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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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条件

 朝倉が。


 目の前にいる。


⸻


 眠っている。


⸻


 それだけなのに。


 悠の胸の奥が。


 異常なほど騒がしい。


⸻


「……黒瀬。」


⸻


 悠が。


 静かに呼ぶ。


⸻


「何だ。」


⸻


「朝倉さんに。」


⸻


「何をした。」


⸻


「何も。」


⸻


 黒瀬は即答した。


⸻


「少し眠ってもらっているだけだ。」


⸻


「起こせ。」


⸻


「嫌だ。」


⸻


 黒瀬の返事は。


 あまりにも軽かった。


⸻


 悠の口元が。


 少しだけ上がる。


⸻


「そっか。」


⸻


 澪が。


 その表情を見て。


 息を呑む。


⸻


「悠くん。」


⸻


「大丈夫。」


⸻


 いつもの言葉。


⸻


「僕は。」


⸻


「怒ってないよ。」


⸻


 嘘だった。


⸻


 怒っている。


⸻


 今まで感じたことがないほど。


⸻


 腹の底から。


 黒いものが湧いてくる。


⸻


 それでも。


 笑う。


⸻


「……やっぱり。」


⸻


 黒瀬が呟いた。


⸻


「君は変わっていない。」


⸻


「何が。」


⸻


「怒りを笑顔で隠す。」


⸻


「恐怖を冗談で誤魔化す。」


⸻


「苦痛すら。」


⸻


「平気な顔で受け入れる。」


⸻


 黒瀬が。


 機械を操作する。


⸻


 ピッ。


⸻


 部屋の照明が。


 一つずつ消えていく。


⸻


 最後に。


 朝倉だけが照らされた。


⸻


「やめろ。」


⸻


 如月が前へ出る。


⸻


 しかし。


 床から伸びた金属製の柱が。


 一瞬で彼の前に立ちはだかった。


⸻


「零!」


⸻


「大丈夫だ!」


⸻


 如月は柱へ手を当てる。


⸻


 だが。


 びくともしない。


⸻


「……くそ。」


⸻


 黒瀬は悠だけを見ていた。


⸻


「十二年前。」


⸻


「君は同じ状況に置かれた。」


⸻


「大切な人間を。」


⸻


「目の前に置かれて。」


⸻


「自分だけが選択を迫られた。」


⸻


 悠の頭が。


 ズキッと痛む。


⸻


「……やめろ。」


⸻


「思い出したくない。」


⸻


「そうだろうね。」


⸻


 黒瀬は笑う。


⸻


「だからこそ。」


⸻


 機械のスイッチへ。


 指を伸ばす。


⸻


「君の能力は。」


⸻


「ここで最大になる。」


⸻


 カチッ。


⸻


 機械が動き始める。


⸻


 低い振動。


⸻


 空気が重くなる。


⸻


 悠の身体が。


 勝手に震え始めた。


⸻


「……っ。」


⸻


 息が苦しい。


⸻


 頭が痛い。


⸻


 視界が揺れる。


⸻


 それでも。


⸻


 笑う。


⸻


「大丈夫。」


⸻


「大丈夫だから。」


⸻


「悠!」


⸻


 澪が叫ぶ。


⸻


「笑わないで!」


⸻


「……え?」


⸻


「もう。」


⸻


「無理して笑わなくていい!」


⸻


 悠は。


 一瞬。


 何も言えなかった。


⸻


 笑顔を。


 作ろうとする。


⸻


 でも。


⸻


 頬が。


 動かなかった。


⸻


「……。」


⸻


 初めてだった。


⸻


 笑えない。


⸻


 怖い。


⸻


 逃げたい。


⸻


 苦しい。


⸻


 全部。


 隠せない。


⸻


 悠の目から。


 涙が落ちる。


⸻


「……怖い。」


⸻


 小さな声。


⸻


 澪が。


 目を見開く。


⸻


「僕。」


⸻


「怖いよ。」


⸻


「死にたくない。」


⸻


「誰も。」


⸻


「死んでほしくない。」


⸻


 そして。


⸻


 ゆっくり。


⸻


 黒瀬を見る。


⸻


「だから。」


⸻


「朝倉さんを返して。」


⸻


 能力が。


⸻


 一気に膨れ上がった。


⸻


 床が。


 大きく沈む。


⸻


 機械が悲鳴を上げる。


⸻


 黒瀬の表情から。


 初めて余裕が消えた。


⸻


「……これほどとは。」


⸻


 悠の周囲に。


 黒い亀裂のような空間が走る。


⸻


 何かが。


 目覚めようとしている。


⸻


 けれど。


⸻


 悠自身は。


 その力の意味を。


 まだ知らない。


⸻


 ただ一つ。


⸻


 胸の奥で。


 誰かの声がした。


⸻


――笑わなくていい。


⸻


 その声を聞いた瞬間。


⸻


 悠は。


 泣きながら。


 ほんの少しだけ笑った。

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