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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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3/4

優しい人

昼休み。


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 教室は今日も賑やかだった。


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「神代、一緒に食べようぜ!」


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「もちろん!」


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 笑顔で席を立つ。


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 窓際の机をくっつける。


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 他愛もない話。


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 ゲーム。


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 先生のモノマネ。


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 購買のパン争奪戦。


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 みんな笑っている。


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 僕も笑う。


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 楽しい。


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 ……本当に。


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 その時だった。


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「キャッ!」


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 教室の後ろで女子生徒が転ぶ。


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 教科書が散らばる。


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 僕は反射的に駆け寄った。


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「大丈夫?」


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「あ、ご、ごめん……!」


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「怪我は?」


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「うん、平気」


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 散らばった教科書を拾う。


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 消しゴム。


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 ノート。


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 筆箱。


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 一冊だけ。


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 古い絵本が落ちていた。


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「妹に読むんだ」


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 女子生徒が照れ笑いする。


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「毎日楽しみにしてるから」


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「そっか」


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 自然に笑う。


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「優しいお姉ちゃんなんだね」


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「えへへ」


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 その笑顔を見て。


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 胸が少しだけ軽くなった。


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 ……よかった。


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 こんな日常は。


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 壊れなくていい。


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 放課後。


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 実技訓練。


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 二人一組。


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「よろしく!」


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 相手は昨日話した男子だった。


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「手加減しろよ?」


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「もちろん」


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 試合開始。


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 相手が飛び込んでくる。


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 速い。


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 でも。


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 見える。


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 避ける。


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 流す。


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 受ける。


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 無駄がない。


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「神代うまっ!」


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 周りが驚く。


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 先生も頷いた。


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「よく見えているな」


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「ありがとうございます」


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 そのまま軽く勝負が終わる。


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「いやー負けた!」


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 相手が笑う。


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「神代強いな!」


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「たまたまだよ」


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 また笑う。


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 その時。


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 体育館の外。


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 ガシャン!!


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 何か大きな物が倒れる音。


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 一瞬だった。


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 僕の身体が固まる。


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 耳鳴り。


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 呼吸が止まる。


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 視界が赤く滲む。


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(逃げろ)


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 知らない声。


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(隠れろ)


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(まだ生きてる)


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(まだ)


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(まだ)


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「神代!!」


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 肩を掴まれる。


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 ビクリと身体が跳ねた。


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「……え?」


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 先生だった。


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「大丈夫か?」


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 体育館中が静かになっている。


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 みんな。


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 僕を見ていた。


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 しまった。


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 失敗した。


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「ご、ごめんなさい!」


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 慌てて笑う。


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「びっくりしただけです!」


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「外で器具が倒れたみたいで!」


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「すみません!」


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 笑う。


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 笑う。


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 笑う。


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 お願いだから。


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 これ以上。


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 見ないで。


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「……そうか」


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 先生は少しだけ心配そうだった。


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 でも。


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 それ以上は聞かなかった。


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 助かった。


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 家へ帰る。


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 玄関を閉める。


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 鍵を掛ける。


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 そのまま床へ座り込む。


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 震えが止まらない。


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「……大丈夫」


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 誰もいない部屋で。


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 何度も。


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 何度も。


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 言い聞かせる。


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「もう終わった」


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「終わったんだから」


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 返事はない。


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 あるのは。


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 静かな部屋と。


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 笑えなくなった僕だけだった。

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