はじめまして
春。
---
新しい制服。
---
新しい教室。
---
新しいクラス。
---
「今日から一年間よろしく!」
---
教室中が拍手する。
---
担任も笑う。
---
みんな笑う。
---
だから。
---
僕も笑った。
---
「神代 悠です!よろしく!」
---
明るく。
---
元気よく。
---
笑顔で。
---
「趣味は?」
---
「ゲームかな!」
---
「部活入る?」
---
「まだ考え中!」
---
初対面なんて簡単だ。
---
笑っていればいい。
---
相手の話を聞いて。
---
少し笑って。
---
少し自分のことを話す。
---
それだけ。
---
「神代って話しやすいな!」
---
「だろ?」
---
また笑う。
---
自然に。
---
いつものように。
---
それが普通だから。
---
昼休み。
---
一人で購買へ向かう。
---
廊下は賑やかだった。
---
笑い声。
---
走る生徒。
---
先生に怒られる誰か。
---
平和だ。
---
本当に。
---
その時だった。
---
カシャン。
---
廊下の向こうで。
---
誰かが弁当箱を落とした。
---
金属が床を叩く音。
---
たったそれだけ。
---
それだけなのに。
---
身体が勝手に動いた。
---
息が止まる。
---
心臓が暴れる。
---
足が震える。
---
呼吸が。
---
できない。
---
目の前が暗くなる。
---
(違う)
---
(あの音じゃない)
---
(ここじゃない)
---
(大丈夫)
---
(大丈夫だから)
---
何度も。
---
心の中で繰り返す。
---
気付けば。
---
壁に手をついていた。
---
「……大丈夫?」
---
女子生徒が覗き込む。
---
「顔色悪いよ?」
---
僕は一秒で笑った。
---
「あー、ごめん!」
---
「昨日ゲームしすぎた!」
---
「あはは!」
---
「寝不足!」
---
「なんだよそれ!」
---
笑い声。
---
空気が戻る。
---
よかった。
---
誤魔化せた。
---
誰にも気付かれなかった。
---
……慣れている。
---
放課後。
---
校舎裏。
---
誰もいない。
---
やっと一人になれた。
---
壁にもたれ掛かる。
---
震える手を見る。
---
まだ止まっていない。
---
「……最悪」
---
小さく呟く。
---
制服のポケットから薬を取り出す。
---
一錠。
---
水も飲まずに流し込む。
---
少しだけ。
---
呼吸が落ち着く。
---
「今年こそ」
---
誰にも知られないように。
---
普通に。
---
笑って。
---
卒業しよう。
---
それだけでいい。
---
それだけで。
---
十分だから。
---
遠くから部活動の掛け声が聞こえる。
---
僕は制服についた埃を払う。
---
そして。
---
何事もなかったように。
---
また笑顔を作った。
---
それはもう。
---
身体が覚えてしまった癖だった。




