誰を殺す?
『――誰を殺す?』
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暗闇の中。
その声だけが響いた。
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悠は。
何も答えなかった。
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「……。」
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腕の中には。
眠っている少年。
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すぐ隣には。
澪。
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少し離れた場所に。
如月。
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そして。
目の前には。
黒瀬と母親。
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赤い光が。
悠だけを照らしている。
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『選択してください。』
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『対象を一名。』
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『選択後、実験を終了します。』
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「……それだけ?」
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悠が。
ぽつりと呟いた。
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黒瀬が。
眉をひそめる。
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「何?」
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「十二年前も。」
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「こんな感じだったの?」
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澪が。
答える。
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「……うん。」
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「誰か一人を選べって。」
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「そう。」
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「そして。」
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「選んだ人以外は助かる。」
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悠は。
少しだけ考える。
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「じゃあ。」
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「選ばなかったら?」
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無機質な声が。
返ってくる。
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『全対象を処理します。』
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澪が。
息を呑む。
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「……悠くん。」
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「大丈夫。」
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「またそれ……。」
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「違うよ。」
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悠は。
澪を見る。
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「今度は。」
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「本当に大丈夫。」
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悠は。
ゆっくり。
周囲を見渡した。
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黒瀬。
母親。
澪。
如月。
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そして。
眠っている少年。
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誰かを選ぶ。
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そんなこと。
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できるわけがない。
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「ねえ。」
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悠が。
機械へ話しかける。
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「質問していい?」
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『許可します。』
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「選択肢。」
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「一人だけなの?」
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『肯定。』
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「じゃあ。」
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悠は。
少し笑った。
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「選択肢を増やす。」
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「……何?」
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黒瀬が。
怪訝そうに見る。
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「僕が。」
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「選ぶんじゃなくて。」
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「この実験そのものを。」
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「選ばない。」
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『理解不能。』
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「分からなくていいよ。」
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悠の周囲に。
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静かに。
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力が集まり始める。
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以前とは違う。
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荒々しくない。
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黒い。
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けれど。
どこか静かな力。
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澪が。
悠を見る。
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「悠くん。」
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「うん。」
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「今。」
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「何を考えてるの?」
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悠は。
少しだけ笑った。
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「僕。」
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「ずっと。」
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「誰かを選ぶのが嫌だったんだと思う。」
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幼い頃。
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自分か。
澪か。
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誰か一人。
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選ばされ続けた。
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だから。
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笑って。
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誤魔化した。
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自分を犠牲にして。
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全部終わらせようとした。
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でも。
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今は違う。
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「僕は。」
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「誰かを捨てて。」
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「誰かを助けるんじゃない。」
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「全員。」
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「助ける。」
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黒瀬が。
笑う。
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「綺麗事だな。」
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「そうかも。」
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「なら。」
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「やってみろ。」
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その瞬間。
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施設の壁が。
大きく歪んだ。
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バキッ。
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床が割れる。
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天井が軋む。
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『警告。』
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『能力出力、規定値を超過。』
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『実験対象の精神状態――不安定。』
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「……違う。」
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悠が。
静かに否定する。
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「不安定じゃない。」
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赤い光を。
真っ直ぐ見上げる。
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「今までで。」
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「一番。」
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「落ち着いてる。」
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そして。
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悠の足元から。
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黒い波紋が広がった。
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壁。
床。
天井。
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施設全体へ。
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一瞬で。
黒い線が走る。
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機械が。
次々と停止していく。
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『異常。』
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『システムへの干渉を確認。』
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『被験者が――』
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声が。
途切れる。
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静寂。
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悠は。
ゆっくり息を吐いた。
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「……終わった?」
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誰も答えない。
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その代わり。
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暗闇の奥から。
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一人の男が。
ゆっくり歩いてきた。
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白衣。
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眼鏡。
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そして。
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悠と同じ顔。
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けれど。
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年齢は。
ずっと上。
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母親が。
初めて。
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顔を強張らせた。
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「……あなた。」
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男は。
悠を見て。
微笑む。
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「久しぶりだな。」
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悠は。
その男を見つめる。
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「……誰?」
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男は。
静かに答えた。
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「君の父親だよ。」
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悠の。
呼吸が止まった。




