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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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父を殺した日

「――私を。」


⸻


 その言葉だけが。


 頭の中に残った。


⸻


 父を。


 殺した。


⸻


「……僕が?」


⸻


「そうだ。」


⸻


 父親は。


 静かに答えた。


⸻


「十二年前。」


⸻


「君は。」


⸻


「私を殺した。」


⸻


 悠は。


 父親を見る。


⸻


 生きている。


⸻


 目の前に。


 確かに。


⸻


「じゃあ。」


⸻


「今ここにいるあなたは。」


⸻


「何?」


⸻


 父親は。


 少しだけ笑った。


⸻


「コピーだ。」


⸻


「……。」


⸻


「正確には。」


⸻


「君の記憶の中に残された。」


⸻


「人格データを。」


⸻


「この身体に移した。」


⸻


 悠の表情が。


 固まる。


⸻


「そんなの。」


⸻


「父さんじゃない。」


⸻


「そうだな。」


⸻


 あまりにも。


 あっさりと。


 認めた。


⸻


「私は。」


⸻


「君が殺した父親ではない。」


⸻


「ただ。」


⸻


「君が最後に見た。」


⸻


「父親の記憶を持っている。」


⸻


 悠は。


 拳を握る。


⸻


「……じゃあ。」


⸻


「僕が殺したのは。」


⸻


「本当に。」


⸻


「あなたなの?」


⸻


「そうだ。」


⸻


 即答だった。


⸻


「十二年前。」


⸻


「君は。」


⸻


「私を殺した。」


⸻


 悠の頭の奥で。


 また。


 記憶が弾ける。


⸻


 白い部屋。


⸻


 倒れている母親。


⸻


 泣いている澪。


⸻


 怒鳴っている父親。


⸻


 そして。


⸻


 幼い自分。


⸻


『やめて。』


⸻


『もう、やめてよ。』


⸻


 父親が。


 幼い悠へ手を伸ばす。


⸻


『お前は失敗作だ。』


⸻


 その言葉。


⸻


 その瞬間。


⸻


 何かが。


 切れた。


⸻


 能力が。


 暴走する。


⸻


 壁が砕ける。


⸻


 床が裂ける。


⸻


 父親の身体が。


 宙へ浮く。


⸻


 幼い悠は。


 泣いていた。


⸻


 それでも。


⸻


 手を伸ばしていた。


⸻


「……違う。」


⸻


 現在の悠が。


 呟く。


⸻


「僕は。」


⸻


「殺したくなかった。」


⸻


「そうだ。」


⸻


 父親が答える。


⸻


「君は。」


⸻


「私を殺したくなかった。」


⸻


「じゃあ。」


⸻


「どうして。」


⸻


「君が。」


⸻


 父親は。


 少しだけ。


 苦しそうに笑った。


⸻


「私が。」


⸻


「最後まで。」


⸻


「君を止めなかったからだ。」


⸻


「……え?」


⸻


「君が。」


⸻


「もう限界だと。」


⸻


「分かっていた。」


⸻


「それでも。」


⸻


「私は。」


⸻


「君を試した。」


⸻


 悠の目が。


 見開かれる。


⸻


「……試した?」


⸻


「君が。」


⸻


「どこまで壊れれば。」


⸻


「本当の力を出すのか。」


⸻


「それを。」


⸻


「知りたかった。」


⸻


 沈黙。


⸻


 悠の周囲から。


⸻


 音が消えた。


⸻


「……そっか。」


⸻


 声は。


 驚くほど静かだった。


⸻


「じゃあ。」


⸻


「僕が父さんを殺したんじゃない。」


⸻


「父さんが。」


⸻


「僕に殺させたんだ。」


⸻


 父親は。


 答えなかった。


⸻


 それが。


 答えだった。


⸻


 悠は。


 俯く。


⸻


 笑わない。


⸻


 泣かない。


⸻


 怒鳴らない。


⸻


 ただ。


⸻


 胸の奥に。


⸻


 今まで感じたことのない。


 黒い感情が。


⸻


 静かに。


⸻


 広がっていく。


⸻


 憎い。


⸻


 母親も。


⸻


 父親も。


⸻


 黒瀬も。


⸻


 そして。


⸻


 何より。


⸻


 自分自身が。


⸻


 憎い。


⸻


 でも。


⸻


 その感情を。


⸻


 今度は。


⸻


 押し込めなかった。


⸻


「……父さん。」


⸻


「何だ。」


⸻


「僕。」


⸻


「あなたのこと。」


⸻


「嫌いだ。」


⸻


 父親の表情が。


⸻


 初めて。


⸻


 揺れた。


⸻


「うん。」


⸻


「母さんも。」


⸻


「黒瀬も。」


⸻


「今は。」


⸻


「嫌い。」


⸻


 悠は。


 涙を流しながら。


⸻


「でも。」


⸻


「自分のことまで。」


⸻


「嫌いになるのは。」


⸻


「もうやめる。」


⸻


 少年が。


 悠の服を。


 ぎゅっと握った。


⸻


 澪も。


⸻


 何も言わず。


⸻


 悠の隣に立つ。


⸻


 悠は。


 ゆっくり。


 息を吸った。


⸻


「だから。」


⸻


「終わらせよう。」


⸻


 父親を見る。


⸻


「この施設も。」


⸻


「実験も。」


⸻


「十二年前の続きも。」


⸻


「全部。」


⸻


 その瞬間。


⸻


 父親が。


 小さく笑った。


⸻


「……やはり。」


⸻


「君は。」


⸻


「私の想像を超えた。」


⸻


「何が。」


⸻


「君の能力は。」


⸻


「破壊する力じゃない。」


⸻


「じゃあ。」


⸻


「何なの?」


⸻


 父親は。


⸻


 答えた。


⸻


「――拒絶する力だ。」


⸻


 悠の瞳が。


⸻


 わずかに揺れた。


⸻


「君が。」


⸻


「本当に拒絶したものだけを。」


⸻


「世界から。」


⸻


「消す。」


⸻


 その言葉を聞いた瞬間。


⸻


 悠の背後で。


⸻


 少年の姿が。


⸻


 一瞬だけ。


⸻


 透けた。


⸻


「……え?」


⸻


 悠が振り返る。


⸻


 少年は。


⸻


 笑っていた。


⸻


「お兄ちゃん。」


⸻


「僕。」


⸻


「もうすぐ。」


⸻


「いなくなるよ。」

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