笑い方
昼休み。
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「神代!」
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教室の扉が勢いよく開く。
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「学食行こう!」
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「いいよ。」
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席を立つ。
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自然に笑う。
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「今日は俺が奢る!」
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「昨日助けてもらったし!」
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「いやいや。」
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「そんな大したことじゃないって。」
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また笑う。
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学食。
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昼時。
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人で溢れていた。
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「うわぁ。」
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「今日も多いな。」
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「座れるかな。」
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トレーを持って歩く。
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その時。
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前から小柄な女子生徒が歩いてきた。
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ぶつかる。
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「きゃっ!」
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トレーが傾く。
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咄嗟に手を伸ばす。
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落ちる寸前で受け止めた。
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「大丈夫?」
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「す、すみません!」
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女子生徒は何度も頭を下げる。
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「怪我ない?」
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「はい……!」
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「なら良かった。」
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笑う。
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女子生徒も安心したように笑った。
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「神代って。」
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後ろからクラスメイトが笑う。
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「誰にでも優しいよな。」
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「そう?」
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「困ってる人いたら放っておけないだけ。」
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「イケメンかよ。」
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笑い声。
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昼食が始まる。
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他愛もない話。
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ゲーム。
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テレビ。
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宿題。
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全部。
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普通だった。
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「神代。」
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「彼女とかいる?」
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「いない。」
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「好きな人は?」
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「いないかな。」
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「嘘だぁ!」
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「本当だって。」
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また笑う。
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周りも笑う。
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その輪の少し外。
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朝倉は静かにその様子を見ていた。
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「……。」
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放課後。
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帰り道。
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「神代君。」
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「一緒に帰らない?」
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朝倉だった。
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「もちろん。」
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二人で歩く。
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会話は少ない。
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「神代君って。」
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「何?」
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「笑うの好き?」
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少し考える。
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「好き……かな。」
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嘘だった。
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本当は。
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分からない。
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「私は。」
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朝倉が空を見る。
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「笑うの苦手。」
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「そうなの?」
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「うん。」
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「だから。」
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「笑える人ってすごいと思ってた。」
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少しだけ沈黙。
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信号が赤になる。
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二人で立ち止まる。
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「でも。」
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朝倉が続ける。
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「神代君を見てると。」
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胸がざわつく。
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「笑顔なのに。」
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「苦しそう。」
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心臓が止まりそうになる。
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笑え。
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早く。
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笑え。
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「あはは。」
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「考えすぎだよ。」
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「そうかな。」
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朝倉は納得していない。
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青信号。
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二人は歩き出す。
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別れ道。
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「また明日。」
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「うん。」
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朝倉は帰っていく。
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その背中を見送りながら。
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僕は小さく息を吐いた。
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「危ない……。」
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あと少しで。
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全部。
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崩れるところだった。
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家。
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玄関を閉める。
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鍵を掛ける。
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静かな部屋。
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リビングの隅。
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一冊の古びたアルバムが置かれていた。
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視線が止まる。
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開かない。
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開けない。
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指先だけが震える。
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「……まだ。」
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「まだ無理。」
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そう呟き。
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アルバムを裏返した。
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見えないように。
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思い出さないように。
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それでも。
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瞼を閉じると。
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暗闇の奥で。
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小さな誰かが。
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泣いていた。




