第二フェーズ
警告音が。
実験室に響き続けている。
⸻
『最終段階・第二フェーズを開始します』
⸻
無機質な声。
⸻
黒瀬が。
初めて取り乱した。
⸻
「止めろ。」
⸻
誰に言ったのか。
分からない。
⸻
「今すぐ止めろ!」
⸻
壁の奥から。
返事はない。
⸻
代わりに。
別の声が響いた。
⸻
『被験者Y-17の反応を確認。』
⸻
『記憶の復元率――八十七パーセント。』
⸻
悠は。
黙って聞いていた。
⸻
「……誰が。」
⸻
黒瀬を見る。
⸻
「この施設を動かしてる。」
⸻
「分からない。」
⸻
「嘘だ。」
⸻
黒瀬が黙る。
⸻
悠は。
もう一度。
⸻
「誰だ。」
⸻
「……私じゃない。」
⸻
その答えに。
如月が眉を寄せる。
⸻
「じゃあ誰だ。」
⸻
黒瀬は。
ゆっくりと。
天井を見上げた。
⸻
「この施設には。」
⸻
「私以外に。」
⸻
「もう一人。」
⸻
「管理者がいる。」
⸻
澪の顔が。
凍った。
⸻
「……まさか。」
⸻
「知ってるの?」
⸻
悠が聞く。
⸻
澪は。
答えない。
⸻
「澪。」
⸻
「……知らない。」
⸻
明らかに。
何かを隠している。
⸻
けれど。
今は追及する時間がない。
⸻
警告音が。
さらに大きくなる。
⸻
『第二フェーズを開始します。』
⸻
床が。
ゆっくり開いた。
⸻
「また……。」
⸻
地下へ続く穴。
⸻
その奥から。
冷たい風が吹き上がってくる。
⸻
そして。
⸻
何かが。
上ってきた。
⸻
人影。
⸻
一人。
⸻
二人。
⸻
三人。
⸻
悠の顔が。
強張る。
⸻
「……子ども?」
⸻
地下から現れたのは。
十歳前後の子どもたちだった。
⸻
全員。
同じ服。
⸻
同じ首輪。
⸻
そして。
⸻
全員の首元に。
銀色の鈴。
⸻
チリン。
⸻
チリン。
⸻
チリン。
⸻
その音を聞いた瞬間。
⸻
悠の頭に。
知らない記憶が流れ込んだ。
⸻
白い部屋。
⸻
泣いている子ども。
⸻
その前に立つ。
幼い自分。
⸻
『大丈夫。』
⸻
『僕がいるから。』
⸻
そして。
⸻
『怖くないよ。』
⸻
昔の自分が。
笑っている。
⸻
現在の悠は。
息を呑む。
⸻
「……僕。」
⸻
「この子たちを。」
⸻
「知ってる。」
⸻
澪が。
小さく頷いた。
⸻
「うん。」
⸻
「この子たちは。」
⸻
「悠くんが。」
⸻
「一度だけ。」
⸻
「助けようとした子たち。」
⸻
「一度だけ?」
⸻
「助けられなかった。」
⸻
悠の胸が。
締め付けられる。
⸻
「……。」
⸻
子どもたちは。
何も言わない。
⸻
ただ。
悠を見つめている。
⸻
その中の一人が。
ゆっくり口を開いた。
⸻
「……お兄ちゃん。」
⸻
悠が。
顔を上げる。
⸻
「僕のこと。」
⸻
「覚えてる?」
⸻
答えられない。
⸻
「ごめん。」
⸻
悠は。
正直に言った。
⸻
「まだ。」
⸻
「全部は思い出せない。」
⸻
少年は。
少しだけ笑った。
⸻
「そっか。」
⸻
「じゃあ。」
⸻
「僕たちが。」
⸻
「思い出させてあげる。」
⸻
その瞬間。
⸻
三人の子どもたちの。
目が。
⸻
一斉に。
⸻
赤く光った。
⸻
「……っ!」
⸻
如月が。
悠の前に立つ。
⸻
「下がれ!」
⸻
だが。
⸻
悠は。
動かなかった。
⸻
怖くない。
⸻
いや。
⸻
怖い。
⸻
けれど。
⸻
今度は。
逃げない。
⸻
「零。」
⸻
「何だ。」
⸻
「この子たち。」
⸻
「敵じゃない。」
⸻
「……どうして分かる。」
⸻
悠は。
子どもたちを見る。
⸻
「だって。」
⸻
小さく笑う。
⸻
「僕と。」
⸻
「同じ顔をしてるから。」
⸻
その瞬間。
⸻
子どもたちの背後から。
⸻
一人の女性が現れた。
⸻
白衣。
⸻
長い髪。
⸻
そして。
⸻
左手に。
⸻
銀色の鈴。
⸻
澪が。
息を呑む。
⸻
「……そんな。」
⸻
女性は。
悠を見て。
微笑んだ。
⸻
「久しぶりね。」
⸻
「悠くん。」
⸻
悠は。
その顔を見た瞬間。
⸻
胸の奥が。
凍りついた。
⸻
「……母さん?」




