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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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思い出した罪

 ――あ。


⸻


 声が出なかった。


⸻


 目の前に。


 倒れている少年。


⸻


 血。


⸻


 泣き叫ぶ澪。


⸻


 震えている零。


⸻


 そして。


⸻


 その中心にいる。


 幼い自分。


⸻


 笑っていた。


⸻


「……僕が。」


⸻


 現在の悠の唇が震える。


⸻


「やった。」


⸻


 記憶が。


 途切れない。


⸻


 あの日。


⸻


 黒瀬に追い詰められ。


 能力を暴走させた。


⸻


 最初は。


 ただ逃げたかった。


⸻


 澪を助けたかった。


⸻


 それだけだった。


⸻


 けれど。


⸻


 感情が。


 止まらなかった。


⸻


 恐怖。


⸻


 怒り。


⸻


 憎しみ。


⸻


 全部が。


 一つになった。


⸻


 そして。


⸻


 能力が。


 周囲を飲み込んだ。


⸻


「……やめて。」


⸻


 澪が。


 小さく呟く。


⸻


 でも。


⸻


 もう止まらない。


⸻


 記憶の中。


⸻


 幼い悠が。


 倒れた少年を見ている。


⸻


 その少年は。


 鳳園で一緒に暮らしていた。


⸻


 名前は。


⸻


「……蓮。」


⸻


 悠の口から。


 名前が零れる。


⸻


 如月が。


 息を呑んだ。


⸻


「思い出したか。」


⸻


「うん。」


⸻


「全部?」


⸻


「……少しずつ。」


⸻


 悠は。


 自分の手を見る。


⸻


 今は。


 何も付いていない。


⸻


 それでも。


 あの日の感触だけは。


 消えない。


⸻


「僕が。」


⸻


「蓮を。」


⸻


 言葉が。


 続かない。


⸻


 澪が。


 首を横に振る。


⸻


「違う。」


⸻


「違わない。」


⸻


「悠くん。」


⸻


「僕の能力で。」


⸻


「蓮を傷つけた。」


⸻


「……うん。」


⸻


 澪は。


 泣きながら頷いた。


⸻


「でも。」


⸻


「殺してない。」


⸻


 悠の目が。


 大きく開く。


⸻


「……え?」


⸻


「蓮くんは。」


⸻


「生きてる。」


⸻


 時間が。


 止まったように感じた。


⸻


「嘘。」


⸻


「本当。」


⸻


「じゃあ。」


⸻


 悠が。


 周囲を見渡す。


⸻


「どうして。」


⸻


「僕は。」


⸻


「殺したと思ってたんだ。」


⸻


 黒瀬が。


 静かに笑った。


⸻


「そう思わせた。」


⸻


「……。」


⸻


「君の記憶を操作する際。」


⸻


「最も強かった恐怖を。」


⸻


「そのまま残した。」


⸻


「だから。」


⸻


「君は。」


⸻


「自分が彼を殺したと思い込んだ。」


⸻


 悠の身体が。


 震える。


⸻


「じゃあ。」


⸻


「十二年間。」


⸻


「僕が苦しんでたのは。」


⸻


「全部。」


⸻


「……君を制御するためだ。」


⸻


 黒瀬の言葉に。


⸻


 悠は。


 ゆっくり顔を上げる。


⸻


「……ふざけるな。」


⸻


 声が。


 低い。


⸻


「僕が。」


⸻


「どれだけ。」


⸻


「自分を嫌いになったと思ってる。」


⸻


 黒瀬は。


 何も答えない。


⸻


「毎日。」


⸻


「普通に笑って。」


⸻


「普通に話して。」


⸻


「普通に生きて。」


⸻


「その裏で。」


⸻


 涙が。


 一滴。


 落ちる。


⸻


「ずっと。」


⸻


「僕は。」


⸻


「自分が人を殺したと思ってた。」


⸻


「なのに。」


⸻


「それすら。」


⸻


「お前たちが作ったものだったのか。」


⸻


 能力が。


⸻


 再び。


⸻


 周囲を震わせる。


⸻


 けれど。


⸻


 今度は。


 暴走していない。


⸻


 悠自身が。


 力を握っている。


⸻


「……澪。」


⸻


「うん。」


⸻


「どうして。」


⸻


「僕に言わなかった。」


⸻


 澪は。


 しばらく黙って。


⸻


「怖かったから。」


⸻


「何が?」


⸻


「悠くんが。」


⸻


「全部思い出したら。」


⸻


「また。」


⸻


「自分を壊すと思った。」


⸻


「……。」


⸻


「だから。」


⸻


「私たちで決めた。」


⸻


 零が。


 静かに続ける。


⸻


「お前には。」


⸻


「普通に生きてほしかった。」


⸻


「普通に笑って。」


⸻


「普通に友達を作って。」


⸻


「普通に。」


⸻


「高校生をやってほしかった。」


⸻


 悠は。


⸻


 朝倉を見る。


⸻


 そして。


⸻


 小さく笑った。


⸻


「……そっか。」


⸻


「悠?」


⸻


「じゃあ。」


⸻


「今まで。」


⸻


「ちゃんと普通に。」


⸻


「生きられてたのかな。」


⸻


 澪は。


⸻


「うん。」


⸻


 と答えた。


⸻


「ちゃんと。」


⸻


「笑えてたよ。」


⸻


 悠は。


⸻


 目を閉じる。


⸻


 そして。


⸻


 ゆっくり息を吐いた。


⸻


「……よかった。」


⸻


 その瞬間。


⸻


 背後から。


⸻


 声がした。


⸻


「――悠。」


⸻


 聞き覚えのある声。


⸻


 三人が振り返る。


⸻


 倒れていた朝倉が。


⸻


 ゆっくりと。


⸻


 身体を起こしていた。


⸻


「……大丈夫?」


⸻


 悠が駆け寄る。


⸻


「うん。」


⸻


 朝倉は。


 少しだけ笑う。


⸻


「でも。」


⸻


「一つだけ。」


⸻


「聞いていい?」


⸻


「何?」


⸻


「さっき。」


⸻


「誰かの名前。」


⸻


「呼んでたよね。」


⸻


 悠の表情が。


 一瞬だけ固まる。


⸻


「……蓮。」


⸻


「誰?」


⸻


 悠は。


 答えようとして。


⸻


 やめた。


⸻


 まだ。


⸻


 全部は。


⸻


 話せない。


⸻


 けれど。


⸻


 今度は。


 笑って誤魔化さなかった。


⸻


「そのうち。」


⸻


「ちゃんと話す。」


⸻


 朝倉は。


⸻


「うん。」


⸻


 と頷いた。


⸻


 その直後。


⸻


 実験室の奥で。


⸻


 カチッ。


⸻


 何かのスイッチが入った。


⸻


 黒瀬が。


 初めて。


 明らかに動揺した。


⸻


「……まずい。」


⸻


 悠が振り返る。


⸻


「何が?」


⸻


 黒瀬は。


⸻


 答えない。


⸻


 ただ。


 壁の奥から。


⸻


 警告音が鳴り響いた。


⸻


 そして。


 スピーカーから。


⸻


『最終段階・第二フェーズを開始します』


⸻


 無機質な声が。


 実験室に響いた。


⸻


 黒瀬の顔から。


 血の気が引いた。


⸻


「……誰が。」


⸻


「まだ。」


⸻


「実験を続けているんだ……?」

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