は慣れていないのか、危なっかしい足取りでこちらまで来ると声をかけつつ席へ案内した。
「いらっしゃいませぇ!えっと……な、何名様ですかぁ?」
「二人ですー!」
「二名様ですねぇ!それでしたらこちらに……わ、わぁ!?」
店員が踵を返すと背後にあったまだ数個しか書かれていない記名台にぶち当たり、ばたん!盛大な音を立てて倒れた。
「あわわわ……ご、ごめんなさいぃ……!」
「私らは大丈夫ですけど……そ、そちらはー?」
「私も平気ですのでぇ……!」
「いや、ここー!擦りむいちゃってますよー!」
店員の右膝を星野が指さす。確かにそこは擦り切れて血が滲んでいた。星野が横に手を出すと、伊代は少し呆れながらその手に鞄から取り出した絆創膏を置いた。
「これ使ってくださいー!」
「えぇ、そんなぁ、悪いですよぉ……」
「水でよく洗ってから貼ってくださいねー!」
流石は医大生、いや流石はミ=ゴと言うべきか、適切な処置には詳しいらしい。そんなこんなで一悶着ありつつも、二人は一番奥のふたりがけの席に通された。
店内は木目調の落ち着いた雰囲気で、クラシックに似た曲が流れていた。一足先に席には氷の入ったグラスと水のボトル、そしておしぼりが置いてあった。席に着くと星野はバインダーに挟まれたメニューの紙の束を次々にめくり、注文するものを見定め始めた。伊代はそれをため息混じりに眺めつつ、二人分の水を注いだ。
「決まりましたか?」
「うーーーん、タイム!タイムです!あと少し!」
「小学生ですかあなた?」
星野の前に水を入れたグラスを置き、悩んでいる様子でも眺めることにした伊代。うーん、と唸り、首を傾げる度に頭の髪がふわふわと揺れている。興味深いと同時にどこか……
「何ですー?そんなじっと見てー?」
「な、なんでもない!それで、決まりました?」
「はーい!お待たせしましたねー!」
「じゃあ次僕が……」
「すみません店員さーん!」
「おおい!?」
伊代の意見も虚しく、先程と同じ店員が注文を取りにやってきた、足元を気をつけながら。
「ちょっとまだ僕は……」
「大丈夫です!好きそうなの頼んといてあげますからー!」
「え、えぇ……」
「えっとぉ……?」
「気にしないでくださいー!これと、これと、あと……」
星野は店員にバインダーを見せ、指さしながら注文をした。聞き漏らさないよう店員が一生懸命注文用紙に書き留める。やがて用紙とにらめっこをしながら店員はその場を後にして行った。バインダーをテーブルの隅に立てかけ、水のグラスを手に取りぐいっと半分ほど飲み干す星野。
「ぷはー!これがないとやってられないですねー!」
「酒みたいに言わないでもらえます?あと、少しいいですか?」
「えー?なんですー?あ、注文なら届くまでのお楽しみで……」
「別にいいですよそこは!」
「じゃあどうかしたんですかー?」
「どうしたって……この間のことですよ」
「へ?」
「ほら、あの……蜘蛛の」
「あー……てか食事前なんですけどー!?」
「あなたも同じようなもんでしょうよ擬似虫菌類さん」
「まあそうですねー」
「認めるのかよ……そうじゃなくてだな!あんなのがうようよといたら困るんだが」
「いや私にクレーム付けられても……犯人私じゃないんですけどー!?」
「いやそれはそうなんだが、そうじゃなくて……」
伊代はグラスの縁を指でなぞった。氷がからん、と音を立てる。その様子を星野は頬杖をつきながら眺めていた。まあ、言わんとしていることは何となくわかった。
「あー、そーゆー事件が起こりやすい状況。つまりは“人外にうようよいられる”が問題だとー?」
「そういうことです、珍しくまともですね」
「珍しくって失礼ですねー!?はぁ……まあ伊代の心配もごもっともではありますねー、まーでも、意味ないと思いますよー?」
「は?それはまたなん……」
「だって現に私たちは“あっち側”じゃないですか」
既に飲み干した自分のグラスに、星野は微笑みながら追加の水を注ぎ入れる。しかしその笑みはどこか、諦めているようにも見えた。
「……」
伊代は何かを反論しかけて口を閉じた。言おうとしたが、結局言葉が見つからなかった。目を伏せることしかできなかった。星野は伊代の仕草に気がつくと手をぱちんと叩き、自身を取り繕った。
「まあ私らがどちらかと言えば異常なだけではー?こーやって人間の日常を楽しむのが!」
「そう、ですね」
「お待たせ致しましたぁ!」
