壊れる音
朝。
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「神代!」
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教室へ入るなり肩を叩かれる。
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「今日から合同実戦だって!」
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「らしいね。」
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「楽しみだな!」
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「……そうだね。」
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笑う。
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自然に。
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いつも通り。
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その笑顔を。
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朝倉澪だけが静かに見ていた。
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グラウンド。
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一年生全員が集まっている。
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教師が前へ出た。
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「今日は魔獣型ゴーレムを使った実戦訓練を行う。」
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空気が引き締まる。
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「危険はない。」
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「落ち着いて対処しろ。」
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地面が揺れる。
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土の中から。
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三体のゴーレムが現れた。
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「開始!」
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各班が一斉に動く。
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「神代!」
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「右!」
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「了解!」
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仲間の声。
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僕は前へ出る。
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ゴーレムが腕を振り下ろす。
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避ける。
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懐へ入る。
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一撃。
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鈍い音。
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ゴーレムが後退した。
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「すげぇ!」
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「神代!」
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歓声。
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その瞬間だった。
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ゴーレムの腕が。
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偶然。
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赤く染まって見えた。
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一瞬だけ。
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視界が歪む。
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赤。
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床。
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鉄の匂い。
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誰かの叫び。
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(やめろ)
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(見るな)
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(まだ)
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(終わってない)
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「神代!」
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体が動かない。
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ゴーレムが拳を振り下ろす。
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避けられない。
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そう思った。
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その瞬間。
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世界が。
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止まった。
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音が消える。
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風が止まる。
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時間が遅くなる。
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見える。
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全部。
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ゴーレムの拳。
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砂の流れ。
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先生の表情。
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仲間の呼吸。
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全部。
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鮮明に。
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「……っ!」
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気付けば。
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拳を突き出していた。
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次の瞬間。
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ゴーレムが砕け散る。
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爆発したように。
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一撃で。
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粉々に。
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静寂。
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誰も動かない。
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「え……?」
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クラスメイトが呟く。
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「今の……。」
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先生も目を見開いていた。
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「神代。」
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「お前……。」
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しまった。
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やりすぎた。
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鼓動が速くなる。
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息が苦しい。
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笑え。
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早く。
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笑え。
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「あ。」
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口角を上げる。
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「ま、まぐれです!」
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誰も笑わない。
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先生だけが。
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静かに言った。
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「……後で職員室に来なさい。」
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その一言で。
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訓練は終わった。
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放課後。
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屋上。
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フェンスにもたれる。
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風が冷たい。
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「また。」
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小さく呟く。
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「またやっちゃったな。」
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空を見上げる。
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青空。
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平和な景色。
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なのに。
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頭の中だけが。
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あの日から。
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一歩も進んでいなかった。
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「……帰ろ。」
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笑顔を作る。
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誰もいないのに。
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誰に見られていなくても。
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もう。
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笑わない自分が。
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どんな顔だったのか。
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思い出せなかった。




