普通の人
朝。
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目覚ましが鳴る。
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六時。
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ぴったり。
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身体は勝手に起きる。
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癖だった。
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カーテンを開ける。
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晴れ。
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「……よし」
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鏡を見る。
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笑う。
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一回。
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もう一回。
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「おはよう」
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鏡の中の自分へ言う。
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ちゃんと笑えてる。
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今日も大丈夫。
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学校へ向かう。
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「おはよー!」
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教室へ入ると、昨日話したクラスメイトが手を振る。
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「神代、おはよう!」
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「おはよう!」
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笑う。
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自然に。
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みんなも笑う。
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これでいい。
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ホームルーム。
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担任が言った。
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「今日から実技適性試験を始める」
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教室がざわつく。
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「この学園では能力の相性を確認する」
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「順位を付けるものじゃない」
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その一言で。
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少しだけ安心した。
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順位。
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競争。
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そういう言葉は苦手だ。
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体育館へ移動する。
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順番に能力を見せていく。
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炎。
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風。
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身体強化。
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様々だった。
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「次、神代」
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名前を呼ばれる。
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「はい」
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前へ出る。
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「力を込めて」
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先生が言う。
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僕は頷く。
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ほんの少しだけ。
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本当に少しだけ。
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力を使う。
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光が一瞬だけ揺れた。
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「……十分だ」
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先生が頷く。
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「平均より少し上だな」
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教室から声が上がる。
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「結構すごいじゃん」
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「いやいや」
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笑って頭をかく。
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「たまたまだよ」
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嘘じゃない。
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でも。
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本当でもない。
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放課後。
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廊下を歩いていると。
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遠くで口論が聞こえた。
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「返せよ!」
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「知らねぇよ!」
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怒鳴り声。
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胸がざわつく。
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喉が渇く。
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嫌な汗が流れる。
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視界が揺れる。
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(違う)
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(ここじゃない)
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(あの時じゃない)
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足を止める。
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深呼吸。
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一回。
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二回。
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三回。
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「神代?」
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振り返る。
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さっきのクラスメイトだった。
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「どうした?」
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一秒。
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それだけで十分だった。
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「ん?」
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笑う。
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「いやー、先生に宿題多く出される夢見たからさ」
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「現実にならないかなって考えてた」
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「なんだそれ!」
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また笑い声。
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誤魔化せた。
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今日も。
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誰にも。
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気付かれなかった。
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家へ帰る。
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玄関を閉める。
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鍵を掛ける。
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その瞬間。
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笑顔が消えた。
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静かな部屋。
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一人。
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何も聞こえない。
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ポケットからスマホを取り出す。
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画面には。
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アラームが毎日同じ時間に設定されていた。
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『薬』
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『笑うこと』
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『眠ること』
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たった三つ。
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それだけの予定。
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僕は通知を消す。
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そして。
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誰もいない部屋で。
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小さく呟いた。
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「今日も……普通だった」
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その言葉は。
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安心にも聞こえた。
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祈りにも聞こえた。




