被験者Y-17
「……被験者。」
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その言葉を聞いた瞬間。
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悠の中で。
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何かが切り替わった。
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「誰のことを。」
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「言ってるんだ。」
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黒瀬は穏やかに笑う。
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「君だよ。」
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「神代悠。」
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「十二年前。」
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「君はここで。」
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「私の実験を受けた。」
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胸の奥が。
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ざわつく。
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「実験……。」
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悠は一歩後ろへ下がる。
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頭の中に。
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断片的な映像が流れる。
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白い部屋。
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拘束具。
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眩しい照明。
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誰かの泣き声。
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「……やめろ。」
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頭を押さえる。
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「思い出さなくていい。」
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澪が言った。
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黒瀬は笑う。
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「いや。」
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「思い出してもらわないと困る。」
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「君が忘れたことで。」
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「実験の成果まで失われた。」
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悠は顔を上げる。
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「成果……?」
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「そう。」
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黒瀬が。
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悠を見つめる。
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「君の能力だ。」
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その瞬間。
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悠の右手が。
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勝手に震えた。
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熱い。
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血液が。
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逆流しているような感覚。
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「……っ。」
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床。
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足元の小石が。
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ふわりと浮いた。
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「……え?」
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悠自身が驚く。
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小石は。
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宙に浮いたまま。
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ゆっくり回転する。
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黒瀬は満足そうに笑った。
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「やはり。」
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「まだ残っている。」
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澪の顔から。
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笑顔が消える。
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「黒瀬。」
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「もう。」
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「この子に触れないで。」
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「触れる?」
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黒瀬は首を傾げる。
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「私は何もしていない。」
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「彼自身が。」
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「自分の力を使っているだけだ。」
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小石が。
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突然。
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粉々に砕けた。
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パラパラと。
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床へ落ちる。
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「……。」
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悠は。
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自分の手を見る。
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知らない力。
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なのに。
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どこか懐かしい。
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「僕は。」
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「何なんだ。」
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黒瀬は答えない。
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代わりに。
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一冊のファイルを取り出した。
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表紙には。
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『Y-17 能力適性記録』
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「君は。」
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「特別だった。」
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「平均的な能力者より強い。」
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「だが。」
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「まだ完成していない。」
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悠は睨む。
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「……完成?」
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「条件がある。」
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黒瀬は。
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ファイルを開く。
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「君が。」
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「本当の力を使える条件は。」
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そこで。
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一度言葉を切った。
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「極度の精神的負荷。」
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悠の表情が固まる。
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「……。」
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「恐怖。」
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「怒り。」
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「絶望。」
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「そういった感情が。」
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「君の能力を。」
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「異常なほど引き上げる。」
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澪が。
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苦しそうに目を伏せる。
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「だから……。」
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悠は澪を見る。
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「だから何?」
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澪は。
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答えられない。
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黒瀬が代わりに口を開く。
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「鳳園で。」
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「君に何が起きたのか。」
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「それを思い出せば。」
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「君は。」
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「もっと強くなれる。」
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悠の背中に。
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冷たい汗が流れる。
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強くなれる。
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その言葉より。
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何故か。
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澪の顔が。
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ずっと怖がっていることの方が。
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気になった。
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「澪。」
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「何を知ってる。」
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「……。」
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「僕に。」
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「何をした?」
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澪は。
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ゆっくり目を閉じる。
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「違う。」
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「私は。」
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「悠くんに。」
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「何もしてない。」
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「でも。」
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「助けられなかった。」
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その瞬間。
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遠くで。
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何かが爆発した。
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ドォン!!
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建物全体が揺れる。
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黒瀬の表情が。
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初めて崩れた。
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「……来たか。」
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「誰が?」
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悠が尋ねる。
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黒瀬は。
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窓の外を見る。
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「如月零だ。」
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そして。
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「彼は。」
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「君を連れ戻しに来た。」