喫茶店にそぐわない重たい空気を破壊したのは、珍しく星野ではなく店員だった。トレイから1フィート弱と大きめのボウル皿を取り出す。山盛りに乗せられたふわふわの氷が暖色のライトに反射してきらきらと輝いて見えた。上にかかって……というか乗っていたのはメロンだった。何等分かにくし切りにされたメロンがふわふわの氷の上に鎮座し、その上からメロンとクリームのソースがかけられていた。それだけでなく所々にメロンの果肉が散りばめられている。微かにする甘い香りが鼻腔をくすぐった。
確かにメロンの旬は五月から七月にかけてである。おかしい訳ではないのだが、それ以上に伊代は驚くしか無かった。
「……どうして、メロンを?」
「え?だって……好きでしたよねー?」
星野はきょとん、とさぞ当たり前のように答えた。確かにそうで、伊代の好物を敢えて挙げるとするならメロンだ。だが伊代が改めて言ったことなど無いはずだった。
「……何故知っているんです?」
「そりゃあ見てれば分かりますよー?もー、伊代ったらメロン味のものばっかり食べてるんですからー!メロンソーダとかメロンパンとか……」
「いやメロンパンはメロンじゃないだろ」
「うーん、過激派!」
どうやら伊代の行動から判断したらしい。間違っていないし、なんなら当たっているが……他の理由を期待してしまう伊代だった。二人分のかき氷を机に並べると店員はちょこっと一礼して去っていった。
星野はほわわ〜と顔をほころばせるとスマートフォンを取り出し、ぱしゃぱしゃと写真を撮り始めた。伊代はと言うとパフェ用らしき細いスプーンを手に取り、それを見守っている。スプーンを持つ手つきまで妙に丁寧であった。
「んふふー、おいしそーですし、何よりかわいいですねー!」
「そうですね……あの、もう食べてもいいですか?」
「いやだめです!!まだです!!あと少し!!」
「溶けるだろう!?」
-
外に出ると既に日が沈みかけていた。日が長い時間の方が少ないと感じるのは何故だろう。なんてそんなに適当な事を考えながら、星野は一足先に店を出ていた。伊代が今回のは自分が払うと取って出たためありがたーくお願いしたのだ。なんでも、この間の礼らしい。相変わらずの堅い奴だ。
生暖かい風が頬を撫でる。既に若干、というかかなり暑さを感じる今日この頃。このまま地球温暖化というやつが進めば外気温も上昇し続けるのではないだろうか。
「もう!これだから人間は……」
「急に人間止めるような発言するじゃないですか」
「わぁー!?」
よりにもよってボヤいたところを伊代に聞かれてしまった。頬をふくらませながら伊代を睨む。伊代は手をひらひらとさせて何やってんだかと言わんばかり。
「……どうです?叶いました?」
「へ?何がですかー?」
「ほら、食べてみたかったんでしょう?高いかき氷」
「まあそれはそうですね……はい!お陰様でー!」
連休も今日で終わり。明日からまた、大学が、仕事が始まるのだ。もう既に帰りたい。だがどうせやってくる。自分には時は越えられない。
「よーし!私たちの冒険はこれからだー!」
「いや打ち切り漫画やめてくださ__」
「うわあああああああんごめんなさああああああい!」
急な乱入者に二人してばっと後ろを振り返る。そこに居たのは、先程の店員。いや、店員だった少女。目に涙を浮かべながらあわあわと震え、長い黒髪をむしり座り込んでしまった。カタカタと震え、長いはずのワンピースからは綺麗な膝が見えてしまっていた。
「う、うぅ……」
「え、えっと……さ、さっきの店員さん、ですよね……?」
「は、はぁい……もう違うんですけどねぇ……あ、あははぁ……う、うわぁーん!」
「いやちょっとー!?な、泣かないで下さいよー!?」
星野があわあわとどうにか宥めるも、少女はずっと泣くばかり。伊代も動揺しつつ、とりあえずとハンカチを少女に差し出した。
「と、とりあえずこれを……」
「ぐすん……あ、ありがとう……ございますぅ……」
「え、えっと……何があったか聞いてもいいですかね……?」
伊代も少女の前に屈みこみ、慎重に目線を合わせ、理由を聞いてみる、余程のことがあったに違いない。彼女の玉虫色の瞳と目が合った。
「じ、実はぁ……」
「はい……?」
「またクビになっちゃったんですよぉ!お仕事がぁ!」
◆
「……何故俺が?」
「他の連中だと勢い余って殺しかねないからな。君が適任というわけだ」
「……だが俺は__」
「君は兵器だ。命令に従順でいることだけが、君の価値なんだ。わかっているだろう?」
「……」
「兵器は感情を持たないし、意見もしない」
「……心得ている」
「よし。引き受けるな?」
「……了解」




