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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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遊ぼう

「――遊ぼう。」


⸻


 三人の子どもが。


 同時に笑った。


⸻


 その笑顔を見た瞬間。


 悠の背筋を。


 冷たいものが走った。


⸻


「……何を。」


⸻


 悠が尋ねる。


⸻


 子どもたちは。


 答えない。


⸻


 ただ。


 一歩。


 また一歩。


⸻


 こちらへ近付いてくる。


⸻


 チリン。


⸻


 首元の鈴が鳴る。


⸻


 その音を聞くたびに。


 頭の奥が。


 ズキッと痛む。


⸻


「悠くん!」


⸻


 澪が。


 悠の腕を掴む。


⸻


「下がって!」


⸻


「大丈夫。」


⸻


「違う!」


⸻


 澪の声が。


 珍しく強かった。


⸻


「この子たち。」


⸻


「普通じゃない。」


⸻


「分かってる。」


⸻


「なら――」


⸻


「でも。」


⸻


 悠は。


 子どもたちを見る。


⸻


「怖がってる。」


⸻


「……え?」


⸻


 悠には。


 分かっていた。


⸻


 笑っている。


⸻


 楽しそうに見える。


⸻


 けれど。


 目が。


 笑っていない。


⸻


「この子たち。」


⸻


「僕と同じだ。」


⸻


 澪の表情が。


 固まる。


⸻


「……悠くん。」


⸻


「笑ってるけど。」


⸻


「本当は。」


⸻


「怖いんだと思う。」


⸻


 その言葉に。


⸻


 一番後ろにいた少年が。


 ぴたりと止まった。


⸻


「……怖くない。」


⸻


「そっか。」


⸻


「怖くないよ。」


⸻


 悠は。


 優しく笑う。


⸻


「じゃあ。」


⸻


「無理して笑わなくてもいいよ。」


⸻


 少年の表情が。


 揺れた。


⸻


「……。」


⸻


 女性が。


 初めて。


 険しい顔をした。


⸻


「悠。」


⸻


「何?」


⸻


「その子から離れて。」


⸻


「嫌だ。」


⸻


「命令よ。」


⸻


「それでも。」


⸻


 悠は。


 少年の前から動かなかった。


⸻


「この子たちは。」


⸻


「実験体じゃない。」


⸻


「……。」


⸻


「人間だよ。」


⸻


 女性の目が。


 細くなる。


⸻


「あなたに。」


⸻


「何が分かるの?」


⸻


「分からない。」


⸻


 悠は。


 即答した。


⸻


「だから。」


⸻


「聞く。」


⸻


 少年へ。


⸻


「君。」


⸻


「名前は?」


⸻


 少年は。


 しばらく黙って。


⸻


「……ない。」


⸻


「じゃあ。」


⸻


「僕がつけてもいい?」


⸻


「……。」


⸻


 少年が。


 小さく頷いた。


⸻


「じゃあ。」


⸻


「鈴。」


⸻


「……鈴?」


⸻


「うん。」


⸻


「その鈴。」


⸻


 悠は。


 少年の首元を見る。


⸻


「綺麗だから。」


⸻


 少年が。


 初めて。


⸻


 笑った。


⸻


「……うん。」


⸻


 その瞬間。


⸻


 女性が。


 鈴を鳴らした。


⸻


 チリン。


⸻


 少年の身体が。


 大きく震える。


⸻


「……っ。」


⸻


「やめて。」


⸻


 悠が。


 女性を見る。


⸻


「何をしてる。」


⸻


「あなたには関係ないわ。」


⸻


「ある。」


⸻


 悠の周囲の空気が。


 わずかに揺れる。


⸻


「この子は。」


⸻


「僕が守る。」


⸻


 女性は。


 静かに笑った。


⸻


「そう。」


⸻


「なら。」


⸻


「守ってみなさい。」


⸻


 次の瞬間。


⸻


 少年の身体が。


 一瞬で消えた。


⸻


「――!」


⸻


 悠の背後。


⸻


 気配。


⸻


 振り返る。


⸻


 少年の手が。


 悠へ伸びている。


⸻


 けれど。


⸻


 触れる直前。


⸻


 止まった。


⸻


「……?」


⸻


 少年自身が。


 驚いている。


⸻


「どうして。」


⸻


 悠は。


 少年の手を見る。


⸻


「……僕を。」


⸻


「攻撃できない?」


⸻


 少年は。


 震えながら答える。


⸻


「お兄ちゃんを。」


⸻


「傷つけたら。」


⸻


「僕が。」


⸻


「怖いから。」


⸻


 悠の胸が。


 締め付けられる。


⸻


 この子も。


⸻


 自分と同じだ。


⸻


 誰かに。


 何かを命じられて。


⸻


 怖いのに。


⸻


 笑っている。


⸻


 悠は。


 少年の手を。


 そっと握った。


⸻


「大丈夫。」


⸻


「もう。」


⸻


「誰にも。」


⸻


「笑わされなくていい。」


⸻


 その瞬間。


⸻


 悠の能力が。


 少年を包み込んだ。


⸻


 しかし。


⸻


 いつものような。


 強い力ではない。


⸻


 むしろ。


⸻


 静かだった。


⸻


 少年の首元から。


⸻


 銀色の鈴が。


⸻


 ぽろりと落ちる。


⸻


 床に転がり。


⸻


 チリン。


⸻


 その音と同時に。


⸻


 少年が。


 崩れ落ちた。


⸻


「鈴!」


⸻


 悠が。


 慌てて抱き止める。


⸻


 女性が。


 呟く。


⸻


「……そう。」


⸻


「やっぱり。」


⸻


「あなたの能力は。」


⸻


 そして。


⸻


「壊すだけじゃなかったのね。」


⸻


 悠が。


 顔を上げる。


⸻


「……どういう意味?」


⸻


 女性は。


 答えない。


⸻


 ただ。


 初めて。


 母親らしい表情で。


⸻


 悠を見つめた。


⸻


「あなたが。」


⸻


「本当の意味で。」


⸻


「自分を受け入れた時。」


⸻


「この施設の全てが。」


⸻


「終わるわ。」


⸻


 その直後。


⸻


 施設全体が。


 大きく揺れた。


⸻


 天井から。


 粉塵が落ちてくる。


⸻


 そして。


 女性の背後の壁に。


⸻


 巨大な文字が。


 赤く浮かび上がった。


⸻


『最終実験――開始』


⸻


 悠は。


 少年を抱きしめたまま。


⸻


 その文字を見つめる。


⸻


「……まだ。」


⸻


「終わってないのか。」


⸻


 女性は。


 静かに答えた。


⸻


「ええ。」


⸻


「ここからが。」


⸻


「本当の実験よ。」

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