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壊れた僕は、今日も笑う。  作者: ニィギンヤ


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笑っている理由

 空気が。


⸻


 歪んでいた。


⸻


 悠の周囲だけ。


⸻


 まるで熱に揺らめいているように。


⸻


「……悠。」


⸻


 如月が低く呼ぶ。


⸻


「それ以上。」


⸻


「力を出すな。」


⸻


「どうして?」


⸻


 悠は笑った。


⸻


「せっかく。」


⸻


「使えるようになったんだから。」


⸻


 その笑顔に。


⸻


 如月の表情が曇る。


⸻


「そういう意味じゃない。」


⸻


 黒瀬が興味深そうに悠を見る。


⸻


「なるほど。」


⸻


「感情が引き金になっている。」


⸻


「やはり。」


⸻


「記録通りだ。」


⸻


「……記録?」


⸻


 悠の笑顔が。


⸻


 一瞬だけ消える。


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「僕のこと。」


⸻


「どこまで知ってる。」


⸻


「全部だよ。」


⸻


 黒瀬は淡々と答える。


⸻


「君が何を怖がるのか。」


⸻


「何に怒るのか。」


⸻


「どんな時に笑うのか。」


⸻


 悠の指先が。


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 ぴくりと動いた。


⸻


「……笑う?」


⸻


「そう。」


⸻


「君は。」


⸻


「昔から。」


⸻


「笑っている時が一番危険だった。」


⸻


 澪が。


⸻


「やめて。」


⸻


 と呟く。


⸻


 黒瀬は構わず続けた。


⸻


「十二年前。」


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「君が初めて能力を暴走させた時も。」


⸻


「君は笑っていた。」


⸻


 悠の呼吸が止まる。


⸻


「……僕が?」


⸻


「そう。」


⸻


「笑いながら。」


⸻


「周囲の人間を。」


⸻


「全部。」


⸻


「吹き飛ばした。」


⸻


 頭の奥。


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 何かが。


⸻


 軋む。


⸻


 白い床。


⸻


 赤い光。


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 倒れている人。


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 泣いている子ども。


⸻


 そして。


⸻


 自分。


⸻


 笑っている。


⸻


「……違う。」


⸻


 悠は頭を押さえる。


⸻


「僕は。」


⸻


「そんなこと……。」


⸻


「思い出せ。」


⸻


 黒瀬が言った。


⸻


「君自身が。」


⸻


「何をしたのか。」


⸻


「それを思い出せ。」


⸻


「嫌だ。」


⸻


 即答だった。


⸻


「嫌だ。」


⸻


「思い出したくない。」


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 その瞬間。


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 悠の能力が。


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 大きく膨れ上がった。


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 床が。


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 ミシッと軋む。


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 壁に亀裂が走る。


⸻


「悠!」


⸻


 如月が叫ぶ。


⸻


「止めろ!」


⸻


「止められない……!」


⸻


 悠は笑っていた。


⸻


 涙を流しながら。


⸻


「大丈夫。」


⸻


「大丈夫だから。」


⸻


「僕は。」


⸻


「大丈夫。」


⸻


 何度も。


⸻


 自分に言い聞かせる。


⸻


 けれど。


⸻


 胸の奥では。


⸻


 別の声が叫んでいた。


⸻


――殺せ。


⸻


 黒瀬を。


⸻


 目の前から。


⸻


 消してしまえ。


⸻


 そうすれば。


⸻


 全部終わる。


⸻


 その感情に。


⸻


 能力が反応する。


⸻


 床が。


⸻


 一気に砕けた。


⸻


「悠!!」


⸻


 如月が飛び込む。


⸻


 悠の腕を掴む。


⸻


「俺を見ろ!」


⸻


「……零。」


⸻


「そうだ。」


⸻


「俺だ。」


⸻


「昔。」


⸻


「三人で約束しただろ。」


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 悠の瞳が揺れる。


⸻


「……約束。」


⸻


「そうだ。」


⸻


「どんなことがあっても。」


⸻


「三人で生きる。」


⸻


 その言葉に。


⸻


 澪が泣きそうな顔をする。


⸻


「……違う。」


⸻


 小さく呟いた。


⸻


「零。」


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「それは。」


⸻


「約束じゃない。」


⸻


 二人が。


⸻


 澪を見る。


⸻


 澪は。


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 震えながら続ける。


⸻


「本当の約束は。」


⸻


「別にある。」


⸻


 悠の胸が。


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 嫌な音を立てた。


⸻


「……何?」


⸻


 澪は答えない。


⸻


 ただ。


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 ポケットから。


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 一枚の古い紙を取り出した。


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 そこには。


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 幼い三人の指で押された。


⸻


 赤いスタンプ。


⸻


 そして。


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 一文。


⸻


『三人のうち、一人だけが忘れる。』


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 悠は。


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 その文字を見つめる。


⸻


 意味が。


⸻


 分からない。


⸻


 けれど。


⸻


 如月の顔だけは。


⸻


 明らかに青ざめていた。


⸻


「……それ。」


⸻


「どこにあった。」


⸻


 澪は。


⸻


 静かに答える。


⸻


「十二年前。」


⸻


「悠くんの。」


⸻


「血で書いた。」

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