憎悪の形
写真が。
一枚。
また一枚。
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宙へ浮かんでいく。
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悠の周囲を。
ゆっくりと回り始めた。
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「悠!」
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如月が叫ぶ。
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「力を止めろ!」
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「止めてる。」
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「……何?」
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悠は。
自分の手を見る。
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「これ。」
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「僕がやってるんじゃない。」
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写真が。
突然。
壁へ突き刺さった。
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バンッ!!
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その衝撃で。
部屋全体が揺れる。
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澪が。
悠へ近付く。
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「悠くん。」
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「こっち見て。」
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悠は。
澪を見る。
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「……何?」
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「私を見て。」
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「うん。」
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澪は。
ゆっくり。
悠の手を握った。
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「大丈夫。」
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その瞬間。
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写真が。
床へ落ちる。
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能力が。
少しだけ弱まった。
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「……。」
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悠は。
自分でも驚いていた。
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「澪。」
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「何?」
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「なんで。」
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「僕に触ると。」
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「力が弱くなる?」
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澪は。
少しだけ笑う。
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「昔から。」
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「そうだったから。」
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「……昔から?」
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「うん。」
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澪は。
悠の手を離さない。
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「悠くんが。」
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「怒ってる時。」
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「怖がってる時。」
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「私が手を握ると。」
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「少しだけ。」
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「落ち着いた。」
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悠は。
何も言えなかった。
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そんな記憶。
自分にはない。
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でも。
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不思議と。
手の温度だけは。
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知っている気がした。
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◇
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「……まだ終わってない。」
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黒瀬の声。
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三人が振り返る。
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いつの間にか。
部屋の入口に。
黒瀬が立っていた。
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「むしろ。」
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「ここからだ。」
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黒瀬が。
リモコンのような機械を取り出す。
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カチッ。
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壁の奥から。
低い機械音。
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ウィィィン……。
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床が開く。
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「何だ……?」
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地下から。
白い光が漏れてくる。
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黒瀬が。
悠を見つめる。
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「君の記憶は。」
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「完全には消えていない。」
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「だから。」
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「もう一度。」
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「同じ条件を作ればいい。」
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「……同じ条件?」
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黒瀬は。
淡々と答える。
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「十二年前。」
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「君が能力を最大まで引き出した時と。」
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「同じ条件だ。」
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悠の表情が。
固まる。
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「やめて。」
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澪が。
黒瀬を睨む。
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「もう。」
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「この子を壊さないで。」
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「壊した?」
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黒瀬は。
首を傾げる。
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「私は。」
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「彼の可能性を引き出しただけだ。」
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「ふざけないで!」
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澪が叫ぶ。
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悠は。
そんな澪を見つめる。
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「澪。」
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「……何?」
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「十二年前。」
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「僕が。」
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「一番怖かったことって。」
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澪は。
答えない。
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目を逸らす。
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「……澪?」
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「言えない。」
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「どうして。」
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「それを言ったら。」
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「悠くんは。」
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「全部思い出すから。」
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悠は。
静かに息を吐いた。
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「だったら。」
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「僕が聞く。」
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澪の目が。
揺れる。
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「教えて。」
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「僕は。」
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「何を。」
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「怖がってた?」
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長い沈黙。
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やがて。
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澪が。
小さく口を開く。
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「……私。」
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「え?」
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「悠くんが。」
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「一番怖かったのは。」
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「私が死ぬこと。」
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悠の瞳が。
大きく揺れた。
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その瞬間。
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地下から。
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何かが。
ゆっくりと。
上がってきた。
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鉄製の台。
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そこに。
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一台の古い機械。
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そして。
その隣には。
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朝倉が。
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眠ったまま。
横たわっていた。
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「……朝倉さん。」
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悠の声が。
低くなる。
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黒瀬が。
淡々と言う。
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「さて。」
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「十二年前の続きを。」
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「始めようか。」
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悠の周囲で。
空気が。
再び歪み始めた。
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けれど。
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今度は。
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怒りだけではなかった。
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恐怖。
悲しみ。
罪悪感。
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そして。
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自分でも名前を付けられない。
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真っ黒な感情。
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それら全部が。
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一つに。
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重なっていく。




