↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/80

本当の実験

 施設全体が。


 揺れている。


⸻


 天井から。


 細かな埃が落ちてくる。


⸻


 それでも。


 悠は動かなかった。


⸻


 腕の中には。


 眠った少年。


⸻


 目の前には。


 母親。


⸻


 そして。


 壁に浮かび上がった文字。


⸻


『最終実験――開始』


⸻


「……母さん。」


⸻


「何?」


⸻


「これ。」


⸻


「何をするの。」


⸻


 女性は。


 少しだけ目を伏せた。


⸻


「選ぶのよ。」


⸻


「何を?」


⸻


「あなた自身を。」


⸻


 悠は。


 眉を寄せる。


⸻


「意味が分からない。」


⸻


「分からなくていい。」


⸻


「でも。」


⸻


 女性は。


 悠の目を見た。


⸻


「あなたは。」


⸻


「ずっと。」


⸻


「自分の一部を否定してきた。」


⸻


 胸の奥が。


 ズキッと痛む。


⸻


「怒る自分。」


⸻


「憎む自分。」


⸻


「怖がる自分。」


⸻


「誰かを傷つける自分。」


⸻


「あなたは。」


⸻


「それらを全部。」


⸻


「悪いものだと思っている。」


⸻


「……。」


⸻


「だから。」


⸻


「笑った。」


⸻


 悠は。


 何も言えなかった。


⸻


「でも。」


⸻


 女性が続ける。


⸻


「人間は。」


⸻


「綺麗な感情だけでは。」


⸻


「生きられない。」


⸻


 その言葉に。


⸻


 悠の胸の奥で。


⸻


 何かが動いた。


⸻


 あの少年。


⸻


 自分から切り離された感情。


⸻


 あれも。


⸻


 自分だった。


⸻


 憎しみも。


 怒りも。


 恐怖も。


⸻


 全部。


⸻


 自分だった。


⸻


「……じゃあ。」


⸻


 悠は。


 少年を見る。


⸻


「僕は。」


⸻


「こいつを。」


⸻


「受け入れればいいの?」


⸻


「違う。」


⸻


 女性は。


 首を横に振った。


⸻


「受け入れるだけじゃない。」


⸻


「共に生きるの。」


⸻


「……。」


⸻


「怒ってもいい。」


⸻


「怖がってもいい。」


⸻


「誰かを嫌いになってもいい。」


⸻


「それでも。」


⸻


「誰かを大切にできる。」


⸻


 悠は。


 少年を抱く腕に。


 少し力を込めた。


⸻


「……難しいな。」


⸻


 思わず。


 笑った。


⸻


 けれど。


⸻


 今度の笑顔は。


 無理に作ったものではなかった。


⸻


 澪が。


 それを見て。


 少しだけ笑う。


⸻


「うん。」


⸻


「それでいいと思う。」


⸻


 その瞬間。


⸻


 黒瀬が。


 突然。


 女性へ銃を向けた。


⸻


「くだらない。」


⸻


 全員が。


 振り返る。


⸻


「黒瀬……?」


⸻


「感情を受け入れる?」


⸻


「そんなもので。」


⸻


「実験が完成すると思うか。」


⸻


 黒瀬の指が。


 引き金にかかる。


⸻


「お前は。」


⸻


「十二年前と同じだ。」


⸻


「人間の感情など。」


⸻


「力を不安定にするだけだ。」


⸻


 悠が。


 一歩前へ出る。


⸻


「……母さんから。」


⸻


「離れて。」


⸻


「悠。」


⸻


 女性が。


 止めようとする。


⸻


「大丈夫。」


⸻


 悠は。


 銃口を見る。


⸻


 怖い。


⸻


 正直に。


 怖かった。


⸻


 でも。


⸻


 逃げなかった。


⸻


「僕。」


⸻


「昔なら。」


⸻


「ここで笑ってたと思う。」


⸻


「……。」


⸻


「大丈夫って。」


⸻


「何度も言って。」


⸻


「自分の怖さを。」


⸻


「隠してた。」


⸻


 悠の周囲で。


 空気が揺れる。


⸻


「でも。」


⸻


「今は。」


⸻


「怖いって言える。」


⸻


 そして。


⸻


「だから。」


⸻


「お前が。」


⸻


「怖くない。」


⸻


 黒瀬が。


 引き金を引く。


⸻


 ――パンッ!!


⸻


 銃声。


⸻


 澪が。


 息を呑む。


⸻


 けれど。


⸻


 弾丸は。


⸻


 悠の目の前で。


⸻


 止まっていた。


⸻


「……。」


⸻


 悠は。


 驚いたように。


 弾丸を見る。


⸻


 そして。


 ゆっくり。


⸻


 手を伸ばす。


⸻


 触れていない。


⸻


 それなのに。


⸻


 弾丸が。


⸻


 静かに。


⸻


 床へ落ちた。


⸻


 カラン。


⸻


 その音を聞いて。


⸻


 黒瀬の顔が。


 歪む。


⸻


「……馬鹿な。」


⸻


「僕も。」


⸻


 悠は。


 自分の手を見る。


⸻


「そう思う。」


⸻


 そして。


 少年を抱え直す。


⸻


「でも。」


⸻


「もう。」


⸻


「自分を怖がるのは。」


⸻


「やめる。」


⸻


 その瞬間。


⸻


 施設全体の照明が。


 一斉に消えた。


⸻


 完全な暗闇。


⸻


 そして。


⸻


 どこからともなく。


⸻


『適合率――九十九パーセント。』


⸻


 無機質な声。


⸻


『最終条件を確認。』


⸻


 悠の背筋に。


 嫌な予感が走る。


⸻


『被験者Y-17。』


⸻


『最終選択を開始します。』


⸻


 暗闇の中。


⸻


 一本の赤い光が。


 悠を照らした。


⸻


『――誰を殺す?』


⸻


 悠の笑顔が。


 消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。