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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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4/4

笑顔の温度

朝。


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 教室の扉を開ける。


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「おはよー!」


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「神代!」


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「おはよう!」


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 今日も笑う。


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 みんなも笑う。


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 いつも通り。


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 ……のはずだった。


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「神代君。」


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 後ろから声がした。


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 振り返る。


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 一人の女子生徒。


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 黒髪を肩まで伸ばした、小柄な少女だった。


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 入学式の日に見かけた気がする。


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「私、朝倉 澪。」


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「よろしく。」


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「あ、よろしく!」


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 笑って手を振る。


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 でも。


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 朝倉は笑わなかった。


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 じっと。


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 僕の顔だけを見ている。


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「……?」


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「何か付いてる?」


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「ううん。」


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 少し間があった。


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「神代君って。」


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「笑うの上手だね。」


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 心臓が止まりそうになった。


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「え?」


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「自然。」


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「すごく自然。」


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 笑う。


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 反射だった。


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「ありがとう?」


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「褒められた。」


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 朝倉は首を横に振る。


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「褒めてない。」


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 そのまま席へ戻っていった。


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「……変な人。」


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 そう呟いた。


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 なのに。


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 胸の奥がざわついていた。


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 昼休み。


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 購買へ向かう。


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「神代ー!」


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 クラスメイトが肩を組んでくる。


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「今日パン奢って!」


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「なんでだよ。」


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「昨日勝負負けたから!」


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「知らない知らない。」


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 笑う。


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 みんな笑う。


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 その光景を。


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 朝倉は少し離れた窓際から見ていた。


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 放課後。


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 能力訓練。


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 先生が告げる。


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「今日は模擬戦だ。」


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 体育館がざわつく。


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「勝敗は気にしなくていい。」


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「自分の力を確認すること。」


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 順番に試合が始まる。


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 僕の番。


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 相手は上級クラスの生徒だった。


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「よろしく。」


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「よろしく。」


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 開始。


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 相手は速かった。


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 普通なら。


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 見えない。


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 でも。


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 見える。


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 全部。


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 呼吸。


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 視線。


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 重心。


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 次にどこへ踏み込むかまで。


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 一歩。


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 半歩。


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 避ける。


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 また避ける。


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 攻撃しない。


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 避け続ける。


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「なんだあいつ。」


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「全部見切ってる。」


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 周囲がざわつく。


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「神代!」


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 先生が叫ぶ。


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「反撃しろ!」


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「……はい。」


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 軽く踏み込む。


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 一撃。


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 それだけ。


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 相手の木刀が弾き飛んだ。


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「勝負あり。」


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 静まり返る体育館。


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「すげぇ……。」


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「一年だよな?」


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「強くね?」


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 また笑う。


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「偶然です。」


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 先生が苦笑した。


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「偶然で出来る動きじゃない。」


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 試合が終わる。


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 拍手。


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 歓声。


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 僕は頭を掻いた。


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 その時だった。


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「神代君。」


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 朝倉だった。


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「一つ聞いてもいい?」


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「うん?」


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「どうして。」


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 真っ直ぐ僕を見る。


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「勝った時も。」


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「負けた時も。」


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「同じ笑い方をするの?」


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 息が止まる。


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 返事が出来ない。


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 初めてだった。


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 そこを見られたのは。


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 笑顔の奥を。


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 見ようとした人は。


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 初めてだった。


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「……癖かな。」


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 やっとそれだけ答えた。


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 朝倉は少しだけ目を伏せる。


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「そっか。」


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「でも。」


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 小さく笑う。


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「いつか。」


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「本当に笑えるといいね。」


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 その言葉だけ残して。


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 彼女は歩いていった。


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 僕は。


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 その背中を見つめたまま。


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 動けなかった。


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 誰にも。


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 見抜かれないと思っていた。


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 ずっと。


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 そう思っていたのに。

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