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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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もう一人の僕

「君だよ。」


⸻


 その言葉が。


 実験室に響いた。


⸻


 悠は。


 少年を見つめる。


⸻


 顔立ちが。


 自分に似ている。


⸻


 いや。


 似ているなんてものじゃない。


⸻


 鏡を見ているようだった。


⸻


「……僕?」


⸻


 少年は。


 無表情のまま頷いた。


⸻


「正確には。」


⸻


「君から切り離されたもの。」


⸻


「何を。」


⸻


「感情。」


⸻


 悠の呼吸が止まる。


⸻


 黒瀬が。


 満足そうに笑った。


⸻


「十二年前。」


⸻


「君の記憶を消すだけでは。」


⸻


「実験として不十分だった。」


⸻


「だから。」


⸻


「君の中にあった。」


⸻


「強すぎる感情だけを。」


⸻


「別の器へ移した。」


⸻


 悠は。


 少年を見る。


⸻


「じゃあ。」


⸻


「こいつの中に。」


⸻


「僕の……。」


⸻


「そう。」


⸻


 黒瀬が答える。


⸻


「君が。」


⸻


「忘れたかったものが。」


⸻


「全部入っている。」


⸻


 少年が。


 初めて口を開く。


⸻


「怒り。」


⸻


「憎しみ。」


⸻


「恐怖。」


⸻


「罪悪感。」


⸻


「全部。」


⸻


 淡々と。


 読み上げる。


⸻


「そして。」


⸻


「君が。」


⸻


「誰にも見せなかった感情も。」


⸻


 悠の顔が。


 強張る。


⸻


「……僕が。」


⸻


「隠してたもの。」


⸻


「うん。」


⸻


 少年が。


 悠へ一歩近付く。


⸻


「僕は。」


⸻


「君が笑っている間。」


⸻


「ずっと。」


⸻


「苦しんでいた。」


⸻


 悠の胸が。


 強く痛んだ。


⸻


「……ごめん。」


⸻


 思わず。


 謝っていた。


⸻


 少年は。


 首を傾げる。


⸻


「どうして謝るの?」


⸻


「分からない。」


⸻


「でも。」


⸻


「僕が。」


⸻


「君を苦しめた気がする。」


⸻


 少年は。


 少しだけ目を細めた。


⸻


「逆だよ。」


⸻


「僕がいたから。」


⸻


「君は。」


⸻


「笑えた。」


⸻


 悠は。


 何も言えない。


⸻


 ずっと。


 自分の中にあると思っていた。


⸻


 黒い感情。


⸻


 憎しみ。


⸻


 怒り。


⸻


 自分でも理解できない衝動。


⸻


 それが。


⸻


 自分ではなかった。


⸻


 そう思うと。


 少しだけ。


 安心してしまった。


⸻


 けれど。


⸻


 同時に。


⸻


 怖かった。


⸻


「じゃあ。」


⸻


「僕が。」


⸻


「今まで感じてたものは。」


⸻


 少年が答える。


⸻


「残り。」


⸻


「僕に移せなかった。」


⸻


「全部は。」


⸻


 その言葉に。


 澪が顔を伏せる。


⸻


「……そう。」


⸻


 悠が。


 澪を見る。


⸻


「澪。」


⸻


「何?」


⸻


「知ってたの?」


⸻


「うん。」


⸻


「ずっと?」


⸻


「うん。」


⸻


「……どうして。」


⸻


 澪は。


 苦しそうに答えた。


⸻


「悠くんが。」


⸻


「自分を嫌いにならないように。」


⸻


 悠は。


 黙った。


⸻


 そして。


 少年を見る。


⸻


「君は。」


⸻


「どうしたいの?」


⸻


 少年は。


 少し考えて。


⸻


「帰りたい。」


⸻


「どこへ?」


⸻


「君の中。」


⸻


 悠の目が。


 大きく開く。


⸻


「……。」


⸻


「戻れば。」


⸻


「全部。」


⸻


「思い出せる。」


⸻


 少年が。


 悠へ手を伸ばす。


⸻


「でも。」


⸻


「戻ったら。」


⸻


「君は。」


⸻


「もう。」


⸻


「今までみたいに笑えない。」


⸻


 悠の手が。


 震える。


⸻


 それでも。


⸻


 その手を。


 避けなかった。


⸻


「……それでもいい。」


⸻


「悠!」


⸻


 如月が叫ぶ。


⸻


「待て!」


⸻


「零。」


⸻


 悠は。


 静かに笑った。


⸻


「僕。」


⸻


「もう。」


⸻


「自分の一部を。」


⸻


「置いていきたくない。」


⸻


 少年の手が。


 悠の胸に触れる。


⸻


 その瞬間。


⸻


 世界が。


⸻


 暗転した。


⸻


 そして。


⸻


 十二年前の記憶が。


⸻


 今度は。


 途切れることなく。


⸻


 一気に。


⸻


 流れ込んできた。


⸻


 炎。


⸻


 悲鳴。


⸻


 澪。


⸻


 零。


⸻


 黒瀬。


⸻


 そして。


⸻


 自分の手。


⸻


 血に濡れた。


⸻


 幼い自分が。


⸻


 泣きながら。


⸻


 笑っている。


⸻


 その目の前には。


⸻


 一人の子どもが。


⸻


 倒れていた。


⸻


 悠の記憶の中で。


⸻


 誰かが叫ぶ。


⸻


「悠くん!」


⸻


 その声を聞いた瞬間。


⸻


 悠は。


⸻


 すべてを思い出した。


⸻


「……あ。」


⸻


 そして。


⸻


 初めて。


⸻


 自分が。


⸻


 何をしたのかを。


⸻


 理解した。

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